第29話
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翌日。
学校に着くなり白石は篠原美玲の元へ行き、頭を下げた。
「お願い篠原さん。私を助けて」
周囲の生徒は驚いたような表情で白石のことを見つめていた。
女子をまとめ上げる存在として君臨していた白石が、誰かに頭を下げてお願いをするなど、これまでにない光景だった。
篠原はゆっくりと立ち上がり、白石を上から下まで見た。
「その様子だと…“あれ”と出会ったようですね」
「これ…ありがとう…」
白石は昨日篠原からもらった木のお札を篠原に渡した。
真っ二つに割れたそれが、昨夜、白石を殺そうと家にやってきた“あれ”を退けたのは明らかだった。
白石は昨夜、自分を狙っているものが人間ではないことを知った。
一ノ瀬玲央、吉田彩花、雨宮謙信、そして黒瀬春人は、人間の力の及ばない何者かに殺されたのだ。
おそらく“あれ”の前には警察も無力だろう。
白石は藁にもすがる思いで、篠原を頼る以外に生き延びる方法を思いつかなかった。
「あなたのいう通りだった。この木のお札が昨日、私を守ってくれた……これがなかったら私、死んでた…」
「役に立ったのならよかったです」
「お願い篠原さん…私を助けて……昨日の態度を謝るから。私にできることならなんでもするから。だから助けて。このままだと私、死んじゃう…」
白石は篠原の前で涙を流してみせた。
自分が弱みを見せると、整った容姿も相まって、大抵の人間がいうことを聞いてくれることを白石はこれまでの経験でよくわかっていた。
「わかりました。元々助けるつもりではありましたし、いいですよ」
篠原は白石に手を貸すと約束してくれた。
「ありがとう、篠原さん」
「ただし、条件があります」
「条件?」
「はい」
「何?私にできることならなんでも言って?」
「別に私自身があなたにして欲しいことがあるわけではありません。これはあなた自身の命を救うために必要なことなんです」
篠原は白石の近くにより、耳打ちした。
「昨日行ったように、罪の全てを告白してください」
「え、罪…?」
「はい。あなたが月岡さんにしたこと、全部を然るべき人たちに話してください。そしてあなたは罰を受けるべきです。それが、あなたの命が助かるかもしれない最も最善の策です」
放課後。
白石は篠原と歩いていた。
「もしあなたが罪を告白するつもりがあるのなら、私はあなたの力になります。放課後、私についてきて欲しいです。あなたに見せたい場所があります」
篠原が白石を助ける条件として提示したのは、白石が月岡志乃をいじめたことを認めることだった。
篠原曰く、白石が他の4人とともに月岡に何をしてきたのか、それらを全て然るべき人たちに話せば、白石の命が助かるかもしれないという。
それはつまり、少なくとも白石が退学処分を受けるということを意味していた。
いじめの件が知れ渡れば、白石はまず間違いなく学校にはいられなくなる。
白石がこれまで築き上げてきたものも全てが台無しとなり、白石の人生はめちゃくちゃになる。
それが篠原がいう罰を受けるということなのだろう。
それは白石にとって大きな決断だったが、命を失いたくないという生存欲求の方が最終的に優った。
白石は、篠原に命が助かった暁には全てを警察に告白するつもりだと言った。
自分が月岡をいじめたことを明かし、罪を認めると約束した。
「わかりました。あなたを信用します。私はあなたに力を貸します白石さん。”あれ“からあなたを救えるかどうか、やってみようと思います。その代わり、約束、絶対に忘れないでください」
そんなやりとりがあって現在、白石は篠原とともに歩いていた。
学校を出てからもう1時間以上、歩いている。
なんだか目的も無しに歩いているように見える篠原に、不安になった白石は声をかけた。
「ねぇ、篠原さん。どこに行こうとしてるの?」
「ある場所へ。おそらく、この事件の始まりの場所です」
「始まりの場所?どこなのそれは?」
「名無しの神社」
「ななしの…神社?」
まさか篠原の解決方法は、神社に行ってお参りをするとか、そんなことなのだろうか。
その程度で”あれ“の脅威なくなるとは到底思えない。
白石はますます不安になったが、こうなった以上篠原を信じてついていくしかなかった。
「その神社に行ってどうするの?」
「いいから、ついてきてください」
「わかった」
篠原についていき、白石はひたすら足を動かした。
やがてどこをどう歩いたのかも思い出せなくなり、夕日が地平線の向こうに沈みそうになった頃、2人は寂れた神社の目の前へとやってきていた。
その神社は、とても小さく、そして古かった。
全く手入れされておらず、あるのは古びた鳥居とボロボロの社だけだった。
こんなところへきて一体何をするつもりなのだろう。
白石が篠原に尋ねようとしたとき、突然篠原がその場に膝をついた。
そしてボロボロの社に向かって拝むようなポーズを取る。
「篠原さん?」
「あなたも同じようにしてください」
「え…?」
「早く。もうあまり時間が残されていません。ぐずぐずしていると”あれ“がきてしまう」
「う、うん…わかった」
白石は頷き、篠原の見様見真似で膝をついて祈りを捧げた。
「…っ!?」
次の瞬間、白石の中に声が響いた。
白石は目を開けて周囲を見渡したが、隣で拝んでいる篠原以外に誰も姿も見当たらない。
気のせいかと思い、白石が再度手を合わせて目を閉じると、またしても心の中に声が響いた。
”捧げ物をしろ“
”そうすれば願いを叶えてやる“
心の中の声は、確かにそういった。
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