すくい上手

@demeria

第1話

水の中には秩序がある。前が泳いだその後ろを泳ぐ。同じ方向に泳ぐ。水の中に外の喧騒は届かない。静まった空間のその中を泳ぐ。周りには同じ目をした仲間がいっぱい。輪を描くようにぐるぐる泳ぐ。押し流されるように泳ぐ。軽妙だった泳ぎに疲れが浮き出て、横とぶつかりかけて、よけてよろけて、一匹、その列からはみ出した。みんなが列となって泳ぐその輪の中央に躍り出る。誰も彼も気づかないまま通り過ぎていく。怖い。心許ない。窮屈で息が詰まりかけて…。苦しい!

ふっと体が浮く。突然消えた水圧と水の感触。驚いてバタバタ。次の瞬間感じたのは、狭いながら自分だけの世界。すくってくれた手の主は私を見て、笑った。


私の幼馴染は、私にとってそんな相手だった。私はさながら一匹の出目金。

彼女は「すくう」ことがとても上手だった。

金魚はもちろん、スーパーボールもぷにょ玉も、彼女にかかればお椀何杯でもといったところだ。彼女は夏祭りの勇者だった。

彼女の「すくう」はそれだけではない。私がつらい時、思い悩むとき、救う手を伸ばしてくれるのは彼女だった。彼女の存在が、私の世界を私のものにしていた。私の、一番の親友。

学校も違う、学年も違う、住む地域も違う、会うことも少なくなってきた、私たちはそれでも手を取って歩いてきた。どれほど久しぶりに会っても、いつもと同じように笑いあえた。私たちの今までの日々は、1つの物語のように、満ち足りて、無駄なものなんて何ひとつなかった。これからだって一緒だ。


そう思っていた。


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