22 中学、卒業

 豪と第三相談室を出ると、まひろと直言が駆け寄ってきた。


「お前ら、ダンジョン科いくのか?」


「残念ながらそういう話じゃないよ」


「あ、もしかして入試が面接と小論文だけになるとか?」


 まひろよ、どうしてそんなにカンがいいの。

 もうほぼバレてしまったので、秘密にはできない。素直に話すと「いいなあ」と言われてしまった。


「わたしなんか楽典覚えるのに必死なのに。直言くんだってほぼほぼ入試なんてないんだし、わたしだけ苦労してるみたいでなんだか不平等!」


「だってまひろは仙台の音楽が勉強できるとこ、っていうちょっと特別なところに行くんだろ。親からむしれるだけむしるつもりとか言ってなかったか」


「そうだね、そのためなら少々苦労してもいいか。ありがと愛くん」


 苦労しても金をむしりたい親ってなんだ? まひろはよく自分の親を毒親と言うけれども。


「たぶんわたし、診断されてない発達障害あると思うんだよね。それを頑なに認めないで療育してくれなかった親は毒親だよ」


 まるで俺の考えを読むようにまひろはそう言った。発達障害かあ……。そんな風には見えないけれど。


「きっとわかりやすく空気読めないとか勉強が苦手とかそういうのじゃないからわかんないだけだよ。わたし、けっこう世の中の認知歪んでるよ?」


「……まひろの入試、いつ?」


 俺がそう尋ねると、まひろはキヒヒと笑った。


「みんなと同じ日だよ。でも仙台に前乗りして、その日の夕方の夜行バスで帰ってくるの。だから最後の配信は春休みに入ってから……ううん、卒業式終わってからにしようよ」


 こうして、最後の配信の日取りが決まった。


 ◇◇◇◇


 さて、ドキドキの入試の日がやってきた。まひろは仙台に、直言は試験ではなくオリエンテーションを受けに東京に行っている。

 豪は鳳鳴高校へ、俺は国際情報学院に向かった。

 この国際情報学院というダサい名前の学校であるが、中高一貫で高校から入ることもできて、卒業後はとにかく進学!!!! という感じの学校である。

 大館市民は「国際情報」と通称しているが、県内ニュースなどでは「大館国際」と略されて、飲み屋街の大館国際通りのようでなんとなく恥ずかしい。


 やっぱり「進学!!!!」という連中ばかりなので、校門から中に入る中学生はみんな賢そうだ。大館駅からすぐなので大館から離れたところの中学生の姿もある。


 受付で、「近藤愛助くんはこちらにどうぞ」と、別室にそっと案内された。誰も見ていないタイミングを狙ったらしい。

 さすがにダン中だから優遇しますってなったらズルいもんな。


 入った部屋にはコワモテのおじさん先生が座っていた。


「失礼します」


「かけてください」


 椅子にかける。


「近藤くんはダンジョン配信をしていたそうですね」


 どうやら面接はもう始まっているらしい。


「はい」


「どうしてダンジョンに入ろうと思ったのですか?」


「そのときは部活を引退してやることもなくて、みんな退屈していて、本当に仲のいい友達3人と、こっそり入ってみようよ、となったのがきっかけです」


「……ダンジョン配信で有名になる以前に、認知症のお爺さんを助けた、というのは、本当はダンジョンの中で見つけて警察に連れて行ったそうですね」


「そうです。いまさら言い訳したって仕方がないので言いますが、お爺さんをダンジョンで見つけて、これは美談にして許してもらえるぞ……というズルい考えから行ったことです」


「ははは。発想が面白い。家をパパラッチに囲まれたとき、こっそり抜け出して東京に行ったそうだけれど、いちばん楽しかったことはなんですか?」


「国立科学博物館と、東京国立博物館です」


「なにが面白かったですか?」


「国立博物館で、きれいな古い硯箱が、英語の解説で『BOX』としか書かれていなかったことです。箱だっていうのは見ればわかるので、インバウンドの人たちにもうちょっと説明したほうがいいんじゃないかなと思いました」


 面接官のおじさん先生はアハハハと笑った。


「なるほど。面白いね。学校の勉強はどうでしたか?」


「自分はうんと成績がいいわけではなくて、平均的な成績なんですけど、それでも実家の農業を継ぐために、スマート農業とかハラール認証の勉強をしたくて、それなら進学するのがいちばんいいと思ったので、真面目に勉強して、国際情報に進学しようと思ったんです」


「ダンジョン配信者になりたいわけじゃないんだ」


「はい。ダンジョン配信は子供でバカだったころの楽しい思い出にしようと思っています」


「仲間の進路はどう思う?」


「友達のうちの一人は仙台で音楽の勉強をするって言っていて、それは素晴らしいと思うし、東京のダンジョン科に行く友達にも頑張ってほしいし、鳳鳴に行く友達にも頑張ってほしいです。みんなそれぞれにやりたいことがあって、それに取り組むのはいいことだと考えます」


「……お疲れ様でした。次は小論文があります。ここで書いてもらうのでそのまま座っていてください。あ、あと……サインもらえますか」


 面接官までダン中ファンだったのだった。ワイロのつもりでサインする。

 面接官は嬉しそうに部屋を出て行った。直後、小論文の用紙が渡された。

 書くことは「最近見たニュースで気になったこと」。こういう題材でくるだろうとは思っていたので、反撃してやることにした。


 小論文は「3年後にダンジョン配信が自由化されるというニュースをテレビや新聞で見ました」から始めて、あっという間に課題の用紙が埋まった。計画通り、であった。


 ◇◇◇◇


 ダン中LINEで、それぞれの状況を確認する。

 まひろは演奏の課題でミスなくこなし、たいへん褒められたらしい。直言はダンジョン科高校のオシャレぶりに慄いたようだ。豪はもちろん余裕であったようだ。

 みんな頑張った。俺も頑張った。


 中学生活はみるみる終わっていき、卒業式が行われた。まさ爺や教員アベンジャーズともお別れだ。そう思って切なくなっていたら、卒業後のホームルームで「ダン中! サインくれ!」と俺たち4人はクラス中から色紙を突きつけられたのであった。


 合格発表の日も、それぞれ違うところ(直言はそもそも合格しているのだが)にいたので、ダン中LINEで連絡を取った。


 無事に、全員合格していた。

 これで安心して最後の配信ができる。(つづく)

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