夕餉

唐突に風が吹き抜ける。

鼻の奥を燻る夕御飯時の日常。

わたしは歩みを止めない。ゆっくり夕陽が傾いていく過程の中でひとつまみの寂しさに侵食されていく。それでも、脚は進む。

唐突にクラクションが響く。

営業中とかけられている看板の横を通り過ぎる。

ドロリとした虚しさが足元を掬う。粘っちこく鬱陶しさを感じながら「あの人」を思い出す。沈んていく気がした。

唐突に喉が火傷を負う。

後ろに子供を乗せた自転車から漏れる笑い声。

何となく着飾ってる自分が痛いと感じた。重たくなっていく体。それでも、着飾っていくんだろうな。

泣いていた。喜んでいた。楽しく感じていた。怒る単純さに嫌気が差していた。

わたしが生きてる世界の空は淡くオレンジ色が染めていく。

「あの人」の世界も同じなのだろうか。いいや、そうではないだろう。「あの人」は言葉を知っていて言葉を操れる人だから、わたしでは到底思い付かないせせらぎで表すのだろう。

子猫がわたしを見ている。

子猫がわたしを目で追いかける。

子猫がわたしを見送る。

「……。明日も」

あるから。

変わらぬ、愛おしいとか感じれないほど代わり映えしない明日がくる。

「がんばろ」

空の向こうで流れ星が流れていて、オーロラが風に煽られて揺れる。

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