最弱スライム? いいえ、僕の相棒は世界一かわいいです

フルーツ仙人

第1話 異世界で最初の友達


 気がつくと、僕は知らない森の中に立っていた。

 見渡す限り、木、木、木。足元には湿った土と見慣れない草花が広がっている。

 ポケットの中のスマホを取り出してみても、電波は入らない。地図アプリもまったく機能しなかった。


「……ここ、どこなんだよ」


 声に出しても答えてくれる人はいない。

 どうやら、異世界に来てしまった――そう結論づけるしかなかった。


 不安と孤独に胸を押しつぶされそうになりながら、僕は森を歩き出した。

 どのくらい時間が経っただろうか。喉は渇き、足も重くなってきた頃――


 ぷるん。


 目の前で、透明なゼリーのような生き物が地面から跳ねた。

 体の中心には泡のような瞳。まんまるで、つぶらで、こちらを見ている。


「……スライム?」


 ゲームや漫画で見たことがある、最弱モンスター。

 だけど、目の前のそれは僕を襲ってくる様子もなく、逆に小さく鳴いた。


「ムキュッ!」


 まるで返事をするみたいに、声をあげた。

 僕がしゃがんで手を差し出すと、ぷるん、とその上に飛び乗ってきた。

 柔らかい。冷たいのに、ほんのりあたたかい。不思議な感触だ。


「ついてくるのか?」


「ムキュ!」


 やっぱり返事をした。

 気がつけば、胸の奥が少しだけ軽くなっていた。ずっとひとりで心細かったから、こんな小さな存在でも傍にいてくれるのがうれしかった。


「よし……じゃあ、お前の名前は――ミオ。今日から僕の相棒だ」


「ミオ!」


 スライムはぴょん、と跳ねて僕の胸に飛び込んだ。

 透明な体がきらきら光って、まるで喜んでいるみたいだ。


 この世界で最初に出会ったのは、人間じゃなくて、ちっぽけなスライム。

 でも――僕にとっては、かけがえのない「最初の友達」だった。

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