叶わない

打った文字を連ねていく。そして、連続して消していく。文字が消えて白紙に戻る。そんなことをずっと数時間やっている。気持ちを形にするのは簡単なのに、どんな言葉を使っても自分の形そのものに成らなくて笑けてしまう。

はて、私はどんな人間なんだと思うと虚しくなる。

空の色は数々の例えで伝える君を前に「晴れ」「曇」「雨」と幾つかしか思い付かない私は劣等感を少し覚える。素敵な人だと思う。と、同時に嫌らしく感じた。

隣の芝生は青く見える。

それと同じならそうなんだと思う。だけど、この心が君を求めているのは確かだった。君だけが良かった。君が良かった。言葉は、成らない。

優しく柔和な君。僕なんかよりもずっと言葉に重きを置いている君。どれだけ、僕が形にしていても何にもならないことを知ったアレから沢山の月日を通り過ぎてきた。

言葉は単純明快で、何よりも温度があった。それが本当に心が安らぐんだ。それだけなんだ。それだけで君の言葉を聞いていたいと思うんだ。

喋るのが苦手だった。人見知りもあるし、コミュ力というものも低かった。それでも君は優しく微笑んで言葉の音を弾ませた。知らない世界に連れて行ってくれるような気がして、ならなかった。

結局それを言葉にはできずじまいで終わってしまった。本当は他にも色んな言葉が浮かんでいた気がしてたのに、それだけで終わってしまった。

知っている世界が知らない世界かのように感じた。君のその少しずつ紡がれていく言葉を待つ時間が楽しくてしかたなかった。少しだけわがままを通せるのならもう二人きりの空間で永遠に君と喋っていたかった。

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