第8話 舞鬼
【2月18日 4:00】
辺りはまだ暗く、気温は5度。吐く息が白く、夜明けにはまだ遠い。
2台のカーキ色に染めた幌のついたトラックが、
有楽町線新木場駅のロータリーに着いた。
そこから覆面をした数人の男たちが降り、
大きな黒い塊を台車に乗せてシャッターの前で止まり、
脇にあるボックスにキーを差し込み、赤色のボタンを押した。
すると、シャッターはガラガラと大きな音を立てて開き始め、
普段より異常に早い時間にシャッターの開く音を聞いた駅員は、
宿直用の服を着たまま驚いて走ってきた。
作業をしていたうちの2人の覆面をした男は
駅員に向かって走り出し、ためらわずにサバイバルナイフで
駅員の左胸を刺した。血しぶきを逃れるように、
2人の男は止まることなく階段を駆け上がって宿直室へ入り、
残りの男たちがその台車の荷物エレベーターで
持って上がった頃、2人は宿直室から出てきた。
宿直室の中は私鉄と地下鉄の職員を含めて、
血だらけになった8人の男が横たわっていた。
ホームには2台の電車が停まっており、
仲間の一人がその電車の前から5両目の非常コックで
扉を開けて黒い塊を車両に入れると、
1人の男が運転席のドアを開き飛び乗った。
その男が無線で連絡をすると、ロータリー前に
停まっていた2台トラックから次々に迷彩服に覆面と
ヘルメットをかぶった男たちが降りた。
手には、それぞれ木製グリップの自動小銃AK-47を持ち、
足早にホームへ向かい、一列に並んでドアの開くのを待った。
先頭車両の前に立った男が手を上げるとドアが開き、
男たちは一斉に乗車した。
【4:35】
電車が永田町に到着。警視庁で降りなかった残りの
男たちのうち10人がここで降車した。
そして12人の駅員をナイフで刺殺し、
改札を出て階段を2階上がり、7番出口から都道府県会館へ入った。
ビル内にいたガードマン2人を射殺し10人のうちの
4人はエレベーターで上がり、黒い塊のシートをはずすと
赤いボタンと2本アンテナそれにタイマーの窓がついていた。
男たちが赤いボタンを押すとその
脇についていた緑のランプが点滅を始めた。
その4人はそのまま地下入り口を閉鎖し、
屋上にはライフルを持った4人が配置につき、
ビルの玄関前には2人の男が立った。
【4:40】
電車は麹町駅到着。ここでは11人が下車した。
駅のホームの先頭出口より侵入して2名の駅員を射殺し、
男たちは階段を上がってジャパンTVの正面口から突入した。
ガードマン2人を射殺し、地下入り口のシャッターを下ろして閉鎖した。
道路に面した2ヶ所の玄関に2人づつ計4人が
ライフルを構えて立ち、屋上には2人が配置についた。
残り7人は、10階建てのジャパンTV各階に入った。
ちょうどその頃、1階の奥のAスタジオで5時の
ニュースの準備をしており、アナウンサーを交えて
スタッフが打ち合わせをしていた。
そこへ、厚い防音扉を開けて男たちが入ってきた。
男たちは機関銃をスタジオ内にいる全員に向け、
男たちのうちの何人かが階段を上って副調整室へ入った。
機関銃が偽物だと思って飛びかかったスタッフの1人は、
首が無くなるほど弾を撃ち込まれ、
悲鳴とともにスタッフ全員がしゃがみこんだ。
Aスタジオが占拠されている最中、10階までの各階の局員は、
ある者は射殺され、ある者は部屋に監禁された。
【4:45】
市ヶ谷の駅に停車した車両から30人の男が降り、駅職員を全員射殺して防衛省へ走った。
5分後、30人の男たちは防衛省正門にランチャーを発射し、門に立っていた自衛官2人を吹き飛ばした。
そのまま右前方40メートル先にあるB棟に突入し、5階建てのB棟にいる自衛官30人全員を射殺した。
5時までのこりわずかという時、男たちは航空管制システム室へ入り、レーダーと通信設備を掌握し、2人が無線でその旨を伝えた。
【5:00】
無線を受けた1人が合図を送り、男たちが占拠したジャパンTVのAスタジオから覆面の男の1人が流暢な日本語で放送を開始した。
「我々は、警視庁、防衛省、ジャパンTVを制圧し、永田町に核爆弾を設置した。一般の人は早急に避難をしてください。私たちは、日本国代表と交渉をいたします。24時間以内に交渉に応じなかった場合、核爆弾を爆破させる。もし、アメリカ及び第三国が日本に対し協力に動いた場合でも、爆発させる」
*******
【5:10】
ある部屋に6人の男女が集まって、モニターを凝視していた。
そこは、まるで特撮映画に出てきそうな雰囲気のモニターとPC、
無線機のある未来的な部屋だった。
「あいつの言っていた通りだったな。まさか、
警視庁と防衛省を攻撃してくるとは予想できなかった」
モニターを見詰めながら、和久井俊が言った。
「ええ、予想以上に大胆ですね」
和久井と同じようにモニターを見ながら、
白尾がくもった表情で話し続けた。
「ピストルを撃たない警察、マシンガンを持たない
自衛官の国ですから。テロリストにとって簡単な事ですよ」
和久井は席を立ち、腕を組みながら歩き始めた。
そして、5人に聞こえるように言った。
「今から、手はず通りにテロ組織を制圧しなければならない」
「それが、隊長がまだ」
川島由美が力なく話した。
「ああ、とにかくあいつが書いたマニュアル通りに動いてくれ」
「はい」
「しかし、やつは本当に戻ってくるのだろうか?」
「大丈夫です。必ず戻ってきます」
と川島由美が自信を持って言った。
「確証があるのか?」
「自分達には解かるんです。もうすぐ目の前に隊長が現れるのが」
山野啓介が言った。
「よし、私も信じるぞ。さあやつが帰ってくる、準備してくれ」
和久井の言葉に5人の男女が立ち上がった
「はい」
返事をして各配置についた。
*******
18時過ぎ礼司が青山霊園に車を停めて寝ていた。
「こんばんは」
魔美は窓を叩いた。夜野はビックっと目をさまして魔美に言った。
「おお、仕事か? 今夢を見ていたよ」
「うん。今日は、いよいよ2月18日よ。だから貸切ね」
「何だ? 確かに2月18日だけど、それがどうした?」
「大切な日なのよ」
「まっ、最近売り上げが上がっていないから助かるなあ。で、どこまでだ?」
「ん~。汐留」
「なんか近いなあ。でも鬼が強いって事か?」
「うん、まあね」
礼司は無線でタクシー会社に連絡を取った。
「大丈夫だ。明日の朝8時までだぞ」
「はい」
魔美はポケットから鬼のノブを取った。
「今回もこれをつけてね」
「うん」
礼司がノブを取り替えてキーを回すと、キーンという音をたてて
エンジンがかかった。
「行くぞ」
「うん」
「魔美、元気ないぞ」
「ああ、大丈夫。今度はちょっと難しいから」
礼司が後ろを振り返ると、いつも通り誰も乗っていない
タクシーが停まっていた。
「今日はどんな鬼だ?」
「今度は鬼はいないの。相手はテロリスト」
「何? 今回はスペシャルか? 外人か? 人数は?」
「全然、解らない」
「それで、どこへ行くんだ?」
「今、私たちがいる世界とは別の世界があってね」
「パラレルワールドか?」
「うん。この世界と似ているんだけど、微妙に違うの」
「テロリストが東京を襲って。俺が有名な科学者とか?」
「近い、すごく近い」
「あはは、実はさっきテロリストの夢を見ていたよ。すごくリアルな」
「なんだ、知っているんだ」
「何?」
タクシーが新橋の交差点に着く頃、魔美がキョロキョロと
辺りを見回しながら言った。
「向こうの世界に行かなきゃいけないんだけど……」
「どうやって?」
「この辺りに入り口があるんはずなんだ」
魔美は周りを見渡した。
「おお。それなら、モノレールの高架線を支えているあの柱の間だ」
「えっ、見えるの?」
「うん、この前の阿佐ヶ谷の駅と同じ感じがする」
「そうか、良かった。心配はこれだったの」
「心配?」
「そう。今度のパラレルワールドへ行くには、夜野さんの霊能力が必要だったの」
「マジ?」
礼司はアクセルを踏んで、柱の間にタクシーを走らせた。
するとまるでトンネルに入ったかように
目の前が真っ暗になり礼司はライトをつけた。
1、2分ほど走ると周りが明るくなっていった。
「あれ、景色が変わっていないぞ」
「たぶん、移動したと思う、ここから、汐留に向かって」
「おお」
礼司はビル街をキョロキョロ見渡すと。
「あれ?¥ビルの様子が変だったぞ。発掘調査が遅れたのか」
礼司たちは汐留のビル街の駐車場に入り、
タクシーを業者用の入り口に停めた。
「どこかわかるか?」
「わからない。私もこの世界は初めてだから」
そこへガードマン風の男が走ってきた。
「夜野礼司さんですね」
「はい」
男は敬礼しながら言った。
「このまま真直ぐ下りて地下2階に行くことができます」
ガードマン風の男は礼司の目に赤いライトを当てると
目の前のバーが上がり、エレベーターのようにタクシーごと
地下駐車場へ降りていった。しかし、目の前は壁になっていた。
「おい、壁だぞ」
すると、壁からさっきと同じような赤いライトが車を照らし、
しばらくすると、左側の厚いコンクリートの壁が開いた。
「おお」
礼司は驚きの声を上げると魔美は礼司を誘った
「入ろう」
「ああ」
礼司はタクシーを動かし、開閉された壁のほうに進んだ。
この道は下り坂になっていて、
奥には明るく照らされて入り口のようなものがあり
その玄関にはサブマシンガンを持った制服の男が立っていて、
礼司たちに向かって大きな声で言った。
「ここで車を停めて降りてください」
礼司はタクシーのエンジンを止めて、
キーを抜きながら魔美に言った。
「お金置いていっていいかな」
「たぶん。取る人いないと思うよ」
礼司たちは玄関の扉を開けて入ると2人の男が敬礼をした。
礼司は頭を下げて挨拶をした。
「こんちわ」
魔美がその様子を見て言った。
「夜野さん、意外と腰が低いのね」
「ああ、この仕事しているとな。サービス業だから」
「うふふ」
そこに立っていた男の1人が前を歩き出した。
「どうぞ。案内します」
礼司は男たちの姿を見ながら、魔美にこっそりと呟いた。
「さっきの夢と同じだ。やっぱり特撮の世界だぜここ。
ウルトラ警備隊に制服が似ていたぞ」
さらに、エレベーターで下に下がると真直ぐな通路になっており、
すれ違う人たちは立ち止まり、礼司と魔美に敬礼をした。
そして、その通路の突き当たりの扉が開いた。
【パラレル時間6:30/元の世界18:30】
そこには6人の男女が座っていて、
1人を除いた皆が立ち上がって礼司に敬礼をした。
「お帰りなさい、隊長」
そして、髪の長い清爽な感じの女性が魔美に頭を下げた。
「川島由美です。よろしく」
「お帰り、夜野君」
正面に座っていた男が立ち上がり手を差し伸べてきた。
「俺か?」
夜野は握手をしながら、不安げに魔美を見た。
「夜野さんはここの組織、SSATの隊長です」
と山野啓介が言い5人が口をそろえて言った。
「はい」
「そ、それはこっちの世界の夜野だろう。俺じゃない」
「そうか、憶えていないのか」
と和久井が言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ひょっとしたら、
今永田町に核爆弾がセットされていないか、
それと警視庁と防衛省とテレビ局が占拠されて・・・・・」
「はいその通りです」
さっきの川島由美が答えた。
礼司は思考をめぐらしながら言った。
「麹町のTV局が占拠されて……。ジャパンTVは
汐留に引っ越したはずなんだが……」
「こっちはまだ汐留と麹町2か所で運営しているらしいわ。
この組織の工事のために遅れたみたいね」
魔美は礼司の耳元で囁いた。
礼司は由美に向かって
「そうか」
「その通りです。隊長」
「あはは、そうか。そうか」
礼司は魔美の耳元で囁いた。
「おい、お前は何で違和感なくここにいるんだ」
由美が間髪入れずに礼司に答えた。
「それは、隊長が残した指示書に女性と一緒に
帰ってくると書いてあったからです」
「まだ、記憶が戻らないようだな。
夜野君に部屋へ行って着替えてもらってくれ」
和久井が由美に向って言った。
「はい」
由美が礼司を招き案内した。
由美はまるで、化粧品会社のシャンプーのCMのような
長い黒髪をなびかせタイトのスカートがセクシーだった。
「どうぞ」
ドアを開けて由美が部屋の中に案内した。
「これが、俺の部屋だったのか?」
「はい。厳密に言うと、隊長が以前使用していた麻布の
部屋の荷物をそのまま移動させてきたものです」
「そうか」
礼司がそう言うと、突然、由美が抱きついてきた。
「隊長」
由美は涙を流し始めた。
「おお、どうした」
礼司は顔を赤らめると、どうやら、こっちの礼司と由美は
親密な関係だった様子で礼司は悪い気はせずハグに答えた。
由美は涙を拭きながら言った。
「制服はこちらです。ロッカーの中に」
そこには、スタンドカラーの軍服のような服が入っていて、
礼司が視線を感じて入り口の方を見るとそこに魔美が立っていた。
「お邪魔だったかな。夜野さん、事情がまだわからないよね」
「ああ」
「さっきから言っていたのは、あなたなの事よ」
「でも、俺には記憶がないぞ」
「向こうの世界に移動した時に記憶がなくなったの」
「俺には理解できそうにないけど……でも実は何となくこっちの世界が見えていた。
でも、これって夢の世界だと思っていたよ」
「現実よ、現実」
礼司は周りを見渡し、壁に飾ってある自分の写真や資料を眺めた。
「これが俺か?」
礼司は由美に聞いた
「はい」
由美がきっぱりとした口調で返事をしたのを聞きながら、
礼司は机の上に置いてある1冊の手帳に目が移した。
礼司は手帳をめくってみると、それは日記であった。
「1年前で終わっているな」
「ええ。1年前の今日、2月18日。隊長は必ず戻ると言い残して……」
「ああ、思い出してきたよ。俺はかなりの予言をしていたようだな」
【3年前】
アメリカで大きなテロが起きた。それは、世界中を恐怖に落としいれる事件で日本でも警察庁、国家公安委員会でテロ対策について審議されていた。
その当時、公安部の和久井は新たに対テロ組織公安3課の組織作りを指示された。
和久井がリストアップした中に夜野がいた。
*******
「夜野礼司は現在、渋谷警察署生活安全化の警部、元第5機動隊に所属していました」
人事部の鈴木が言った
「ん?ノンキャリアかたいした経歴じゃないじゃ無いか」
和久井が怪訝そうに言った
「ところが人が変わったとでも言うんでしょうか。機動隊に所属していたときはまじめ一方な警察官でしたが1年前に受けた警部昇進試験が満点でした」
「満点?」
「はい、運転術、逮捕術、射撃は一発もはずしたことがありません、しかもプロファイリングおいては写真を見ただけでその人物の家庭環境、経歴、人間関係まで分析してしまうのです」
「まさか、そんなやつはいないだろう」
「いいえ、彼が着任してからの生活安全課の検挙率は100%なんです。署長賞を10回受けています」
夜野礼司は警察庁の会議室に呼ばれた会議室で和久井が言った。
「過去に10回の署長賞をもらっているが、今、転属願いを出している鑑識課だったな」
会議室のテーブルの一番奥にいる男が言った。
「はっ!」
「今日呼んだのは他でもない。君に今度できる
組織の現場の指揮をしてもらいたい」
「そう言われましても」
「夜野君は、ここ1年ですばらしい実績と優秀な成績を収めている。なぜだ?」
和久井が尋ねた。
「はい。実は1年前急に勘が強くなりまして。
すべての先が見えるのです。犯人の動きや行動。
信じてもらえませんでしょうが最近は死んだ人の声もそれで、
その力を利用して鑑識を希望しておりました」
「死者の声も聞こえるのか?」
「はい」
夜野はテーブルの奥に座っていた。楠警視総監の経歴、
子供の頃の差しさわりの無い話をした。
そして和久井の経歴も話し始めた
「も、もういい。解かった」
「はい」
「夜野君。君の能力は今度の新しい組織に必要なのだ。
この国も、近いうちにテロ事件が起きるはずだ。
この国を守るためにも、ここにいる和久井と共に尽力してくれないか」
和久井警視正が礼司に頼んだ
「わかりました。和久井警視正、よろしくお願いします」
礼司が深々と頭を下げた
こうして、夜野以下6人のメンバーが選出され、
和久井を筆頭とする新しい部隊
「SSAT」が組織された。
和久井は夜野に5人の肩書きが書かれている
メンバーのリスト表を渡した。
沢村以外は礼司が元所属していた第5機動隊から選ばれた
川島由美警部…分析、作戦のスペシャリスト
沢村忠志警部…交通機動隊白バイ隊小隊長
山野啓介警部…武道の達人、接近戦逮捕術は抜群
浜田裕也警部…武器のスペシャリスト。作戦によってもっとも適した武器を選ぶ
白尾月渚警部…射撃のスペシャリスト。狙ったものは99%命中する
【2年前】
14時55分、南町交差点の角にある荒川信用金庫に強盗が入ってきた。
非常ベルを押そうとした行員に犯人は発砲し、行員は肩を撃たれて出血し、もう1人の行員は頭を殴られて倒れていた。犯人は大声で叫んだ。
「これは偽物じゃないぞ。さあ、金を出せ」
その時、ATM機の前にいた客が隙をみて逃げ出し、警察に通報した。
そして、強盗は行員22名、客6名に銃を向けて人質にした。
麻布にあるSSATの準備室に電話が入り、呼び出された和久井がデスクに戻ってきて言った。
「初仕事だ!」
夜野礼司が率いるSSAT
次々功績を上げて行った。
【1年前】
2月18日。千葉市海岸のコンビナートでテロが行われようとしていた。
もしコンビナートの石油タンクが爆破されれば、その煙で東京湾は航行不可能になるほど膨大な被害をこうむることとなる。そのためにコンビナートの
中枢部は入り口から2重3重の扉で守られていた。
公安が入手した情報では、入り口付近は警察によって完全に守られていた。
そこへ、猛スピードで走ってきた1台の4輪駆動車が急に蛇行運転になり、
入り口付近に止めてあったパトカーに激しくぶつかって爆発し、そこで火柱が数十メートル上がった。
「やったな」
浜田が白尾の頭を叩いた。
「大丈夫かしら。周りにいた人たち」
「うん。でもすごいぞ。時速100キロで走っている車のタイヤを、300メートル離れているヘリコプターから撃ち抜くなんて」
「えへへ。隊長に連絡しなくちゃ」
警備の厳重なコンビナートだがタンカーが着岸するために
海からの守りが弱くなっているのを夜野礼司は察知し、
海上で待機していた。
「隊長、白尾がテロの車止めたそうです」
由美が礼司に報告をした。
「ああ、あの火柱だな」
黒い煙が見ながら夜野が言った。
「すごいですね、彼女」
「でも、まだまだだ。まだ99%だからな」
「相変わらず厳しいですね」
「ああ。お前もまだあまいな」
「えっ」
双眼鏡を見ていた夜野礼司が言った。
「来たぞ」
「テロリストですか?」
沢村が言った。
「たぶん、浦賀水道を横切ってきたボートだ。
白尾に大至急ボートを狙撃するように言ってくれ」
「はい」
由美は無線でヘリコプターで海上を旋回している浜田に連絡を取った。
「まずい、早いぞ。120馬力以上のボートだ」
浜田がボートの動きを確認すると
「あのままタンカーに突っ込むらしいな」
夜野礼司は海上保安庁の船からボートに乗った。
「隊長、どうするんですか?」
由美がデッキから叫んだ。
「ヘリの狙撃が間に合わなかったら、俺が阻止する」
「そんな、だめです」
由美が必死に止めた
ヘリコプターでは、2人の会話を無線で聞いていた浜田が、
白尾に向かって大きな声で叫んだ。
「白尾、絶対命中させろよ」
「了解」
しかし、300メートル先のタイヤを撃ち抜いて
集中力が切れていた白尾は、手が震えていた。
夜野はコンビナートに停泊しているタンカーを背に、
テロリストのボートへ向かった。
ヘリコプターの白尾はターゲットを捉えて引き金に指をかけた。
その時、無線から
「狙撃中止」
由美の声が聞こえた。
「えっ?」
月渚はその声で引き金から指を離すと引き続き、
無線から聞こえてくる由美の声に耳を傾けた。
「月渚、後ろから来るプレジャーボート狙って」
「は?」
「いいから、早く」
「はい」
白尾はスコープを覗くと、プレジャーボートに
4人の覆面をした男が乗っていた。
間髪入れずにライフルで5発撃つと、
プレジャーボートは100メートルの火柱を上げて爆発した。
「月渚、急いで隊長を」
「はい」
夜野礼司はヘリコプターを見ながら言った。
「由美いい判断だ」
その時、ヘリコプターの中の月渚は、
最後の一発でテロリストを仕留めるか、マガジンを交換するか迷った。
月渚は浜田から受け取ったマガジンを交換せずに、
ライフルを撃った。そして、操縦していた男の頭をぶち抜いた。
しかし、男は舵に覆いかぶさりまっすぐタンカーに向かってきた。
「やはり、狙撃じゃだめか」
礼司はボートをテロリストのボートへ向けて走らせた。
「隊長危険です。戻ってください」
由美が言った白尾はマガジンを交換しボートの甲板に5発撃った
「あっ、爆発しない・・・・。爆弾は積んでいなかったの?」
白尾がホッとした瞬間
夜野礼司が乗っていたボートはテロリストのボートと激突
し爆発した。
「隊長・・・・・」
月渚は涙を流した。
そして、海上保安庁の船に乗っている
沢村と由美は呆然と立ち尽くした。
その時由美の頭の中に礼司の声が聞こえた
「来年の今日、またテロが起こる。それは必ず防がなくてはいけないんだ。
来年までのすべての指示書は俺の机の上においてある」
「隊長」
「俺は必ず帰ってくる」
*******
礼司は突然、由美のお尻をなでた。
「由美、その尻鍛えているな」
「思い出したんですね。隊長」
「しょうががないなあ」
隣で見ていた魔美が呆れ顔になって言った。
礼司は日記を眺めながら由美の言葉に応えた。
「ああ、少し思い出したよ。由美のお尻とこの日記でな」
「はい」
由美は返事をしながら、目尻に涙を溜めていた。
「俺が向こうの世界で時々見ていた夢は、こっちの事だったんだな」
「そうです。私が隊長に念を送っていたんです」
「届くもんなんだな、世界が違っていても」
「うん」
魔美がうれしそうに笑った
「つまり、2人の夜野礼司が合体したわけだ。
由美さんこっちの夜野礼司はどんな人だった?」
「3人だよ」
魔美は囁いた
「まじめで信頼置ける人でした」
「ん~、俺とは正反対かな。テレビ局マンと警察官じゃなあ。あはは」
「でも、私今の隊長も好きですよ。明るくて」
「ありがとう」
SSAT(Super Special Assault Team)
本部は浜離宮の地下深くにあり。正式名は警察庁警備部公安第3課。
3年前、警察庁、警視庁、防衛省、検察庁によって
超法規対テロ組織の設立が計画され、選抜された6人は、
1年間の訓練を受けて2年前に活動を始めた。
射撃A級、爆弾処理、格闘技、3ヶ国以上の言葉を話し、
全員指揮権を持つ警部である。射殺を認める組織のために
トップシークレット扱いで、民間人に部隊の存在は知られていない。
また、全国6大都市には、各50名、計300人の
隊員が存在しており彼ら6人はこの隊員を指揮する事ができるのである。
普段は普通の警察官だが、1度事件が起きた時には集合する。
そして、このSSATのトップが和久井俊警視正なのである。
制服に着替えた礼司は司令室に戻った。
「和久井さん。心配かけました」
「おお記憶が戻ったか」
「はい」
礼司は真ん中のテーブルの前に立つと
テーブルに広げてある資料を眺めながら言った。
「由美、今何時だ?」
由美がその質問に答えた。
「7時00分です」
「川島、状況を説明しろ。俺が書いたマニュアル通りに実行したか?」
「はい。隊長のマニュアル通り110番をSSATに転送。
永田町から半径10キロの住民の避難、及び閉鎖。
避難者の交通渋滞処理。報道規制。
これらの項目は終了済みです。それと現在、
警察幹部は調布の警察大学へ移動しています。
それから、総指揮はSSAT隊長が行う事で上層部に確認済みです」
「核爆弾はどこだ?」
「都道府県会館です」
「了解よくやった。月渚、アメリカには直接こちらから
連絡ができるようにしておいてくれ」
「はい」
「あれは本物の核爆弾だ」
「やはり」
武器に詳しい浜田が言った。
「では、防衛省のB棟を押さえたのは?」
沢村は不思議そうに言った
「たぶん、強行手段を監視するため航空管制が目的だろう」
「その前に核を押さえるんですね」
山野が言うと
「ああ、できるだけ早く」
メンバー全員が緊張した声で返事をした。
「はい」
「由美、総理を政府専用機に乗せて飛ばしてくれ」
「はい」
由美は受話器を持った。
「魔美。あちらの世界とこちらの世界の時差は?」
「12時間よ」
「と言う事は、向うは20時ごろか」
礼司は考えて
「魔美、向こうの世界に出入りできるのはタクシーだけか?」
「ううん、もう一つ方法がある」
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