第2話 恋の芽生え
オフィスの窓から夏の日差しが差し込む頃。
彼との電話は、すっかり日常になっていた。
「入金の確認をお願いします」
事務的な言葉のやり取り。
けれど声を聞くたび、胸の奥がふっと温かくなる。
電話を切ったあと、書類をめくる手が止まってしまうこともあった。
同期会の帰り道、彼がふと隣を歩いてくれたことがある。
「大変だよな、事務の仕事って。俺ら営業より細かくてさ」
軽く笑いながらかけられたその一言に、不思議と励まされた。
ほんの小さなやさしさに、心が大きく揺れた。
週末に出かけた牧場でのこと。
草の匂い、太陽に照らされた彼の笑顔。
その横顔を見ながら、私は気づいていた。
もう“ただの同期”ではいられないのだ、と。
やがて耳に入ったのは、彼が同期の女性と付き合い始めたという噂だった。
胸の奥でざわめきが広がる。
「へえ、そうなんだ」
そう答えるしかなかった。
恋心は芽吹いたばかりだったのに、もう行き場を失っていた。
それでも、隠せば隠すほどに鮮やかになっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます