第21話 待ち人
「姉ちゃん」
「蒼汰!」
ぼふん、と抱き着いてくる小学三年生の弟。
「きょうもやべー怪物たおしてきたんだろ!?」
「そだよー、頑張ってきたよ姉ちゃん。今日なんてドラゴン倒したんだから」
「ど、どど……ドラゴン!?すっげー!!かっこいい!!」
「でしょでしょ。姉ちゃん強いんだから。ふふん」
「じゃあさじゃあさ、姉ちゃんの吹く火とドラゴンの吐く火、どっちが強ええの!?」
「いや、あたしは火吹かないってーの」
「吹かねえのぉ!?」
「あんた、姉ちゃんをなんだと思ってんのさ」
「ばけもん」
「ばけ!?ちょ、おいこら!まて、逃げんな」
「あははは!」
鈴木 実花。高校二年。D級シーカー。
本来、専門機関での訓練を受け平均二十三歳からダンジョンへ任務へ行き始める。
だがあたしは必死の努力と恵まれた才能の末、まだ十七という最年少でのシーカーランク取得しダンジョン任務へと参加を許されていた。
(……今日も何とか乗り切った)
爆炎の紅姫。炎系スキルを操るあたしはそう呼ばれ、そのへんのインフルエンサーや芸能人よりも有名だった。
両親が死に残されたあたしと蒼汰の二人。一人で背活費を稼がなければと必死に努力した。あたしの中にあったスキルと魔力量の多さを磨いて、頑張った結果のシーカーランクDだった。
シーカーは死と隣り合わせの命がけの仕事。けどそれだけに実入りが良く、あたしと蒼汰の生活費が稼げていた。亡くなった両親に入れてもらった学校、学費も稼げている。
「姉ちゃんいってらっしゃーい!」
「行ってきまーす」
……蒼汰がいれば、どんなに怖くても私は頑張れる。
――しかし。
「ただいまー!って、……蒼汰?……蒼汰、どうしたの?起きて、蒼汰!!」
いつもの『おかえり』は返っては来なかった。
突然、弟は深い眠りに落ちてしまった。
お金が必要だった。これまで以上に多くのお金が。だからシーカーランクを上げ、C級に。
危険で難易度の高いダンジョンへと行くようになった。
「――……はあ、は……今日は、マジでしんだかと、思ったぜ……」
片腕を失くしたリーダー。もう少し戦闘が長引けばあたしもそうなっていたかもしれない。
彼はあたしよりも数段強く、パーティのレベルも今回の任務も普通に終われるくらいはあった。
(……なのに、こんな……)
「……リーダー、うちのヒールじゃ腕はもう」
「……ああ、痛みを和らげてくれるだけでも助かる……」
「クソ。B級ヒーラーの麻里奈が無理ならもうお手上げか……実花さんは大丈夫?」
「……あ、は、はい……」
ランクの高いダンジョンは莫大な金が入る。でも、いつ命を失ってもおかしくない世界だった。
(……でも、蒼汰の入院費を稼がないと……)
これは必要な事。お金が無ければどの道生きてはいけない。けど、あたしがもしこうなったら?そして、命を失ったら?
蒼汰は生きていけない。
それからは低ランクのダンジョンへ潜るようになった。危険は減ったが、みるみる減っていく貯金。他にバイトも始めたが焼け石に水だった。どう考えてももう数か月ももたない。
国は何もしてくれない。自分でなんとかしないと……でも、どうすれば。
「うわー、このダンジョンすげえ綺麗だな」
一緒のパーティメンバーがそう言った。
「だよな、俺も最初見た時感動したもん」
「一般人は見れねえからな。シーカーの特権だな、こりゃ」
(……確かに……この世界は、美しい)
今まで必死過ぎて気が付かなかった。ダンジョン内の高濃度魔力が影響し生まれる美しさ。絶妙なバランスで形成されるそれは、人の住む世界にはない感動を生む。あたしはこれだと思った。
そしてダンジョンを配信するチャンネルを作った。すると登録者数は凄まじい勢いで増えた。
そのおかげでなんとか蒼汰の命を繋げられるくらいのお金が入った。
高ランクダンジョンの報酬に比べれば全然だったけど。でも、低ランクダンジョン報酬と配信で稼げる金額でなんとかなるくらいには稼げた。
だから、あたしは誹謗中傷をうけながらも無我夢中でその活動をつづけた。弟の命を繋ぐために。
(……でも、ごめんね……もう、なにも……)
冷たく暗い世界。ぼんやりと映る、殺人鬼たちの姿。
――ふと佐藤さんの顔が思い浮かぶ。
実は彼とは前に会っていた。
以前、シーカーの訓練施設で練習をしようと行った時の事だった。遅い時間、誰も生徒がいないだろうと思って訪れたその時間だったが、ひとりだけそこで剣を振っていた。
真剣な顔で、ひたすらに。どこか必死そうなその顔に、自分が重なって見えた。
「お、鈴木どうしたこんな入口で突っ立って……って、あ。あいつまたこんな遅くまで。やりすぎは駄目だっつーの。ったく……すまんな、今止めさせるからちょっと待っててくれ」
「……樋口先生」
「おーい、佐藤。そろそろあがれー!もう十時になるぞー」
「――あ、すみません!」
手を振り笑う佐藤と呼ばれるシーカー候補生。どこかあの笑顔は弟に似ていて、あたしは自然と微笑んでいた。
ぺこりとお辞儀して通り過ぎて行った男の子。
「どうした?」
「あ、いえ。なんでも」
「……あいつな、スキル無しなんだよ。知ってるだろう?」
「あ、あの佐藤さん」
「だから人一倍頑張ってるんだ。こうして、ひたすらにスキル以外のとこで勝負できるように努力してる。お前に似てるな。強くなるぞ、あいつは」
「……そうですかね」
「うん?」
「きっとあたしなんかより強くなると思います、彼は」
――……ごめん……あたし、君の事……守るからって、いったのに……。
何も守れなかった。
――……
ドオオオオオオンンンン!!!!
意識が闇の底へ落ちる寸前、すさまじい轟音が鳴った。まるで雷が落ちたかのような揺れと衝撃。
体を包んでいた液体が弾け飛んだ。
「――……ごほ、かはっ、……はあ、は……」
そして目を開くとそこには、
「……遅くなってごめん」
佐藤さんがいた。
粉々に吹き飛んだエビルスライム。そこにあたしを抱きかかえ彼は立っている。
黒い外套を着た彼は深くフードを被っていたが、抱えられていたあたしからはその顔が見えていた。
「もう、大丈夫」
そういって微笑み、彼は途轍もない魔力を立ち昇らせた。
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