第4話
太陽の壁に包まれた大輔は、目を閉じたまま静かに頬を濡らしていた。そして頬を伝う水滴がまだ乾ききらないうちに、ばさばさと耳障りな羽音を立ててカラスが壁をすり抜け、箱の中へと姿を現した。壁はそれほど柔らかかった。
カラスの黒い羽が、あたりの白い空間と不自然に、しかし自然に交わる。
その頃には、大輔はもう、大輔ではなくなっていた。
意思をなくした彼に、黒い影が近づく。迷いなどなかった。そのくちばしで彼の頭をつつく。引っ張る。つつく。食べる。
食い荒らされた脳みその残骸だけが、白い空間の中で奇妙に色を放つ。記憶の断片が、無秩序に散らばる。
最後に、妄想を食べた。彼のすべてを飲み込むように。
そしてカラスはふたたび外の世界へと飛び立った。
音が消えた。白い空間が、更に白くなった。ただ、白がひろがっていた。
壁は残された身体を優しく包み込むと、ふふっと笑った。どこかで聞いたような声だった。もう動かないはずの目から、ひと粒だけ、涙が落ちた。
やがて白は抜け殻を熔かし、跡形もなく、そこにはなにも無くなった。影すら、痕跡すら、
(了)
熔白 多胡しい乃 @takosumi
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