小鬼の涙

cherryblossom

優しい涙

むかしむかし、山の奥に

小さな鬼の子が住んでいました。


名前は「こおに」。まだ角も短く、力も弱く、人間の子と変わらないほど幼い鬼でした。


けれど、小鬼はとても涙もろく

ちょっとしたことでぽろぽろ泣いてしまいます。


山道で転んでも泣き、風に吹かれて帽子が飛んでも泣き、木の枝に鳥の巣が落ちそうになると心配で泣くのです。


「また泣いてるのか、小鬼」


森に住むキツネがあきれ顔で言いました。


「だって……かわいそうなんだもん」


こおには目を真っ赤にして答えました。


そんなある日のこと。

小鬼が岩陰でしくしく泣いていると

その涙がぽとりと土に落ちました。


すると、不思議なことに

そこから小さな芽がひょっこりと

顔を出したのです。


芽はみるみる伸び、やがて

淡い青色の花を咲かせました。


とてもきれいで、森の誰も

見たことのない花でした。


「な、なんだこれ?」と、驚いたキツネ。


小鬼も目を丸くしました。


「ぼくの涙から……花が咲いたの?」


それからというもの、小鬼が流す涙のひとしずくひとしずくが、森に新しい花を咲かせました。


道に迷った小鳥のために泣けば

目印になる光る花が。


折れた木の枝を見て泣けば

そこに癒やしの香りの花が。


小鬼の涙は、いつしか

「やさしい涙の花」と呼ばれ

森のみんなに大切にされるようになりました。


キツネは言いました。


「おまえは泣き虫なんかじゃない。森に花を咲かせる、やさしい小鬼なんだ」


小鬼は照れくさそうに笑いました。


そして今度は、涙ではなく

笑顔をひとつこぼしました。


――それもまた、花のようにあたたかく

森をやさしく照らしたのでした。

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小鬼の涙 cherryblossom @cherry1619

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