第4話 旅立ち前の再会と告白

退職してから、いよいよ新しい場所へ旅立つ日が近づいていた。

慌ただしく過ぎていく準備の中、彼から一本の電話がかかってきた。


「会わないか」

その短い言葉に、心が大きく揺れた。


夜の街で落ち合った。

以前と変わらぬ笑顔。けれどどこか切なさを帯びているように見えた。


居酒屋で軽く飲んだ後、二人は自然と外へ出て、渋谷のホテル街の近くにある駐車場にたどり着いた。

都会のざわめきが遠くに聞こえ、冷たい夜風が頬を撫でた。


そこで私は、抑えきれずに言葉を口にしていた。

「……ずっと、好きだった」

声が震え、涙が頬を伝った。


彼は一瞬黙り込み、やがて小さく笑った。

「送別会のときに言われてたら……やばかったかもな」


その言葉に胸が締めつけられ、次の瞬間、彼の唇が触れた。

一瞬だけ世界が止まり、心臓の鼓動だけが響いた。


──それが最初で最後のキスだった。


彼は冗談めかして「このまま行く?」と近くのホテルを指した。

けれど私は首を振った。

迎えに来てくれる人がいたから。

一線を越えてしまえば、もう戻れなくなることをわかっていたから。


駐車場を離れるとき、胸の奥で叫んでいた。

「もし、あの夜に踏み込んでいたら」


それでも選ばなかった自分の決断に、どこかほっとしている自分もいた。


都会の灯りの下で交わした言葉とキスは、やがて私の人生に永遠の痕跡を残すことになる。

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