1.生徒会っ! あらわれたおじいちゃんと、阿弥陀如来サマ
「いってきまーっす!」
朝。
家の玄関で、よく通る大きな声で叫んでいるのは、私・雨宮みかる。中1。
季節はうだるような暑ーい夏をこえて、10月も半ば。
制服の衣替えが始まり、私も今日から冬服だ。
通う中学校の制服は、むらさきを基調とした生地に、白いリボンのセーラー服。
デザインがすっごく可愛くって、めちゃくちゃお気に入りなんだ!
しかもしかも、胸元には、キレーな金色の星まで付いてる。
ハーフツインテールにした髪に、赤いスカーフリボンをきゅっと結ぶ。
ほんのり桜色の色つきリップをクチビルに塗れば、心なしか、表情もキラキラ輝いてみえる。
むふふ。
このリップ、ほんのり色つきってところが、先生にバレないポイントなんだよねーっ。
うん。身だしなみ、カンペキっ!
鏡の前で、くるっと一回転。
春にちょこっと着ただけの制服だけど、こうして見ると、やっぱり可愛いな〜。
私ったら、自分で言うのもなんだけど、けっこう可愛いjc(女子中学生)なんじゃないデスカ⁉
スカウトとかされないかなぁ〜っ。
なーんて。ちょっと調子に乗りすぎちゃった。
私は、冬服姿の自分を鏡で見て、ついつい「えへへ〜」と、ほっぺをゆるませた。
◇
私は、パパとママ、そして小5の妹・まなつの、家族4人暮らし。
1年前まで、この家には、ママのお父さん──おじいちゃんがいた。
私が大、大、だーい好きだった、壱おじいちゃん。
ツルピカのアタマに、少しだけある白髪。つぶらな瞳に、福耳のおじいちゃん。
おじいちゃんは、いつも左ウデに腕時計をしていて、壊れたテレビや冷蔵庫を直したり、軽トラックでお客さんの家まで商品を運ぶ、電気屋さんを営んでいた。
いつもパワフルでかっこいい、私のヒーローだった壱おじいちゃん。
元気に働いていた頃、私のアタマを優しくなでてくれた、その大きな手。
──そう。
何を隠そう私は、【超】のつくおじいちゃんっ子なのである!
先に死んじゃったおばあちゃんも大好きだったし、やっぱり、おじいちゃんとおばあちゃんは、あったかい。
──「みかるや。シュークリーム買ってきてやったぞい。一緒に食べるか?」
──「映画に連れて行ってやろう」
──「ほっほー☆ みかるはワシに似て、ほんとに良い子じゃなあぁ〜」
「いってらっしゃい、気をつけていくのよ」
ママが玄関先まできて、お弁当を渡してくれる。
「うん。ありがとっ」
私は、お弁当をママから受け取って、玄関に飾られている壱おじいちゃんの写真を見て、あふれてくる思い出にふける。
──最期、病院のベッドの上で、弱々しく、けれどもしっかりとした口調でおじいちゃんが私に言った、感謝の言葉を覚えてる。
──「みかるやぁ……。おおきによぅ」
うっ。思い出したら、本格的に泣けてきちゃった。
会いたいよ、壱おじいちゃん……っ!
……って。いけないいけない!
これから学校に行くんだし、天国にいる壱おじいちゃんに、暗い顔は見せたくないんだからっ!
みかるは、今日も元気だもん!
「行ってきます! ママ、壱おじいちゃんっ!」
私は、少しだけ目ににじみかけた涙をあわててぬぐうと、壱おじいちゃんの写真ににっこりほほえみかけてから、スクールバッグを肩にかけ直して家を出た。
◇
私が通う、県立・桜望高等学校付属中学校はね、今年から中等部が出来たんだ。
だから、今年入学した私たちの上に、2年生と3年生がいないの。
別の中学に入学した小学校の頃の友達には、「センパイがいないってどんな感じ?」って聞かれたりもした。
答えは、なかなかに快適……かな。
──でね。それで、聞いておどろかないでよ?
本題はここからっ!
なんと!
何を隠そう、入試で成績トップだった私は、桜望中の【生徒会長】をやってるんだっ!
どうして、数学のテストで50点届かない私が、生徒会長をやってるのかって? その理由は、この物語を読み進めればわかるよ!
◇
──桜望中学校南棟3階にある、放課後の、生徒会室。
「ちょっとちょっとォ! せと! ここに置いてあった私のいちご牛乳、飲んだでしょ!」
今日も、生徒会長(えへん!)はご立腹だよ!
私が叫んでいるのにもワケがある!
だってだって!
私がさっき、1階の自販機で買ったいちご牛乳が、なくなってる!
確かにここのつくえの上に置いておいたのに!
「あ〜? なんか言ったかみかるゥ。んな目立つとこに無防備に置いておくから悪ィんだろ〜? オレは、背を伸ばしたいんだよ」
知るか!
ハッハッハと極悪非道な黒い笑みを浮かべて、まごうことなき私のいちご牛乳片手にイスにのけぞり座る男子は、副会長の笹浜せと。
運動神経バツグンで、テストの点は毎回、生徒会長の私より良い(ぐぬぬ、悔しいっ!)。
部活には入ってないんだけどね、時々サッカー部やバスケ部なんかから助っ人に呼ばれて、たまに試合に出たりしてるのを、私は知ってる。
せととは、幼なじみで、同じ小学校、しかも6年間ずっと同じクラスだった。
そんで、それは今も同じで、同じクラス。
しかもそのうえ、家がほぼ隣同士ということもあってか、ママとせとのお母さんは、昔からすっごーく仲良しで、私の家とはみんな、家族ぐるみの付き合いなんだ。
腐れ縁ってこういうのかも?
まったくもって【ヤ】だけどねっ!
「みかるさん、冷蔵庫に北海道産十勝牛乳がありますわよ」
私とせとの会話を聞いていた、超可愛いアイドルみたいな容姿と声の女の子──書記の真田ゆゆがそう言う。
ゆゆりんとは、中学校ではじめて出会った。
そしてなんと、日本でも有数の大会社の社長令嬢。だから、超お金持ち!
で、めちゃくちゃ頭が良くて、おしとやか。
「えっうそ! わーいやったあ! ゆゆりん愛してる! せとにはもうあげないもんね!」
「ちっ」
舌打ちをするせと。
「今日も食い意地はってますねー。みかるさん」
大きな黒縁メガネをくいっと上げ直してそう言うのは、私よりも背が低い男の子。
ゆゆりんと一緒で、中学ではじめて出会った、爽やかな顔立ちが女子から密かにかっこいいって言われてる、会計の寺島一心くんだ。
「なにおぅ〜!」
私が怒ってむくれるのとほぼ同時に、「おまいたち!」と声がして、生徒会室に、桜望中の校長先生が入ってきた。
「「「「陽月ケン校長先生!」」」」
私たち四人の声が、見事に重なる。
「生徒会! 学校の校庭に、近所の犬が侵入した! 直ちに捕まえにむかえええ!」
ケン校長先生が叫んでいるけど、せとは「またか……」と頭をかかえ、ゆゆりんと一心くんも苦笑いを浮かべる。
それもそのはず。
ほええー! 学校の校庭に侵入した犬を捕まえるのなんて、なんで生徒会に言うのー⁉
「桜望中ってちょっと変わってるよな」
「変わりすぎだよっ! 普通数学の小テストで、問題全くわかんなくて、名前だけ書けてたからって0.2点とかないよ! 視力か!」
「僕なんて、昨日保健室の先生に、校庭で栽培しているトマトをもらいましたよ」
「私は、先日校舎の近くで道に迷っていらっしゃったおばさまに道案内したら、なぜか学校側がお礼の八ツ橋をナイショで受け取っていました」
無茶苦茶だよ! やりたい放題か!
私が入学して、生徒会に入ってからというもの、桜望中ではこんな風なことが何回かあった。
他にも、野球部とサッカー部のケンカをなぜか止めに入らされたり、図書室の掃除を頼まれたり。
ツッコミは追いつかないくらいあるけれど……、私はこのメンバーと、わいわいにぎやか、生徒会をやれてることが、ものすごく嬉しくて、大切なかけがえのない時間なんだ。
「しょーがないっ! みんなっ! 犬を捕まえに行くよ!」
「「「オーッ!」」」
気合いをいれる時に、『生徒会長』と書かれたうでの腕章をぐいっとまくるのが私のクセ。
制服の胸元につけられた金色の星が、キラリと光った。
◇
「たっだいまー!」
バターン! と、勢いよく玄関のトビラを開けて帰宅した私。
あのあと、生徒会メンバー3人とキョーリョクして、逃げ回る犬を捕まえ、無事に飼い主に渡した私は、校庭を走り回ったこともあってか超☆おなかが空いていた。
帰り道、コンビニを見かけたけど、買い食いはよくないから、そのまま帰ってきたんだ。
「ママぁ〜おやつないの?」
帰ってきて第2声がこれ。
スクールバッグを2階の自分の部屋に置いてから、リビングの方に声をかけてみたけれど、シーン。
家の中からは、物音ひとつしない。
冷蔵庫に貼ってあるホワイトボードには、『友達と遊びに行ってきます。まなつ』の文字。
パパは仕事に行ってるとして、ママだよ。買い物にでも行ったのかなぁ?
ふと和室にある仏壇の方を見ると、8月のお盆の時のお供え物がそこにあった。
クッキーと、ゼリー。
ぐきゅるるる……。
美味しそうな色とりどりの包装紙に、ついついおなかが鳴る。
おなか空いたなー……。
「いーや。食べちゃえっ」
私は、いそいそと和室に入ると、缶に入っていたクッキーひとつと、包装紙を破いてみかん味のゼリーを食べた。
「んーっ、このクッキーとゼリー、美味ー!」
──そろそろだ。では行くか、壱よ
──むむむぅ!
その時、トツゼン頭の中に響きわたった、中性的な人の声と、壱おじいちゃんの声。
「⁉」
次の瞬間、カッ、とそこらじゅうに、まばゆい光が立ち込める。
トツゼン起こった、目を開けていられないほどまぶしいその光に、私は軽くパニックになる。
「きゃあああ! なに、なに⁉ 何なのよー⁉」
──ぱああぁあぁ…………。
しばらくすると、その光はおさまった。
かわりに現れたのは、光に包まれていて顔が見えない人(?)と、……えっ、えっ⁉
壱おじいちゃん!
「へっ? 壱おじいちゃんっ⁉」
トツゼン現れた、生きていた頃、元気だった頃と何も変わらない壱おじいちゃん。
ウソ。ほっ、ほんもの……?
……は、鬼のような顔で私を見た。
「みかるめ! ワシが食うのをめちゃくちゃ楽しみにしておったクッキーとゼリーを食べおって! 許さんぞォォオ!」
ほぇえっ⁉
いつも私にあんなに優しかった壱おじいちゃんが、お、怒ってる……⁉
死者の蘇り⁉
怒りの爺、大復活!
私ってば、大好きな壱おじいちゃんに、の、呪われちゃう……⁉
「いやあああ! 成仏してええ! みかるはこれでも、学校じゃ生徒会長とかやって頑張ってるんですー! 数学のテストは毎回あるまじき点だけどーー! クッキーとゼリー食べてごめんなさい! 壱おじいちゃんっ……!」
「フッ。面白い娘だ。なあ、壱よ」
「ふむ。そこは認める」
突如として響き渡った、中性的な人の声が静かに名乗った。
「私の名は、阿弥陀如来と言う。──壱よ。説明しろ」
「──ふむ。みかるよ。日本中の子供を対象に、あみだくじで【阿弥陀如来職務補佐】を決めたんじゃ。その結果、みかるが選ばれた。ワシはみかるの保護者として、極楽浄土からトクベツに地上へとやってきた」
はあっ⁉
阿弥陀如来、それにあみだくじ、極楽浄土⁉
いやいやいや、壱おじいちゃんっ!(怒)
そんなこといきなり言われたって、てんで意味わかんないんですけどっ!
「いやもう、私も一人で職務を行うのは疲れた。なんせ、孤独な仕事でな。補佐をみかる氏に任せることにする」
みかる氏って、私のこと……⁉
「このハゲチャビンじじいめー! ワシはみかるがクッキーとゼリー食う前にここへ来たかったんじゃー!」
「なっ! ハゲチャビンじじいは自分ではないか! 戯れ言をぬかすな!」
ケンカを始めるふたりを前に、私は、頭の中がぐるぐるまわっている。
「──みかる氏。お主が私の仕事を手伝うのだ」
どええぇーっ! 私が、阿弥陀如来サマの仕事のお手伝い⁉
自称・阿弥陀如来サマは、私の心を読んだようにこう言う。
「そうだ。悪しき行いをする邪神に美魂を乗っ取られている人間に対し、南無阿弥陀仏を唱えて、美魂を取り戻すのだ」
阿弥陀如来サマって、そんなことしてたの?
いやいやいや、ってゆーか、てゆーかっ!
ななな、なにが起こってるの……⁉
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