第4話

「いや、お前と組むのは無理だな」


「その体格じゃあねぇ。魔法もできないなんて」


「他人を信用できるわけないだろ。俺はソロだ」


 まさしく門前払いだ。

 ここは数々の冒険者が集まる冒険者ギルド。老若男女の冒険者たちが集い、クエストへと備え、パーティを募集し、旅立ち、そして疲れを癒やす場だ。

 人を探すならこの場以上に適したことはないと思ったのだが……結果は見ての通りだ。


「うーん、うまくいかないなぁ」


 カウンターでグラスを傾けながら、今後のことに思いを馳せる。

 またしもここで、僕の見た目が邪魔してくる。


 僕の見た目からして、近接職と見られることはない。ならばと魔法能力を聞かれるが、能力値を騙るわけもいかず、本当のことを言って断られる。


 あの日、このゲームは現実の見た目とステータスを反映した。つまり、貧弱な見た目をしている僕が初期ステータスに恵まれていないことは、目に見えてわかってしまう。


 僕は、この世界でもこの体に苦しめられる。


「はぁ、これからどうしよう」


 クエストボードに向かってみれば、雑多な討伐依頼が貼られている。この初心者の街に貼られているものであれば、僕でも受けられるものがあるはずだ。


=====

危険!殺人鳥の強行調査依頼


重要!墓地街の特殊スケルトン討伐依頼


緊急!漆黒森の生態調査

====


 どうしてこんなのしかないんだ!


 明らかに地雷クエスト。なんというか、誰も選ばなかった残り物感がすごい。


 その中で一つ、明らかに浮いた依頼を見つける。


====

安心安全快適!畑仕事の手伝い!高収入!

====


 なんだ、簡単そうなのがあるじゃないかと手に取る。ふむふむ、郊外の畑仕事を手伝ってくださいと。件名こそいかにもな文言だが、内容は悪くない。

 手伝いとあれば、ソロでも問題ないだろうし、何より今はお金を稼がないと、手持ちの資金が切れそうだ。



 もちろんこのあと後悔することになるのだが、このときの僕はそのことをまだ知らない。



++++



「それじゃあ冒険者、あとは頼んだぜ!」


「……くそっ!騙された!」


 当たり前である。突然デスゲームになるこの世界で、安心安全快適だとか高収入だとか、そんな言葉が真実だと信じた僕が馬鹿だった。


====

クエスト変化!

(モンスターは出ないので)安心安全快適!畑仕事(ただし毒草ハウス)の手伝い!高収入!

====


 わけも分からず転移した先は、思っていた畑ではなく、ハウス農園の中だった。

 ハウス内は奇妙な臭いが漂っており、思わず咳き込む。視界の端のHPバーがどんどん削れているあたり、人にはよくないなにかを栽培しているらしい。


「こんなところにいられるか!」


 もちろん逃亡対策は取られている。このビニールハウスには出入り口が存在しない。通風孔のような飾りはあるが、風を感じないあたり、あくまで飾りなのだろう。


「や、やるしかないのか……?」


 HPバーの削れる速度が、僕を急かしてくる。


 仕方なく、僕は作業を始めた。



++++



「ふぅ、おわったー」


 HPが3割を切り始めたころ。ようやくクエストクリアの文字が目の前に現れる。


「やあ冒険者!おつかれさま!それじゃあ」


「ちょっ待っっ」


 また強制的に転移が始まる。

 景色が変わるとそこは、郊外の草原だった。僕にとっては初めての、郊外の景色だった。


 あたりを見回そうとした瞬間、なにかヒヤリとしたものが背中を走る。


「っ!」


「おせえぞ!」


 何が起きたかを判断するより早く、痛みのフィードバックが身体を駆け巡る。


「ちっ浅かったか」


「はぁはぁ、なんですかあなた達は!」


 奇襲を仕掛けてきたのはプレイヤー二人組だ。


「話してる場合か?」


「いっ!」


 相手の斬撃をスレスレのところで避ける。チリチリとした痛みが、初撃を受けた背中からじんわり広がる。


「なんのためにPKなんて!」


「ああ、知らないか。こんな地雷クエストにひっかかるニュービーは」


「人が一番経験値がうまいんだよ。右も左もわからない初心者が一番な」


「そ、そんなことで人を殺そうっていうの?」


「殺す?馬鹿だなぁ。ここはゲームの世界だぞ」


「あんなの嘘に決まってんだろ」


 根拠があるようには見えない。しかし、彼らの配置とじわりじわりと距離を詰めてくる感覚から、僕を殺そうってのは嘘じゃないってことがうかがえる。


「じゃあここらでおさらばだ」


「言い残すことはあるか?まあ聞かないがな!」


 振り上げた短剣が、勢いよく振り下ろされる。



 そのとき、近くの茂みから銀色にきらめくなにかが飛んできた。


「うおっなんだこれは!」


「最近噂のPK二人組か」


 ゆっくりと茂みから出てきたのは、いつもパンをくれるあの彼女だった。


「けっ英雄気取りのお嬢様かよ」


「そう言われてるのは気に食わないな。でももっと気に食わないのは……」


 なんとか目で追えるほどの急加速。そして手に持った鎖鎌を素早く投擲した。


「他人を貪ることを是とする悪者たちだ」


 まるでヒーローのような登場をした彼女は、僕をかばうように二人の間に割って入った。


 どうやら、2対2の幕開けとなるようだ。

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スカイフォール・ストラテジー 長月はつか @hatanagisa9

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