第2話 はじめての村

 ミオと名づけたスライムと一緒に森を抜けると、小さな村が見えてきた。

 木の柵に囲まれた集落。煙突から煙が上がり、人々の声がかすかに聞こえる。

 見知らぬ世界で、初めて「人の暮らし」に出会えた気がして、胸の奥が少しあたたかくなった。


「……行ってみようか、ミオ」

「ムキュッ!」


 返事のように鳴いたミオは、ぷるんと弾んで僕の足元をついてくる。

 その小さな存在が心強くて、僕は柵の門をくぐった。


 だが、村人たちの視線はすぐに僕に集まった。

 見知らぬ顔だからだろう。警戒と好奇心が混じった視線が突き刺さる。


「よそ者か……?」

「なんだあの連れは、スライムか?」


 ざわめきが広がる。

 僕は思わず足を止めそうになったが、ミオが「ムキュッ」と鳴いて僕を見上げてきた。

 ――大丈夫だよ、と言っているみたいに。


 その時、数人の子どもが駆け寄ってきた。

「わぁ! ぷるぷるしてる!」

「かわいい!」

「さわってもいい?」


 ミオは最初びくっとしたが、子どもたちに囲まれると、ちょこんと前脚のようなものを出して「きゅっ」と鳴いた。

 それが合図になったのか、子どもたちの笑い声が広がる。


「ねぇ、この子、名前あるの?」

「……ミオ。僕の、相棒なんだ」


 思わずそう答えると、子どもたちの目がきらきら輝いた。

「いいなぁ! スライムと仲良しなんて初めて見た!」

「お兄ちゃん、スライムテイマーなの?」


「え、あ……いや、そういうのじゃ――」


 否定しかけたけれど、子どもたちはもう耳を貸してくれない。

 「すごーい!」と歓声を上げて、ミオを「ミオちゃん!」と呼びながら撫で回している。

 ミオは最初戸惑っていたが、やがて楽しそうに「ムキュムキュ」と鳴き、子どもたちに身をゆだねた。


 その光景を見て、僕の胸がじんわり温かくなる。

 ――孤独で不安だったはずの異世界で、こうして笑顔が生まれるなんて思わなかった。


「……ありがとな、ミオ」

「ムキュ!」


 弾む声で返事をしてくれる。

 そのやり取りだけで、不思議と心が落ち着いた。


 この村でなら、しばらく生きていけるかもしれない――そんな希望が芽生えた瞬間だった。


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