7 ダークナイトフェスタ in TOKYO(会場:代々木公園)


永江キュルンはSNSから人気が出たバラエティタレントだ。


現在21歳、少し大黒天に似た顔が親しみやすく、その柔和な顔立ちの割にスタイルは良く主にダンス動画とメイク動画で10代後半の女子にウケた。

スタイルが良い、とはいえ痩せすぎてもいない女性的な体型も共感と支持を得るのに一役買っていた。この半年で外仕事も増え、一社だけだがCMの仕事も貰えた。

これからメディアでの露出が増えるのをキュルン本人も自覚し、やる気がビュンビュンみなぎっていた。今はどんな仕事も全力でやり切るぞ、そんな時期なのだ。


代々木公園でのハロウィンコスプレイベント

『ダークナイトフェスタinTOKYO』

今日はこのメインイベントであるコスプレコンテストのサブMCとしてキュルンは来て居た。ゾンビナースのコスプレで目には瞳孔が白くなるカラコンを入れ灰色のファンデで顔色を悪くして鼻と口から血糊を流し、ナース服はいかにもコスプレ物らしい体型にキュッとフィットした薄いピンクのセクシーな物、コンテスト参加者より目立ってしまわないよう気を配りつつ自分の魅力を最大限に活かす、キュルンの狙い通りの衣装だ。


メインMCの中堅芸人・サンタロウのフォローを受けつつ会場を盛り上げていく。多少スベっても全部上手く拾って笑いに変えてくれるのは流石だ。

舞台前には数千人の観客が思い思いのハロウィン仮装で盛り上がっていた。魔女やパンプキンヘッド、ゴーストや骸骨、みんな其々それぞれにこのイベントを楽しんでいるようだ。


進行表通り四人、五人、かなりのクオリティのコスプレイヤーを紹介していく。


「私ももっと派手にしても大丈夫だったな」

キュルンはそんな風に考え始めていた。来年もこのお仕事が貰えたら、もっと露出を高めよう。それで来年は私がメインMCになれてたらいいな。


さあ、次はこのコンテストの目玉の人気コスプレイヤーだ。舞台袖に控えるその出演者が前髪の分け目を何度も直すのが見える。

「あれはカワイイわ」キュルンは如何いかにも男性受けしそうな出演者『夜風めろ』の小動物系の顔立ちに少し劣等感を覚えた。濃いメイクをナチュラルメイク風に見せるテクニックもすごいし、真っ白い胸も頑張って寄せて上げた自分より二~三カップは大きそうだ。


イヤーモニターを着けたイベントディレクターがキューを出し、そのコスプレイヤーが舞台袖からステージに向かって一礼してから跳ねる様に飛び出た瞬間、客席は最高に盛り上がった。彼女目当ての観客も多いのだろう、配信のアクセス数も跳ね上がっている。心なしかサンタロウのテンションも高い。


「夜風めろさんでしたー、大きな拍手をお願いします」

サキュバスコスで決めた人気コスプレイヤー夜風めろが観客に両手をブンブンと振りながら舞台袖にけようとしたその時、キュルンの目の前の空間直径2mほどの景色が反転し色が複雑に変化し

《ぎいいぎいぎぎぎいいい》

という巨人の歯軋りの様な音がした。同時に周囲の温度が一気に下がった様に感じる。キュルンは脳に響く余りに耳障りな音にしゃがみ込みたくなるのをプロ根性で耐え、何とかその場に留まった。

数秒の異音の後、その空間から捻り出されるように重厚なフルプレートアーマーの青年が現れる。煌めくような金髪、白く輝く鎧には金地のレリーフ、左手に大きな盾を携え、腰には優美な意匠を凝らした片手剣を備えている。

えっ、CG?すごすぎなんだけど?

観客もキュルンも一瞬呆気に取られたが、会場は一気に盛り上がった。

「超スゲー!」

「CG?ドローン的なヤツ?」盛んにスマホをかざす客席。

キュルンのイヤーモニターにディレクターからの「回せ」の指示が飛ぶ。

「凄いクオリティの人が出てきたぞ!」

サンタロウがすかさず客を煽る。〈インタビューは私の仕事だ!〉キュルンは急いでマイクを青年に差し出し、


「お名前をどうぞ!」と明るく声を掛けた。

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