第5話

スカーレットの誕生日から数日たった。


僕たち二人は、いつもの店に来ていた。

今日は、大切な話をしに来たのだが・・・・目の前の現実を受け入れたくない。


目の前にはありえないほどの空皿がある。優に50を超える。

これ全部、彼女ひとりで食べたと思うと、頭が痛くなる。


「本当に不思議だ」

「・・・・なにふぁ?」

「食べながらしゃべらない」

「何ふぁ?」

「口いっぱいに頬張りながら喋らない」


まったくこの子は・・・いつ教育を間違ったのか分からない。

もしかすると引き取った前から?

そうなら手に負えないなぁ・・・


現実逃避をしながら、もう一度スカーレットに向き合う。

・・・やはり食べ過ぎだと思う。


「スカーレット、話がある」

「何?」


近くに置いてあったナプキンで口元をぬぐいながら、話を聞く態勢をとる彼女に僕は告げる。


「僕たちは予定より早く帝都に行くことになった」

「何で?」

「何でも」

「え~~??」


すっごい嫌そう・・・


「・・・帝都に行った後に何でもするからさ、聞いてほしいなぁ」

「・・・・・なんでも?」

「そう、なんでも」

「なら行く。フフフ」


あぁ、約束してしまった。

この後、彼女の「おねだり」に震える生活が来るのか・・・・やだなぁ・・・

でもこの子のためだしなぁ・・・・しょうがない、受け入れるしかない。

目の前の少女の笑顔がなぜかすごく怖い。


「ちなみに、帝都では何をするの?この生活の続き?」

「・・・帝都にある帝国の大学校なんて興味ない?」

「ええ~学校?」


まぁそうだよね、貴族でもない限り縁がない「帝国大学校」に行きたいとは思わないよね。


「嫌なら行かなくていいんだよ?」

「う~ん。考えとく。ちなみにお金は?」

「考えなくていいよ。僕が払うから」

「それだけお金があるの?」

「まぁね、これでも僕はそれなりにお金がある」

「私の武具買うのに手間取ってたのに?」

「それとこれとは話が別!!」


まったく、話を引きずる子なんだからもう・・・・

・・・・


「・・・・帝都に行くことに反対はしないのかい?」

「しないよ。だって、私のこと考えたうえでの帝都でしょ?なら何も言うことはないよ」


この子は本当に・・・いい子だなぁ。


「そっか。ならよかった」


僕は心の底から安心した。


「でも帝都かぁ・・・」

「?何か楽しみなものでもあるの?」

「だって、帝都には強い人がいっぱいいるらしいじゃん」

「・・・・まぁ・・・そうだね・・・」

「??」


スカーレットは僕の反応に心底不思議そうな顔をする。


「何でもないよ。例えば誰だい?」

「『帝国一の結界師』って呼ばれているアリシアとか?」

「ブフッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」


僕は飲んでいたお茶をグラスに戻して、せき込んでしまう。


「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。他にはいるの?」

「たくさんいるよ。中でも有名なのはあの人達だよね」

「誰?」


嫌な予感。


「『氷獄女帝フロスト・エンブレス』エリザヴェータ、『麗樹の妖姫シルヴァリア』フェルミール、『黒狼餓狼ヴォルフシュバルツ』アラン、『灰燼の魔女アッシュ・ウィッチ』ユリアとか?」

「・・・・・そっか、会えるといいね」

「会えるよ!!きっと!!」


その後も、食事を楽しみ、会計が6桁になった。

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最後の継承者(仮称) 蒼華 @tengenmusouryuu100

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