第22話 紅結竜



――約一時間前。


高尾、佐藤休憩中。



「……高尾さん、このお茶って」


――ドゴオオ!!


振り抜かれる布にくるまれた武器。それを俺は瞬時に両腕でガードし、背後の岩壁に叩きつけられた。攻撃をくらった瞬間俺は気が付く。


(……これ、魔力が)


「うわお!なんつー反応速度だよ。今のをガードするとか、流石中層から帰還できただけあるってか~?はは!」

「……このお茶、何か仕込んだの?」

「ああ、ちょっとした毒をな。アルヴスコーピオって魔物知ってるか?あいつの毒は体内に入ると魔力を打ち消し始めるって効果があんだよ」


アルヴスコーピオ。レートBの巨大なサソリの魔物か。


「ま、そのままぶち込むと即死するからかなーり薄めた毒だけどな?」

「なんでわざわざそんなことを?」

「そりゃじっくり楽しむために決まってんだろが。せっかく殺すんなら、楽しまなきゃでしょー」

「……あんた、もしかして最近話題のシーカー殺し組織の」

「そうそうその通り。でもま、気が付くのが遅かったな。ほら、どんどん魔力が練れなくなってきただろ。魔力はシーカーの生命線。そいつがなきゃA級シーカーですら何もできねえ」


――ズガンン!!


再び武器をスイングしてくる。それをまた腕で受けたが、魔力ガードがままならず骨が割れる音がした。痛みに気を取られたその瞬間、髪をわしづかみにされ地面へ叩きつけられる。


「こっからじっくり料理したげるよ、佐藤くん。残念だったね、せっかくダンジョンの遭難から生きて戻ってこれたのに……スキル覚醒といい、どうやら運を使い切っちゃったみたいだねえ」


……あー、くそ……どうするかな。


「おっ」


体をひねり肘を奴目掛け撃ち込む。だが、逆に腹部へ膝を入れられた。


「――がはっ、……ッ」

「無駄だよ。戦闘経験も体術も僕が上。魔力も使えないのに勝てるわけねーでしょ、ひゃはは」


肩を抑えられ十数発膝を撃ち込まれた。そして、また髪を掴まれ引きずられる。

そのままずるずると移動し、開けた湖のあるエリアへ出た。

滝が流れ落ちるその湖には大きな渦が巻いていて、どこかへ流れているようだった。


「こんくらいの広さなら、アイツを出しても良いかな……」


奴の魔力が一瞬揺らいだ。何かのスキルを発動する予兆。そこを狙って俺は逃げる。


「!?、てめえ、待てこら!!」


鋭く背に走る痛みと衝撃。どうやらナイフを投げられたようだった。しかしそんなものに構ってはいられない。俺はそのまま湖へと飛び込む。


そして流されどこかの浅瀬へ漂着した。


「……ふう……」


水中で『スキルポイント+』を解放。それにより身体強化スキルが発動。


【身体強化:毒耐性 《level.10》】自身の毒耐性を大幅に上げます。

『副次効果』毒属性効果時間15%軽減。


このスキルと大幅に増加した魔力により、奴が盛ったアルヴスコーピオの毒を数秒で無効化する事に成功。


「……いやー、ちょっと危なかったな。スキル無し、魔力無効化の毒あり状態でCランク相手に戦うとか無理ゲーすぎる……」


とは言え、この能力をあいつに見せるわけにはいかなかったしな。仕方ない。

さて、どうやって戻ろうか。……しかし、まさかまたダンジョンで迷う事になるとはな。


背に刺さった二つのナイフを抜く。え、待って、これにも毒あるんですけど。いや殺意高過ぎー。毒耐性スキル無かったらヤバかったなこれ。

獲物に刺さると注入されるギミックがある凶悪なナイフ。

俺はヒールを掛け傷口を閉じながらぼんやり考える。


(……そう言えば、あいつら大丈夫かな)


須田とミルティーさん。あの二人以外はおそらくあの殺し屋集団なのだろう。俺達三人が今回の獲物だったに違いない。


……多分襲われるよな。助けたい気持ちはあるけど、あのクラスがもう一人。しかも大北はB級に近いCだと思うんだよな、かなり強い。あの音を殺した歩き方とか要所要所の動きを見るに相当戦いなれている。

とてもスキルオフにして勝てる相手じゃない。……でも、この能力は見せたくない。外套を着こんでフード深く被ったとしても、顔を見られないとは限らない。だから身バレのリスクは決して低くない。


(仕方ない……逃げるか。ダンジョンの外へ)


ダンジョンでは全て自己責任。彼らもシーカーだし、命を失うかもしれないという覚悟をしてここには来ているはず。


(……俺がスキルを開示してまであの二人を助ける義理はないからな)


そうだ。この力は俺だけの物じゃない。家族や大切な人を守るための力。誰彼助けようなんて、そんな傲慢さはいずれ身を亡ぼす事になる。

ここは悪いけど、一人で逃げよう。そして応援を呼ぶ……運が良けりゃ助かるはずだ。


――わん。


脳裏に誰かの声が聞こえた。その声は、どこか懐かしさがある暖かみのある声だった。


「……あー」


……いやいや、そんなこと言ってもさ。だって、俺が遭難した時誰も助けに来てはくれなかったでしょ?

何度も何度も死にかけて、死んでいてもおかしくなかった。今、二人が置かれてる状況ってのはあの時の俺と全く同じ。


確率の低い救助を待つか、自分の力で何とかするか……それしかない。


――樋口先生の顔が過る。


……いや……まあ、そうだな。先生は諦めずにダンジョンに来てくれてたな。でも、だけど。


そもそも須田は俺をずっと見下しこけにし続けてたんだぞ。あんな奴のためになんで俺が能力を使ってまで助けなきゃならないんだ。

ミルティーさんにしたってそう。会ったばかりで殆ど関りなんてない。いわば他人、俺には関係ない。


俺がそこまでして助けてやることは無いよ。さっさと帰ろう。下手すりゃ今度は俺も殺されかねないし。


――母親の顔が過った。


そうだよ。俺の力はあの人たちのために使うんだ。多くの人のためにあるわけじゃないし、全部を救えるはずはない。心が痛まないわけじゃない。ミルティーさん良い人だったし。


……でも、線引きは大事だ。なにもかもは無理。


取捨選択。色々な物を引き換えに俺は命を得てきた。


命を奪う痛み、それによって削られる心。他にも、様々な物を代償に。


だからこそ、俺はあの過酷な世界で生き残れたんだろ。


今回も同じ。損得を天秤に乗せ傾いた方に無心で従うだけだ。


心を闇に鎮めろ。



――……ふと、叫び声が聞こえた。



ダンジョンの底、暗闇に落ちた瞬間に聞いた彼女の叫びが。


それが逃げようとする足を止めた。


(朝比奈……)


氷の氷柱、彼女の父親の表情が思い返され胸が締め付けられた。


……須田、ミルティーさん。あの二人はシーカー、そうなっても仕方がないし、覚悟はするべき。このダンジョンでは全てが自己責任で、強者の搾取によって命が失われるのは自然の摂理。


そう、死んでも仕方ない。


……。


……。


「……でも、親は悲しむだろうな」


二人の死が頭に過ぎる度、悲しむ親の顔が浮かぶ。

胸が苦しくなって、どうしても立ち去る気にはなれない。


「……はあ……」


俺は彼らの魔力を探知する。『直感』スキルによりだいたいの位置を割り出すことが可能だ。

……下の方にいるのか。ずいぶんと流された気がしたけど、もっと下の方なのか。

だったら、この滝つぼに入って流された方が早いかな。この激流に流れる魔力は彼らの所まで通じてそうだ。


俺は【漆黒の外套】を出現させた。


「今回だけ、な」


――ドボンン!!



***



顔面蒼白のD級二人と、目ん玉落ちそうになってるC級二人。須田は……結構酷い感じだな。

ミルティーさんは気絶したか。


俺は外套の中に手を突っ込み彼らに見えないようストレージ内からバスタオルを取り出した。これはお家の風呂用バスタオルで、いちいち持ち運ぶのが面倒で入れっぱなしにしてたやつ。でも、今朝ちょうど新品にかえたばかりのタオルだから……まあ、問題ないでしょう。

それをミルティーさんの体に被せその場に寝かせた。


(……ま、寝ていてくれた方が都合が良い。須田も彼女も)


「……お、お前は……なにもんだ?」


声を震わせ大北はこちらへ槍を向けた。なにもんだって言われても身バレ防止の為、当方声が出せないんだが。


「な、なんつう魔力を纏ってんだ……エビルスライムの数倍、いやそれ以上か……」


……つーか、律儀に会話なんてしなくても良いよな。さっさとやっちゃおう。


――ヒュッ


「――え、なっ!?」


俺はまず須田の側にいたD級の一人へと接近し、片手で首を掴み絞める。折らないように慎重にね。


「――……ぐぎぎ、ぎ……かはっ、」


するとすぐに失神し、白目を剥き泡を吹いた。その場に捨て置き、一匹目終わり。


「うわっ、わ、わあああーー!?」


即座に逃げようとするもう一人のD級。俺に背を向けるとはな、死にたいらしい(殺さないけど)瞬時に足を掴み、そのまま宙に放り投げる。とんでもない高さに打ち上げられた彼は洞窟内に悲鳴をこだまさせ落ちてくる。


「うおおおおおおおお――……――おおおおおおおおああ!!!?」


顔面が地面に直撃する直前で再び足を掴んでキャッチ。簡易紐無しバンジーだ。彼は大量の尿を漏らし失神。これで二匹目終了。


二人ともしばらく起きはしないだろうけど、万一があるやもしれんからな。俺は外套の中に手を入れ再びストレージ内からロープ的なモノを取り出し二人を拘束した。

なんかはたから見たら四次元なんとかみたいじゃない?俺の外套。


(……さて、そんじゃラストC級二人だな。ここが一番の難関だ)


おそらく俺と同等に修羅場をくぐっているであろう戦闘に長けたシーカー。そして対人戦ともなればシーカーを殺しまくってるこいつらの方に分があるだろう。

しかもこっちは他のスキルをあまり見せたくはない。あとで色々発言されると面倒だからな。協会での執拗な取り調べが同パーティだった俺にも及んで、もしかしたらこの力がバレるかもしれん。


(……魔力操作と体術だけであのC級二人を仕留めないといけない。殺さずに)


――さて、どう攻めるか。


「……高尾、あれ出せ」

「あれ?あれって……え、あれを!?でも、死体の後処理に困りますよ大北さん、現地の魔物で殺さないと」

「言うてる場合じゃねーぞ高尾。お前も見てたろうが、あいつの木村と多田を処理したスピードとエビルスライムの硬いコアを粉砕した拳の威力を。洗練された魔力操作、それによって生まれる火力と速度、盾が無きゃ俺らも二の前だぜ」

「ですね、仕方ないかぁ」


高尾ため息をつくと、腰のポーチから紫の玉を取り出した。野球ボールくらいの透き通った球体。それを投げ、地面に当たると煙が噴き出した。


(……これが、召喚玉。魔獣を封じる魔石か。初めて見た)


煙の中からは巨大なサソリ型の魔物が現れた。アルヴスコーピオ。紫の外殻、長い槍のような尾の針。真っ赤な大盾のような二つの鋏の腕。

B以上の高ランク帯ダンジョンに生息している強力な魔物。


高尾が笛を吹く。するとアルヴスコーピオは二人を守るように両腕の盾を前に出した。


「高尾、わかってんな?あの黒外套の攻撃力はかなりヤバい。なんせ魔力を込めただけの拳でエビルスライムのコアを一撃で破壊出来ちまうバケモンだ。だが、アルヴスコーピオの強固な盾ならそれも防げる。ただ、問題はやつの異様なスピード……」

「いやいやダイジョブっしょ。さっきので分かりましたよ、あいつ人殺しはできないみたいです。なら思いきりのいい攻撃はできないでしょう。いくら速くてもそれなら余裕で防げますよ、はは」

「……俺が仕留める。油断すんじゃねえぞ。いくぜ」


大北が大槍を構えた。二股に分かれているそれは、雷の属性を宿しているらしく、電撃が流れていた。


――バキィ、と大北が地面を砕き踏み込んだ。瞬く間に俺の前まで到達。しかし槍での攻撃ではなく、体当たりするように体を当て、槍を回転し刃と逆の柄で攻撃してきた。

虚を突かれた俺は後手に回る。回避したが次に本命の攻撃であろう電撃の流れる刃が顔目掛け襲ってくる。


が、それを俺は魔力を纏った手刀でパリィ。電気を無視できるレベルで凝縮させた魔力で弾き飛ばす。しかしその瞬間気が付く。


(――軽い!?)


弾いた槍が異様に軽かった。大北の姿を確認しようとした。しかしそこにはいつの間にかアルヴスコーピオの大きな盾があり、その姿は見えなかった。

盾がそのまま俺へ突っ込んでくる。それを片腕で防ぐ。後ろにはミルティーさんがいてこのまま吹っ飛ばされれば巻き込んでしまう。


――シュパッ


と、一瞬気を他にとられた瞬間、盾の死角からナイフで攻撃してきた大北。


(大槍に意識を集中させ、本命の攻撃はナイフだったのか!)


バランスを崩す俺へ、そのまま連続で斬撃を放つ大北。


「ひゃははは!!」


アルヴスコーピオの盾も大北の連撃の隙間を縫うように攻撃を仕掛けてくる。殴り飛ばそうとしたり、振り下ろし潰そうとしたり。そのコンビネーションの美しさに彼らがどれほど腕の立つシーカーなのかがわかった。


つけ入る隙が無く完璧な攻め方。攻守の交代も完璧にタイミングが合っていてこちらの反撃を許さない。


(――でも、だいたいわかった)


大北がナイフを突き出した瞬間、俺は素手でパリィ。大北が後退した瞬間、アルヴスコーピオが大盾で守る――ここだ。俺はしゃがみ込み姿勢を低くした。盾がどけられたその瞬間、大北が俺を見失っていた。

たった一秒にも満たない僅かなズレ。だがそれで充分だった。瞬時にナイフを叩き折る。何度も繰り返しパリィでダメージを蓄積させた結果、最後の一押しで容易く粉々に砕け散った。


「ちっ」


上からアルヴスコーピオの尾が降ってくる。ドドドド、と幾度も突き刺す高速の毒針での連撃。流石にこのレベルの魔物の攻撃を素手でパリィできないので躱しつつ、後方へ逃げようとする大北へと接近。しかし追撃を阻止するように盾が二人を遮る。


(的確な魔獣のコントロール!良い腕だな!)


「ははは、残念でした!!」


高尾が楽し気に笑う。大北は後退し大槍を拾おうとした、がしかし。


「――!? 槍が無い!!」


――ドゴオオ!!


高尾の腹部に槍の柄が深々と突き刺さる。そう、俺が大北よりも先に拾っていた。


「――ごはぁっ、ぶふっ……」


俺は大北との戦闘に集中している風にみせ、ずっと高尾を狙っていた。

アルヴスコーピオの巨体をブラインドに攻めてくる奴らの作戦を逆手に、俺は一瞬の隙をつき落ちている槍を拾い投擲。殺さないように刃の逆、柄の方を奴に向けて投げた。


(――けど、くそ!)


加減が上手くできなかった。かなり力を弱めて投げたにも関わらず、高尾は吐血し吹っ飛んだ。かなりの距離を転がって、両手をひろげ天を仰いでいた。ぴくぴくと痙攣している。


――ヤバい。ぞくっと背筋が凍った。今まで多くの怪我や症状を目の当たりにしてきて、直感した。あれは放っておけばすぐに死ぬ、と。


(……ヒールを、いや……俺が魔法をかけたら、その残滓で後々ヒールをしたのが俺だと判明してしまう)


――けど、人の死は……そんなものは背負いたくない。


「――!!」


――ドゴオオオンン!!!


高尾のコントロールから解放されたアルヴスコーピオ。近くにいた俺を獲物として認識し、襲い掛かってくる。


「くそ!」


凄まじい猛攻が俺を襲う。身体強化のみでこのレベルの魔物を相手取るのはかなり辛い。

アルヴスコーピオはその巨体に似使わぬ俊敏な動きを見せる。大きな鋏と毒針の連続攻撃は途轍もなく、須田やミルティーさん、他の人間を巻き込まないようにいなすのが精いっぱいだった。


……ヒールを、高尾に飛ばす隙すら無い!!


「――『ヒール』!!」


高尾の元へ駆けつけた大北が彼にヒールを掛けた。かなりの魔力出力。その綺麗な修復光に彼が相当なヒーラーであることが分かった。


(高尾は意識が無い、大北はヒールに集中していてこちらを見ていない……今しかない!)


俺はアルヴスコーピオの影に隠れるように移動、そして――


「――……魔弾ッ 」


――ドドドオオッ!!!


俺の影から飛び出した三つの黒い弾が、アルヴスコーピオの盾を吹き飛ばした。ばらばらになった自分の腕に驚き一瞬怯んだアルヴスコーピオ。頭上から落ちてきた毒針の攻撃を躱し、急所である頭部へ掌を当てる。


【漆黒の刃 《level.25》】


――ズガンッッ!!


刃を頭部内へ出現させた。そしてそのまま形状を《短剣》から《長剣》へと変え刀身を伸ばす。


――ズブブブッッ!!!


刃がアルヴスコーピオは頭の先から内部の心臓部分まで串刺しにした。これで間違いなく死んだ。


その場に倒れ込み、魔力が霧散。生気が消え失せたアルヴスコーピオ。


――ピロン


「……な、なにいいいい!!?」


大北が叫んだ。


「B級でもソロで狩れないアルヴスコーピオをソロで殺しただと!?ありえねえ、お前……まさかA級シーカーか!!?」


まあ、そうなるか。こいつは今俺の魔弾も刃も見ていない。素手で倒したようにみえりゃ俺がA級に見えるだろうな。

高尾の様子をみる。流石だな、もう危機的状態は脱したようだ。


(高尾は寝てる……あとは大北だけだな)


「うおおおおお!!」

「!」


大北は走り出した。そして俺は直ぐに気が付く、やつの進行方向にはミルティーさんがいることに。


(……人質にする気か!?けど、たどり着く前に捕まえられる!!)


――ブオオオオオ!!


(!? 笛の音!?まさか)


寝ていたはずの高尾が起き上がり、大笛を拭いていた。

気絶してるフリ!?あの短い時間で完全に回復させていたのか!!くそ、マジでいい腕してるな大北!!


「はっはははー!!ここらで一番強ええ魔物を呼んでやったぜ!!他にも色々おまけ付きでなぁ!!さーあ、何がくるかな!?Dレート?C?お強い黒外套さん、せいぜい楽しんでくれや!!」

「笑ってねえで逃げるぜ、高尾!!」


ミルティーさんへ向かっていたはずの大北が高尾の方へ戻っていた。どうやら最初から逃げる気だったらしい。


周囲の水辺から大量の魔物がわらわらと這い上がってきた。低レベルのスライム系から半魚人系、黒緑竜レベルの危険度レートC水龍まで現れる。

俺は急いで須田とミルティーさんを一か所に集め、更にD級の二人も引っ張ってこようと向かった。だが、その時、


――ズズズ……


「……これは」


禍々しい魔力が迫っているのを感じた。この気配は、初めてデュラハンと対峙した時のような。


――ズガアアンン!!!!


目の前でD級の二人が潰れた。彼らがいたその場を抉り落とし巨大な蛇のような長い尾がそこにあった。


「……ッ」


***


湖畔エリアの出口までたどり着いた大北と高尾。中の人間が逃げられないよう、結界を張る魔石を使う為立ち止まった。


「早くしろ、高尾!!」「まあまあ、ここまで来たらもうダイジョブっしょ!黒外套、あいつら見捨てられねえみたいだし――」


――ボッッ


唐突に高尾の声が消えた。


見れば、高尾の頭が吹き飛ばされていた。手に結界魔石を持ったまま、頭のない彼は硬直している。


「な、なにいいい!!?」


驚き叫ぶ大北。近くの水辺から青色の竜が顔を出す。禍々しく炎のような紅い魔力を纏う、蛇のように長い体を持つ魔物。高尾の頭を吹き飛ばしたのはこいつだと大北は理解した。


「……紅結竜、アンネガルスィ……!!!」


Bランク帯のダンジョンを根城にしている魔物で、アルヴスコーピオを遥かに凌ぐレートAのボス系モンスター。討伐にはB級以上のシーカーが複数必要で、A級ですらソロでの戦闘を絶対に避ける危険な竜。


「まさか、こんなヤバい竜がこのダンジョンに徘徊してたとは……!!!」


つーことは、このダンジョンはBランク以上のダンジョンだったって訳か!!もう少し調査を進めてから使えばよかったぜ、くそ……!!!


「――……はっ!?」


――ボゴオオオオンン!!!


アンネガルスィの巨大な尾が大北を吹き飛ばした。大北でさえ反応が追い付かない程の素早く強烈な横なぎの一撃。それにより出口が崩落。


紅結竜は再び水中へと潜り、佐藤の元へ向かった。



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