熔白

多胡しい乃

第1話

それは、豆腐みたいな――いや、雪かな。ううん。それも違う。もっと眩しくて、もっと無機質で、太陽が視界を焼き尽くすような、そんな白。

 僕は、僕の身体がちょうど収まるくらいの立方体の箱の中で、ただじっと、体育座りをしていた。膝を抱え、指先で自分の足を撫でる。冷たくも熱くもない。手触りもない。僕は確かにここにいるはずなのに、自分の身体が本当に存在しているのかすら、わからなくなりそうだった。

 壁は真っ白。床も、天井も。どこまでも続いているように見えるけれど、手を伸ばせばすぐそこに壁があるようにも思える。触れて確かめることもできたのだろうが、どういうわけか僕は躊躇した。なにかが、目には見えないなにかが、僕を押しとどめているようだった。

 僕はここが嫌いじゃなかった。苦しくないし、寂しくもない。が、ずっとここにいてはならないような気がするのだ。自分という存在が中からとけ出すような感覚に襲われる。妙に穏やかで、すべてを忘れてしまいそうになる。まるで生まれたての赤ん坊に戻ったかのように――

 僕は急に自分の無力さを感じ、静かに目を閉じた。微かに遠くで水の滴る音が聞こえる。

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