駐キリン場(ちゅうきりんじょう)

知因子雨読(ちいんし・うどく)

第1話

 常備しているレトルトカレーのストックが切れていたので近所のスーパーへ行くと駐輪場にキリンが倒れている。

 キリンは動物園にいる動物の中でも相当デカい部類なので実物を見るとかなり驚く。

 自転車1台分に収まるはずもなく狭い駐輪場の全体に挟まっているという方が近い。

 これではもはや駐輪場ではなく駐キリン場(ちゅうきりんじょう)である。

 自転車が見当たらないのでスーパーの開店前から挟まっていたのだろう。

 店員は何をしていたのだ。

 客である僕が口を出すことではないかもしれない。

 でも現に僕の自転車を置く場所がないのだから何とかせねばなるまい。

 スーパーに入ってから店員に言おうにもその前に自転車を置く場所がない。

 歩道の脇に置くと違法駐輪で撤去されかねない。

 警備員はスーパーの出入口の中にいるので声が届かない。

 とりあえず出入り口の前に自転車を置けば平気かな。

 出入り口の前に自転車を置くと警備員が店の外に出てきた。

 そしておもむろに「キリンはお帰り下さい」と言ってきた。

「僕はキリンじゃないよ」

「駐キリン場に挟まってるくせに」

 あのキリンは僕だったことに気付いた。

 そこで目が覚めた。

 もちろん夢である。

 夢ではあるが自転車に乗るたびスーパーに行くたびキリンのことを思い出す。

 これは夢ではない。

 キリンは今も僕の頭の中の駐キリン場に挟まっている。

 意を決して訊いてみることにした。

「警備員さん。僕はキリンですか?」

「バカなことを言うもんじゃない。あなたはヤギね」

「あなたがキリンなのでは?」

「まさか」

「好きなビールは?」

「キリンラガービール」

「ほら!」

「今週のしまった!」

「今すぐ駐輪場から出ていけ!」

「でもあなたが歩道に置いた自転車は撤去されましたよ」

 自転車がないことに気付いて保管場所を書いた看板を見る。

 保管場所は何故か動物園のキリンの檻の中だと書かれている。

 妙な話ではあるけど仕方ないので動物園のキリンの檻を探した。

 檻の中に僕の自転車を見つけたので入ると鍵をかけられ閉じ込められた。

 なるほどそういうことか。

 僕は最初から檻にいて駐キリン場の夢を視ているキリンだったのだ。

 いつか人間に生まれ変わって自転車でスーパーに行って買物できる日を首を長くして待っている。(了)

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駐キリン場(ちゅうきりんじょう) 知因子雨読(ちいんし・うどく) @shinichikudoh

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