半年を駆けた判決
月下醜人
.
彼氏に浮気された。
未遂だったけれど、あまりの裏切りだった。
怒号で罵倒し泣き叫び平手打ちをした。
相手は大泣きで謝罪し縋りついてきた。
でも私はそんな修羅場に慣れっこだった。
だからその日のうちに仕切り直して、
ネックレス買ってくれれば水に流すよと
可愛くおねだりして、泣いてる彼を
抱きしめ撫ぜて寝た。
確かに、少しは冷たくしたかもしれない。
ぷいっとそっぽを向いて、意地悪して、
連絡をちょっぴり無視してしまったのは事実。
でも、それからたったの半日だった。
彼が「今日からもまたよろしくね」と情けない
顔で言ったその数時間後、電話がかかってきた
と思ったら、罵倒された挙句振られた。
不思議だった。皆鏡写しだった。
私がキレると同じようにキレて、
私が落ち着くと同じように落ち着いて、
私が甘い言葉をかけると、夢に堕ちたように、
急に優しくなるのよね。
でも結局は、どんなに赦しても、優しくしても
「もう上手くいかない気がする」
「君を愛しているから別れる」
とか意味不明なことを言われて、強制終了。
いつもそうだった。婚約届を渡されたり、
指輪の号数を聞かれて間も無い内にのお別れ。
あんなに強く深く欲しがったくせに、
私はその度に手を取ったのに...
取って欲しい手は絶対に取られないのって、
ねえ、なんでよ?
ああ!
一人だけ、泣いて縋り付かなかった人がいる。
一人だけ、自ずと耐え切れず離れた人がいる。
今丁度、そんな貴方の言葉が、懐かしく低く
奇妙にも艶かしい声で、反芻された。
「何よりも大切だから、そう思っていると
信じられるくらいに与えてくれた人だから」
「罪を重く思い、相手の怒りに恐れを抱き、
幸せにできない、一緒になれない未来を
想像して絶望して、気が狂いそうになる」
「それでもまだ信じたい気持ちが拭えない。
ただ、想えば想うほど罪悪感が出てきて、
甘えられなくなって、不甲斐がなくなって、」
「だから逃げなきゃだめだと、思ってしまう」
ああ、私もそうだった。
今回は、自分から離れないんじゃない。
離れようとすら思わぬ程に与えられなかった。
特別だからこそ、本気だったからこそ、
信じていたからこそ、甘えられたからこそ、
自分から逃げないと「いけない」という、
負の衝動に駆られるのよね。
それすらも嘯きならただの塵屑として見ていい
と、貴方はそうも言った気がする。
非情だと思っていたけれど、
一番に私を理解し、確信を突いている人
だったのかも知れない。
流石だね。
弁が立って、私を護ってくれる、そんな士。
閉廷と思っていたのにまた君は、恥ずかしがる
私を証言台へと連れていくのでしょう?
今ようやく判決が出たみたいだよ。
私の罪は、きっと。
半年を駆けた判決 月下醜人 @lunatear
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます