10.文化祭準備でバトル勃発!
翌日の放課後。
私たちはさっそく、昨日、ケン校長先生に言われたとおり、体育館で演劇部の劇のセットを設置していた。
一心くんは、木箱なんかの重い小道具をせっせと運んでは積み上げ、私とゆゆりんは、逆に軽いダンボールで造られた木なんかを運んだりする仕事をこなす。
体育館には、演劇部の部員数名と、私たち生徒会の他にも手伝いに来てくれる一般の生徒が何人かいて、わりとワイワイガヤガヤとしていた。
中でもせとは、ジュリエットがロミオに会いに現れる(今年の演劇部の劇は、ロミオとジュリエットなんだって)バルコニーを、はしごにのぼって設置するという大仕事を任され、大活躍している。
ひゃー、せと、あんな高いところでよく作業できるなあ。
私なんか、高所恐怖症だから、ゼッタイ震えちゃって仕事になんないよ!
真剣に作業するせとをしばらく少しの尊敬のまなざしで見つめたあと、「さて」と目をそらし、木を設置する仕事に戻った私の耳を、つんざいたのは。
「笹浜くんっ!!!!!」
という、悲鳴みたいに高い、女子の声だった。
「……あ?」
当惑するせとの声。
おどろいてせとに目をやる私。
見ると──はしごが、倒れかけてる!
「せと! あぶないっ!」
とっさにかけだす私。
ガッシャアアアァン!
はしごが、ハデな音を立てて壇上に倒れた。
「だっ、大丈夫っ⁉」「ケガは⁉」
と、あわててみんなが、私たちのまわりにかけよってくる。
「い、痛たたたぁ……。せとっ! 大丈夫っ⁉」
「っ、お前アホか! 危ねーだろ! 倒れそうだと思ったら逃げろよ! バカみかる!」
なっ!
助けようとしただけなのに、なんで怒るの⁉
「これも邪神のしわざなら……私が、せとを守らなきゃって!」
そうだよ。だって。
【あみだぶつ】の仕事を引き受けたのは、他でもない私なんだもん!
「オレが! いつ! お前に守ってくれだなんて頼んだよ⁉」
ビクッ!
怒りをたたえたそのするどい視線に、心臓がヒュッ……となる。
せとが私を、お前、って呼ぶときは、本気で怒っているときだ。
「……あっぶねーから、みかるはもう向こう行ってろ。オレは、大丈夫だから」
せとは、怒りすぎたと思ったのか、私を呼ぶのがみかる、に戻ってる。
「ケッ!」と吐き出したのは、昨日階段の踊り場でせとの陰口を叩いていた、あの三人の男子たちだ。
「一回痛い目見せてやろーと思って、わざとはしごも壊しといたのに。助かるとか」
わっ! 今ハッキリ、私とせとにしか聞こえないキョリに来て言った!
ブチッ、と、せとの堪忍袋の緒が切れる音がした。
「テメーらのせいで! 邪神が! 夜な夜な枕元に来て、『お前も本当は、カゲでコソコソ言われているのに気づいてるんだろう? あいつらに復讐したくないのか』って囁くもんだから、オレの安眠が妨げられてんだよォォ! どーしてくれんだァアア!」
トツゼンブチ切れたせとに、3人の男子はおどろいた様子だ。
「なっ! 邪神? 意味わかんねぇ! お前が……笹浜が、オレらの大事なサッカー部のポジションとるからだろうがあ! いい気になってんじゃねえ!」
「そうだそうだ! 女子にもひそかにモテやがって、お前には生徒会があるだろうが! 十番返せ!」
「だったらそう言え! ひがみやがって……オレがコソコソ言われてんの気づいてねーとでも思ったか! 男のクセに、インケンなことしてんじゃねえっ!」
ワアアアア! と、体育館で乱闘する3人VS1人の男子たち(※せとが一番暴れてます)。
先生もいたけれど、止めに入るのはめちゃくちゃ難しそうに思えた。
そのくらい、ハデにやり合っている。
「ゆ、ゆゆりん。一心くん。どうしよう?」
オロオロとあわてふためく私。
ゆゆりんは、ふう、とため息をついて。
一心くんは、少しあきれ気味にこう言った。
「せとくんがあんなに怒るのは、やはり普段から、色々とおさえていたからなのでしょう。……ああなったらもう、止めようがありませんもの」
「男には、拳で語り合わなければいけない時があるんですよ。みかるさん」
な、なんかふたりとも、いいこと言ってる風だけど、めちゃくちゃドライだよ⁉
っていうか、邪神がせとに取り憑いて……って、ゼンゼン、取り憑けてなああーい!
せとは、強い美魂で、邪神をもはね返してしまったんだ。
「そんでもって、オレがいない時に、オレの机にラクガキすんじゃねええー! 誰がミスターたいやきだゴラァ!」
あのラクガキ、せとが描いたんじゃなかったんだね。
同じクラスだから知ってるよ。
いつもせとの机の横を通る時、どんだけたいやき好きなの……って、私も思ってたから。
今回、私たち『ごくらく★生徒会』の出番はなかった。
そして、勉強になったこともあった。
邪神が美魂を奪おうと惑わしてきても、要はそれに乗っからなければいいんだ。
なにはともあれ。一件落着! かな?
めでたしめでたし!
一心くんとゆゆりんは、
「さて。手伝いも終わりましたし、帰りましょうか。ゆゆりんさん、ジュースおごりますよ」
「まあ、ありがとうございます」
と、ふたりでさっさと体育館を出ていってしまう。
そのあと、せとたちのケンカは30分も続いたらしく──、あまりの騒ぎにそれがケン校長先生の耳に入ったらしくて、せとたちはあとで、こっぴどく怒られたんだって。
あっ、これは後日談なんだけどね。
今年の文化祭での演劇部の劇『ロミオとジュリエット』は、桜望中の生徒に大好評だったんだって。
うー、私もお姫様役とか、一度でいいからやってみたいなあ〜!
やっぱり、ドレスは女の子の永遠の憧れだもんねっ。
この日は家に置いたままだった、犬とネコの2つのぬいぐるみ。
阿弥陀如来サマと壱おじいちゃんは、私がせとの話をするのを聞いて、心なしか、素直に感情をバクハツさせたせとに、好印象を抱いたようだった。
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