5.まゆうちゃんの本音

 ドキドキドキドキ。

 私は、胸が高鳴るのを感じていた。

 だってだって! さっきためしに札に触れてみたら、さっそく、こんなことがあったんだもんっ。

「じゃー出席とるぞー。雨宮ー」

 私は、札に気を取られすぎて、先生に自分の名前を呼ばれたことに気づかなくて。

「おーい、雨宮はいるか?」

「雨宮さんっ。呼ばれてるよ」

 うしろの席の男子に言われて、私はつい、

「ほえっ⁉ あ、私っ? は、はい! 雨宮みかる、ちゃんといまするですっ!」

 って噛んじゃったんだよね。

 クラスからどっ、と笑いが巻き起こって、私は赤っ恥をかいた。

「おーい生徒会長、しっかりしろよー」

 なんて、先生も言ってるし。

 あちゃーやっちゃったー、って思ってたら、その時せとのやつが、

「ったく、朝から笑わせんなよー。雨宮は、今日も安定のアホだな」

 って私を見て、みんなに聞こえるように言ったの。

 せとは、みんなの前ではなぜか私を雨宮って苗字で呼ぶ。

 幼なじみで、生徒会も同じ私たちは、よく一緒にいるのをみんなに知られ過ぎてるから、多分、付き合ってる? なんてゴカイされるのが恥ずかしいんだと思う。

「なっ! 先生! 笹浜くんひどいと思います!」

 だから私も、みんなの前ではせと、じゃなくて、笹浜くんって呼んでるんだよ。

「オイオイ、ケンカすんなよー。出席を続ける」

「先生、スルーだー」とまたクラスから笑いが起こる。

 ────『ちっ、みかるのアホ。ひどいのはお前の数学の点だろーが』

 その時、いきなり頭の中にせとの声で、こんな心の声が聞こえてきた。

 えっ、うそ。なにこれっ!

 びっくりしたけれど、私をみかるって呼ぶのも、せとの本音っちゃあ本音。

 私の数学の点数を知ってるのも、せととゆゆりん、一心くんに、まゆうちゃんだけ。

 すごい! これが『正真』の効果!?

 ぐぬぬっ! めちゃくちゃムカつくけど、この札、本物だ……!

 まゆうちゃんの方を見ると──きこえてくる、本音。

 ────『私だって、ほんとは生徒会に入りたかった。生徒会、大変そうでご愁傷さまだなんてウソ。だって私は、私は──せとくんのことがずっと、好きなんだもん』

 ◇

 ぼーっ……。

 私は、ぽけっと頬杖をつきながら、空を見つめて考える。今は、放課後。

 生徒会メンバーでいつものように生徒会室に集まる前に、私はひとり、屋上に来たんだ。

 グラウンドでは、野球部やサッカー部、それにテニス部や陸上部が頑張って走ったり打ったり。

 時折、吹奏楽部が演奏しているトランペットやフルートの音が聴こえてきたりして……。

 ……まさかまゆうちゃんが、せとのことを好きだったなんて。

 昨日見た、あのまゆうちゃんのあせった表情。

 私がせとと仲が良いって、気楽にケンカなんかして話してるのを見て、辛い気持ちになってたからだったんだ……。

 まゆうちゃんの心の中には、私がせとの話をするたび、黒い雲のような、イヤ〜な気持ちが、きっとこれでもかってくらい、立ち込めていたんだね……。

 私はその恋ゴコロに、なにも気づかなかった。

 言ってくれれば良かったのに。親友なんだから。でも……。

 ……好きな人の話とかは、ナイショにしておきたいタイプなのかな?

 私は目を細めて頭をかかえる。

 うーっ、バカッ! 私のバカバカ!

 なんで気づいてあげられなかったんだろう……。

 まゆうちゃんの内に秘めた本音を知ってしまった私はもう、やることなんてひとつに決まってる。

「よしっ」と一息ついて、屋上を後にした。

 私は、生徒会室に向かいながら、その途中廊下で書いたルーズリーフの切れ端を、まゆうちゃんのくつ箱に入れた。

『まゆうちゃんへ。何も知らずにごめんね。明日の放課後、屋上まで来てください みかる』

 もうこうなったら、まゆうちゃんに邪神のことも札のこともゼンブ話して、あやまらなきゃ!

 そんで、私がせとなんてなんとも思ってないって、まゆうちゃんの恋を応援するからって、伝えるんだ!

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