喧嘩と結衣のはとこ

数日後の昼休み。

「めいりなんかもうしらないっ!!あんたなんかだいっきらいなんだからね!

もう、二度と関わらないでよねっ!」

そういって渡り廊下を走っていく、結衣。

結衣の目にはなにかひかるものが滴っていた。

「まって、」

と言おうとしたけれど声は出なかった。

私は結衣を怒らせてしまったのである。

まさに女神のゲキリンにふれてしまったようなカンジ…。

なんで怒らせてしまったかと言えば、結構前にさかのぼる。


中休みに、私は隣の席の子のグループと話していた。

その子が

「今度の休み、一緒にどこか遊びに行かない?私、めいりちゃんともっと仲良くなりたいな。もうそろそろ中学生になるし、小学校最後の思い出作りだよ!!」

と遊びに誘ってくれた。

「いいよ、行きたいな。」

私はあまり遊びに行ったことはなかったからそう答えた。

「できればね、東雲さんにはこのこと言わないでほしいの、私たちだけの秘密!」

私はその時そこまでオモく考えてはいなかったから、

「うん、分かったよ。」と軽く返事をした。


昼休みになって、結衣が、

「一緒にお昼食べよ?」と珍しく声をかけてくれたので、

二つの返事で購買でお昼ご飯を買って食堂に行った。

黙々と私が味噌汁をすすっていると、もう食べ終わっていた結衣が

「ね、昼休みさ、あの子たちと何話してたの?」

唐突にシツモン…!

「あぁ、えっと、ヒミツ。」そう答えると、

「何?ヒミツって、ずるいよ。教えて。」食いついてきてしまった。

私は、この時、結衣があんなふうになるなんて思ってなかったし、

誘ってくれた子たちにはばれなきゃいいかなと思ってた。

「えっとね、今週の土曜日に遊びに行こーって、誘われて。」

「なんでそれを私に秘密にしなくちゃいけないの?」

ちょっと怒ってるような気配がした。

「あの子たちに、結衣には言うなって言われたから。」

こういう時は嘘ついても見透かされちゃうから素直に答えたんだけど、

「へぇ、めいりって、そういうことするんだぁ、ははは、そっか。」

普段の優等生を装ってる結衣っぽくなくて、

「どうしたの?」と聞くと、

さっきの返事が返ってきて、走り去られてしまったのである。

周りに座っていた子もびっくりしていた。


5・6時間目、結衣は早退してた。

授業が全く手につかなくて、結衣のことを考えている間に授業が終わった。

そのままボーゼンと帰り支度をし学校を出る。

いつもは結衣と帰る帰り道をひとりでトボトボ歩きながら、

「私なんか悪いことしたのかな…。」ぼそっとこぼすと、

「いやはやねぇ、めいりちゃん?」急に後ろから声をかけられた。

「ひぃっ。」

私が通う予定の中学の制服を着た猫目の男の人が、後ろを歩いていた。

いや、こわいわ。フツーに怖い。なんで後ろ歩いてるの?

もしかして変態?

「誰ですか?っていうか変態ですか?女子生徒の後ろを付けてくるなんて変態だと思うんですけど。それに名前を知っている時点でおかしいじゃないですか?」

「うん、流石の言いっぷりだね。僕の名前は…。

えっと、授業勝手に抜け出し男と言う名前だよ。」

ゼッタイ嘘だよね。うん、ゼッタイ。そして、なんと低レベルな…。

小学生男子並みじゃん…。

「嘘つきは犯罪者の始まりって本当だったんですねぇ、へぇぇー。」

「まぁまぁ、落ち着いてよ、僕は静蘭学園中等部3年。

勝手に授業を抜け出してきた。生徒証もあるよ?生徒会副委員長。

で、何でこんなとこにいるかと言えば、君の話を聞きに来たからだ。」

うぅん、信用がない。全くない。

そして、静蘭学園とは私が通う学校のコト…。

まぁ、制服も来てるし、生徒証も見せてもらったから、少なくとも先輩だということはわかるケド…。

っていうか、生徒会の副委員長が勝手に授業抜け出しちゃってダイジョブなの…?

「私の話って、特に何もないですよ?」

「いや、それがウソだね。

だって、君の歩き方からしてうつむき加減なことから、落ち込み気味だということが考えられるし、声のトーンだって低め、落ち込んでいる人って声が高い場合と低い場合があったりするから。それに君はいつも二人で歩いて帰っているよね。結衣と。

っていうか、そもそも僕、結衣の“はとこ”だし。かわいいかわいい“はとこ”のためにも、ちゃんと僕は何が起こってるのか知っておかないとね!」

結衣の…“はとこ”…?

話し方が結衣っぽいのはそれが理由か…。

「はとこ…?」

「だから知ってるの。で、なにがあったの、どうせ結衣となんかあったんでしょ?」

先輩はにこっと笑いかけてくれるがもうそれが圧でしかない…。

先輩…。こわいよぉ~!!

「はいはい、分かりました。」

私は仕方なく、結衣との出来事を話した。

その人はこくこくと頷きながら、もっていた分厚い本のようなものにそれを書き散らしていった。

万年筆がお似合いな先輩だなぁ…。

「で、結衣にはどんな友達がいるんだい?」

結衣の友達か…。あんまり人と一緒にいるイメージないな、孤高の一匹狼的な。

「わかんないですね…。いつも一匹狼みたいなカンジで、カッコいいです。」

「じゃ、結衣ってさ、どんな性格の人だと思う?喧嘩の原因は何か気づいてる?」

「結衣は、ツンデレじゃないでしょうか?

人にうまく優しくできないけど、でもそれでも頑張っていろんな子とうまくやってこうって努力してると思います。たぶん、喧嘩の原因は…。」

喧嘩の原因はたぶん、私を誘ってくれたグループの子たち。

「よきよき、よくわかってるみたいだね。ありがと、それじゃ、僕はもう帰るね。

後のことは君が好きにやっておいて。あ、その前にこのミニミニメモ帳を君に捧げよう。

勇気がもらえるから、自分がピンチとか何かを変えたいって思ったときに触ってみてね。」

先輩は私に何も書けそうにないストラップのような本を渡した。

それだけ聞いて終わりかーい。特に話だけ聞きに来た変人じゃん。

っていうか、好きにやっておいてって雑過ぎない?

「さっきから何を書いているんですか?」

「それは、すべてが解決したら教えてあげようっ!じゃ、その時まで!僕は授業に戻らないといけないからねっ!」

そう言って結衣の“はとこ”と名乗る先輩は軽々とダッシュで帰っていった。

チョー速い…。

この人何言ってるのかぜんっぜんわかんないよー!!

それにこのままじゃ、結衣と仲直りできそうにない…。

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