【 第三部完結】僕だけレベルアップ【できない】世界

@BenchPresser

悪女編

プロローグ

 さすがに嫌でも自覚せざるを得ない。


 僕は無能なんだ……。


 何をやってもなかなか上手くいかないし、ちょっと上手くいくと調子に乗って大失敗する。誰もが羨む環境を幾度も手にしながらも、それをまったく活かせていない。


 異世界転生でも転移でも憑依でも何でも構わない。

 自分の身にそんな奇跡が起こった時、きっと誰しもがラノベやアニメの主人公のような輝かしい未来を想像すると思う。


 少なくともこれまで僕が見てきた物語の主人公はそれを手にしていた。

 そんな物語を見ていた僕は、いつの間にか自分がその立場に立った時、当たり前に同じように成功できると信じていた。


 実際に経験したからこそわかるんだけど、物語の主人公は成功したからこそ主人公足りうるのであって、その影では数多の敗北者が語られる事もなく生まれては消えているはずだ。いくら何でも僕以外は皆成功しているなんて事はないだろう。ないよね?


 もちろん僕だって最初から諦めてたわけじゃない。三度目の正直なんて言葉もあるし、今度こそって気持ちはあったよ?


 これまでの転生は貴族としての知識なんて皆無なのに、弱小貴族の嫡男として難しい立ち回りを強いられたのが最初だった。この頃の僕は当たり前に成功すると信じていたし、ぶっちゃけ世の中舐めてた。


 貴族転生を自覚した時点で輝かしい未来しか想像できなかったし、弱小貧乏貴族もここから成り上がる為のスパイスだなと軽く考えていた。

 まずはマヨネーズやポテチ、あとはリバーシ作っとけばいいんでしょ? くらいの感覚しかなかった僕は当然のように失敗した。


 マヨは領内に食中毒を撒き散らし、ポテチとリバーシは当然のように他家に真似された。いや、真似されるだけならまだマシだった。

 侯爵家と伯爵家から「リバーシ(ポテチ)はうちが先に開発した物だから男爵家お前のとこは今後製造禁止ね」と一方的に通達される始末。


 当然僕は反発した。してしまった。使用人に対しても命令口調を使うことに抵抗があるくらいには平等の意識を前世で刷り込まれていた僕は、あの世界で上位貴族に逆らうことの意味を正しく理解していなかった。


 結果何が起こったかと言えば、多方面から強烈な圧力をかけられて、なんやかんやであっさり廃嫡→別宅での軟禁→男爵家別宅にも関わらず物取りが入り込み、ひとり居合わせた僕は心臓を一突きされて死んだ。


 にも使用人が全員屋敷内にいないタイミングで起きた不幸な事故だったねあれは。大声で金を出せと叫びながら、金品には目もくれず完全に僕を狙いに来てた気もするけどきっと気のせいだよね。


 しかしここでまさかの二度目の転生が発生する。次は世の男の夢が具現化したような男女比の偏った貞操逆転世界だった。

 そんな世界に貴重な男として生まれてくれば、失敗する方が難しいと思うでしょ?

 実際僕もそれはもう手あたり次第ヤリまくったし、周りはそれで喜んでくれるしまさにwin-winだった。


 今にして思えば好き放題できるからこそバランス感覚が大事だったんだよね。いつの間にか女の子たちはただの番号になってて、彼女たちひとりひとりが意思を持った人間だという事が抜け落ちてしまっていたんだと思う。結論だけ言えばそこを見誤った僕は刺されて死んだ。


 そしてまさかまさかの三度目で今に繋がるんだけど、今回は少しばかり状況が違ったんだ。何故なら今回は最初の人生で馬鹿みたいにやり込んだゲームの世界への転生だったから。


 過去二度の転生が早逝だった事も幸い? してか、登場人物もゲームの内容も大部分は記憶に残っている。はっきり言ってこれ以上ないほどのイージーモードだよ。


 例え転生した先が、噛ませ臭が凄まじいナルシストの中ボスであっても、知識チートをフル活用すれば、原作開始の頃には無敵の強さを手に入れてて、周囲から尊敬を集め、当たり前のように主人公ポジに鎮座する事も難しくないはずだ。




 「まぁ僕では主人公になれないみたいなんだけどさ……」

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