第3話 仮想世界の食事。そして初めての水泳

(正面、近)

ここは海の家ってやつね

それくらいテレビで見たから知ってるわよ

で、ここでは食事も注文できるんでしょ?

何にする? 

私は吸血鬼だけど人間の食べ物が一切食べられないわけじゃないわ

まあ、飲み物ならぎりぎりってところね

え? これって……かき氷?

そうね。テレビにもよく出てくるし、試してみたいわ

この真っ赤なシロップなんて血の色みたいでいいわね♪

じゃあ、これを2つお願いね


(SE:シュンッと目の前にかき氷が現れる)

わっ、いきなり出てきた!

こういう所だけゲームっぽいわね

ふーん、見た目はどう見ても本物っぽいし


(SE:ガラスの容器をコンコンと叩く音)


手に冷たさが伝わってくるわ

本物の氷みたいに周りの空気も冷えてるし

よし……食べてみようじゃない……


(SE:シャクッと氷を救う音)


あーん! んぐ……あぁ……甘いわ……

人間の味覚を再現してるせいかしら

私も美味しいって思える

これが人間が食べてるかき氷の味

あむっ! んっ! んんっ!

いたたたたっ! 頭がキーンってしてきたわ!

なによ、これ!

はぁ? 人間もよくこうなるの?

一気に食べちゃ駄目って先に言いなさいよ……

でも、面白い体験だわ

本音を言うとこの苺シロップよりも

新鮮な血液をかけてくれた方が私好みなんだけどね

あむっ……んぐんぐ……

あぁ、また頭がちょっと痛くなる~

あれ? そっちは何を飲んでるの?

ブルーハワイってやつ?

海を閉じ込めたような色合いが綺麗だわ

そのグラスに刺さったパイナップル、可愛いわね

いただき~♪

ふふん、隙を見せたあんたが悪いのよ♪

あ~ん♪ んぐ……んんぅ……これも美味しいじゃない♪

せっかくだし、私も飲み物を頼もうかしら?

ええと、美味しそうなやつは……

あっ、このブラッドトランスフュージョンって名前も色も素敵ね

新鮮な血の色……♪ でも、あえて外すわ!

この隣のピニャコラーダって飲み物にしましょうか

ココナツとパイナップルジュースを混ぜて作るんですって

これを注文してっと


(SE:飲み物が出現する音)

来た来た♪ わー、真っ白で美味しそう♪

上にちょこんと広がってるパラソルがいいわね

そうだ。せっかくだからあんたも飲みなさいよ

さっき食べたパイナップルのお礼よ

そのストローをこっちに挿せばいいじゃない


(SE:椅子を引きずる音)

(正面、密着)

ほら、もっと顔を寄せて

一緒に飲みましょう

ンッ……ンッ……

あぁ……やっぱり私の目に狂いはなかったわ……♪

ココナツの甘味とパイナップルの酸味がマリアージュして最高♪

例えるなら20代イギリス貴族の女性の血液みたいね

この例えじゃわからないかしら?

まあ、いいわ

遠慮せずそっちもどんどん飲みなさい

ああ、いくら飲んでもお腹に溜まるわけじゃないのよね?

じゃあ、さっき見たブラッドトランスフュージョンも頼もうかしら

ううん、見栄えのいい飲み物、片っ端から注文しちゃうわ

高貴な吸血鬼である私が品評会を開いてあげる

ふふふふっ♪


(場面転換)

(SE:波の音を近くに)

(正面、近)

次はこの海で……泳いでみるのね……

これ見よがしに浮き輪なんて持っちゃって……

私は平気よ!

前に話したことあるわよね?

吸血鬼は流れる水の中では体が動かなくなるって

そうよ。私たちは例外なくカナヅチなの

でも、ここはゲームの中だから平気なはずよ

きっと……たぶん……

でも、念のために私の手を握る事を許してあげるわ!

もしも私が溺れたらすぐに引き上げるのよ。いいわね?


(SE:チャプッと海に入る音)

わ……わぁ……水が冷たい……

でも、これは現実の水じゃない……

絶対に溺れない……浮き輪だってつけてるし……

はぁ……はぁ……

うわ……もう膝まで海水が……足の先が見えなくなったわ……


(右、密着)

わ、私の体が海に流されないよう支えておくのよ!

私もあんたをがっしり掴んでおくから!

はぁ……はぁ……はぁ……

海水が……腰まで届いてる……

本物の海なら私はとっくに動けなくなってるはずよ

つまり……このゲームでは私だって泳げる!

ふふっ……私は吸血鬼の弱点を初めて克服した女になったわ……

この後は……どうすればいいの?

バタ足の練習? それって両足をパシャパシャ動かすやつ?

わかったわ……私の両手をしっかり掴んでいてね?


(SE:パシャ、パシャ、とゆっくりバタ足する音開始)

(正面、近)

はぁ……はぁ……うぅ……これでいいの?

両足をもっと? 水に叩きつけるみたいにすればいい?

はぁ……はぁ……波が顔にかかっちゃうわ……

でも、ちょっとずつ前に進んでるでしょ?

犬や猫でも泳げるんだから私に出来ないわけがないわ

んしょ……んしょ……

上手くなってきてる? 当然よ♪

はぁ……はぁ……この程度の事、私には造作もないわ……

顔? 海に顔を付けるって……

いいわよ、やってみようじゃない

ハァッ! ンッ……ンンッ……ン?

ンンッ! ンーッ! ンーッ! 

ぷはっ! ねえ、水中を小さい魚が泳いでたわ!

真っ赤な可愛いやつ! 見た? 

息を止めなくていいのはわかってるわよ!

でも、つい止めちゃうの!

もう1回やるわよ! せーの!

ンンッ! ンッ……ンンゥ……

ぷはっ! 今度は違う種類がいたわよ!

何よ? その微笑ましいって感じの顔は?

ねえ、もう少し深い所に行ってみようかしら?

て、手を放しちゃ駄目よ!

浮き輪があっても私にはまだ早いわ!

(SE:バシャバシャと勢いの良いバタ足5秒)

ふぅ……

ちょっと深いところまで来たわね……

ここも魚が泳いでいるのかしら?

見たいけど、暗い海の底を見るのは怖い……

わけじゃないわ! 

不気味な生き物がいるかもしれないでしょう?

私は綺麗な物だけ視界に映す主義なのよ

この海と空を眺めているだけで十分だわ

本当に綺麗よ……

ねえ、もう少し近くに来て


(正面、密着 有声ささやき)

私の目、今、どんな色をしている?

私の目はピジョンブラッド、鳩の血の色と言われる

最高品質のルビーと同じだって吸血鬼の社会で讃えられてるのよ

太陽の光の下だともっと綺麗に輝いてるでしょう?

どう? 感想を聞かせなさいよ

この青い海と空よりも綺麗?

ふふっ、存分に眺めて褒め称えるといいわ


(SE:高い波がばしゃーっとかかる。バタ足終了)

(正面、密着)

きゃっ! 目に海水が!

んぅっ! あぁっ! 目が見えないわ!

怖い! どこ!? どこにいるの!? 

うぅっ! 放さないで! どこにも行かないで!

はぁ……はぁ…… 

平気……? 絶対に放さない……?

ゲームの世界とわかってはいるけど、こんなに現実味があると

足がすくんでしまうわ…… 

このまま岸まで戻ってくれる?

ゆっくりよ? 私を置いて行ったら許さないんだから……


(場面転換)

(SE:パシャッパシャッと浜の上を歩く音)

(正面、密着)

はぁぁ……はぁぁ……はぁぁぁぁ……

地面に足が付くって素敵だわ……

泳ぎの初心者が沖まで出るものじゃないわね

生まれつき泳げない吸血鬼ならなおさらよ

あぁ……空があんなに青い……

見てると吸い込まれそうだわ

このまましばらくじっとしていかない?

昼の世界を感じていたいの

あっ、手はちゃんと握ってなさいよ?

また大きな波が来たら嫌だから

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