【実話】1番のクズ男!ターミネーターより怖い、結婚のはずが

@Tokotoka

第1話 真面目なイケメンとクズ男



昭和の時代。

携帯もパソコンもメールもなく、カードを使うことも少ない。

彼氏や彼女がや夫や妻が、離れている時間は何をしているのか、相手を信じるしか無い時代。

メッセージもGPSも無く、確認も出来ないし、現金払いだから履歴も残らない時代の話。


山本恵子は大学時代半年弱、事務のアルバイトをしていた。

主に5歳年上の、原田慎也のアシスタントが仕事。

恵子はアルバイト先の、親会社に就職が決まっていた。


慎也さんは仕事は出来る人で、話も面白い。

たまに「現場を知るのは良い経験だから」と、外回りに連れ出してくれた。

行き先は大抵、遠く離れた車で1時間以上、長いと2時間近くかかる場所。


車内では仕事の話をしながら、「彼氏はいるの?」とか、「音楽好き?」とか、個人的な質問をたくさんされた。

担当アシスタントは恵子。

にしても、他のアシスタントは外回りの声はかけない。


仕事は真面目にはする。大きな案件も手掛け来て、実績も積んでいた。

プレゼンする企画も内容が面白い。

企画書の清書や、チェックを任された。

恵子は字は下手では無い。

幼い頃から書道も習い、鉛筆で書く硬書もやっていた。


ワープロすら会社には無く、企画書の清書は、忙しかったり字が上手く無い人には必須だった。

恵子はただ清書するだけでなく、全体を読んで、

「ここにこう言う数字や、グラフがあると、わかりやすいのでは?」などの提案をしてみた。


慎也さんは柔軟な人。最初の意見から、「なるほどな。ならグラフ書いて入れてくれる?数字は渡すから」と採用してくれた。

ただの学生とは言え、何も知らない人が読んで、

「どう感じるか?足りない部分はどこかを指摘してくれるのは、有り難い」と言ってくれた。

意見を汲んで、変更や追加をした。

「お陰で上手くいった」と褒めてもくれた。


外回りの後会社に戻る前に、就業時間内だから

「サボリ!」と言って、ちゃんとしたホテルのラウンジで、2人でお茶を飲むことも何度かあった。

笑える話をしてくれ、仕事の話もしてくれた。


2月半ばから、恵子が行く旅行の話もした。

アシスタントは、もう1人いて同い年。

男子だから、彼は夜飲みに連れて行って貰ったりした。

私は家が遠く、遅い時間からの飲み屋は断り、家に帰った。


2月半ばから、1人でツアーに参加して、ニュージーランドとオーストラリアをひと月旅をした。

友達にヨーロッパを誘われたけど、倍以上旅費がかかる上に、皆んなが行かない場所に行ってみたかった。

この頃はオーストラリアへ行く人も、知り合いにはおらず、直行便が出来る前。


恵子には大学時代、ほぼ3年付き合った彼氏はいた。

1年過ぎて以降は、惰性。


地元の仲の良い大学生や高校生グループの中の人で、自宅も近い。

私がバイトしていた、本屋にも来て本屋のオーナーたちとも仲が良い。

別れたら後が面倒になる。

グループの皆んなとも、気まずくなる。


5回断っても、ひつこく付き合ってと言われて根負けした。

悪い人では無いし、私に合わせようと、私のスケジュールに合わせて、自分もバイトし、恵子を優先してくれた。


この人が私を大切に思ってくれるのは、わかっていた。

合わせてくれるのは都合は良い。

が、自分の意志は無いのか?と感じるぐらい、友達より私を優先する。


悪い人では無いのは、長く付き合うとわかるけど、第一印象は自虐的で、自分に自信がないのか、引っ込み思案で、陰にこもる感じが強い。

印象が暗め。

ハキハキとか、爽やかとかは縁遠い。


就活が始まり、2人の差は目に見える形で現れた。

まだ売り手市場では無い年。

翌年や翌々年なら、簡単に取れただろう内定が取れない。


大学も違う。ネームバリューも無い。

私は遠くても、寮や1人暮らしをすることになっても、女性でも仕事をさせてくれる会社も回った。


女子なだけで「ウチは女子はいらないから」それが平気で言えた時代。

男女雇用機会均等法の前、大手のマスコミでも、平気でそう言われた。


結局彼は最後はコネもある、地元の市役所に入れば良いと考えていた。

そんな部分を見透かされたのか、内定が出ない。

諦めて市役所に決めた。


就活を始めた時点で、この人と先は無いのはわかっていた。

が、今更別れるのも面倒で、就職で離れるまでは、別れは切り出さないまま。

旅行から戻って、別れる話をした。

何度も「考え直して」とは言われたけど、彼を恋しくなったり、会いたくなったりしない時点で、本当は別れるべきだった。


ジョン・クーガー&メレンキャンプ

『Jack & Diane』


この大学時代の彼と付き合い始めて、しばらくは周りにも隠した。

私はあまり気乗りしないから、すぐに別れる可能性も高いと感じていたから。

仲間内で付き合ってすぐ別れるは、周りにも気を遣わせる。


付き合うようになって、3週間ほど。

仲間内で、毎年恒例の海へ行った。

男女合わせて、20人以上。

民宿でずっと話したりゲームして、夜中も楽しく遊んだ。

夜は広い部屋で、男女分かれて雑魚寝。


夜話が盛り上がって、お酒やジュース、氷を買い出しに行く話になり。

付き合った彼の、高校時代からの友達の碓氷君が

「車もあるし、僕が行きます」と。

彼は「着いてきて」と言うので、一緒に車で出かけた。





帰り道の車で、碓氷君は言った。

「僕と付き合ってくれる?」って。


いつも賑やかで、笑顔が絶えない人。

おばちゃんから、高校生男子にも優しいから、皆んなに好かれていた。

私も仲良しだったし、外見もちょっと古い時代の顔だけど、男前の表現がピッタリ合う。背も体型も私のタイプ。


が、彼が私に友達以上の感情があることは、私にも周りにも知られていなかった。

男子の先輩たちは、察すると冷やかす。

おそらくそれが嫌で、周りに知れないようにして来たんだろうと。


女子は実は、かなり可愛い子が4人いた。

2人は私と同級生、もう1人はその妹。

私の妹もいた。妹も可愛い。

私とは顔は全く似てない。


4人は口説かれるようなことを、皆んなの前でよく言われていた。

実際に可愛い女子で、その仲間内で付き合ったのは妹だけ。


デートぐらいはした人はいそうだけど、基本友達だから、口で言うだけで、真面目に付き合ったりしない、仲良しの友達グループ。


私は「失敗した!」って内心動揺した。

どう考えても、付き合うことにした人より、こっちの人のほうが、条件もルックスも性格も好み。

「まさか私を好きだとは?」とも。


彼氏と碓氷君は、高校時代からの友達。

碓氷君は野球部のキャプテンで、女子にもモテてたらしい。友達も多い。

彼氏は友達も少ない。仲良くなる人とは深いけど、広くは無い人。

皆んな知り合いの仲間内、まだバレてはいないけど。


この時に「ちょっと時間が欲しい」とか、

「考えても良い?」とか、時間を稼ぐようなことが言えたなら、じっくり考えていたなら、彼氏と別れて碓氷君と付き合っただろうと。


でも、ズルいことを考えられない私は、つい「実は少し前から、あの人と付き合うことになった」と、言ってしまった。

言い終わらないうちに、碓氷君は

「ごめん。本当にごめん。知らなかったから、この話は忘れてくれる?誰にも、特にアイツにも黙ってて」

と言った。


まず、「ごめん」って言う彼の人柄は、めちゃくちゃに良い人。

私が謝るのではなく。

彼氏は付き合ってと言う前に、私を好きなことを周りに隠さず、私にも色々と伝わっていた。


碓氷君は真逆。彼は色々と女子ウケは高いのに、単なる友達以上の気持ちは、私に通じていなかった。

今も昔も変わらず、いきなり告白はこんなリスクがある。


イケメンでも性格も良いのに、恥ずかしいのか、気持ちを出さずにいる人。

「そう言うところ、良いな」でも

「一緒にいたら、楽しいなぁ」でも

「俺らは合うよな」でも良い。


2人には先があるかも?や、自分の考え方や、服装や、仕草を認めてくれるだけで、女子は気になる人になっていく。


碓氷君はその後も、何もなかったかのように、ずっと仲の良い友達でいてくれた。自然な友達で。

私が「告白されたのは幻?」と考えるぐらい、私を避けずに変わらず。

彼氏といる私とも普通に話してくれた。


たまたま彼氏がその場にいなくて、2人になってお茶でも行く?になっても、車で送って貰ったりしても、友達の線からは絶対に出ない。


他の遊び人の先輩たちは、彼氏がいる前でも平気で「1回だけでもデートしようよ」とか、冗談か本気かわからない感じで言ってた。

「俺ら付き合ったら、上手くいくって」とか。


碓氷君は2人だけになっても

「最近アイツとは上手くいってる?」と探ったり、「もう1回考え直してくれない」とか、「僕のほうが彼氏に向いてない?」とか、彼氏との関係を揺さぶるようなことは、一切しないし言わない。

冗談でも。


彼は1年ぐらいして、ひと月ぐらい女子と付き合っていた。

仲間内の先輩男子は、根掘り葉掘り聞いていた。私も聞いていた。

私の前で他の女の子の話は、しにくかっだろうけど。


先輩たちは容赦なく「キスは?した」とか聞いてる。

彼はやはりシャイなのか、笑って誤魔化していた。

が、本当にあっという間に別れて、私の知る限り、大学時代は彼女を作らなかった。

大学には女子もたくさんいる学校だったけど。


就職した職場は、主に女性の下着関係。

職場にも営業先にも、女子の比率がめちゃくちゃ高い。

周りは女子だらけ、とは聞いた。

彼は学年は1つ上だから、社会人と学生になって、偶然何度か会うだけに。


慎也さんは、私に彼氏がいるのは知っていたし、別れを考えていることも話した。

「さっさと別れたら?」とは言われた。

「お前なら、他に幾らでも相手は見つかる」とも。


モテる人がこういうことを言うのは、多分テクニック。

その中に自分は、含まれているかいないか曖昧だけど、何故か気になる。


女癖が悪そうなのは、周りの人の話から何となくわかってはいた。

元はプロでお金も稼いでいた、バンドマンだと聞いたら、なおさら。

背も高くて細身。女子は好きな人が多い顔、スポーツも出来そう。面白い。


モテるイケメンが、話術を身につけたら、最強になる。

話術が無いほうが、好きな女子もいるけど。

一緒にいて楽しい。

場所はどこであっても。

私に興味がありそうな、シグナルは出していた。

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