第3話

 スライムをひたすら倒し続けてきたわけだったが、時々ふと思う時がある。

 ……ぶっちゃけ弱い敵を倒し続けたからと言って強くなれてるのか、これ?

 言ってしまえば、筋トレをひたすらし続けてムキムキになったとして、それで一流のファイターと戦ってその人に勝てるのかという事。

 普通に考えれば、勝てる筈もない。

 どれだけ力が強かったとしてもそこに技術、経験がなければ話にならない事は、矛盾していそうな話だけれども経験がない俺でも分かる。

 だから正直、スライムで経験値稼ぎ(それすらも本当に存在しているかは分からない概念だったが)していたところで俺が本当に強くなっていて、今後物語がスタートしたとして彼女を守れるのかと不安になるのだ。


 とはいえそんな事言ったところで世界が待ってくれる訳もなく、そしてそれは彼女だって同じ事。

 テリルもテリルで彼女の人生を歩んでいる訳だし、そして今日の彼女は俺とピクニックに行く予定らしい。

 ……ピクニック?

 なんで?


「え、そんな予定があったの知らなかったんだけど?」

「うふふ。今日は天気も良くてお天道様もぽかぽか優しいし、一緒にお出かけ、しよ?」

「いや、えっと……うん、良いけど?」


 なんか知らぬ間にそういう事になったらしい。

 彼女は割と強引に人を引っ張っていく事があったが、もしかしたらそれが主人公らしさなのかもしれない。

 分からないけど。


 なんにしても、今日はピクニックに行く予定になったので俺も諸々最低限の準備をして彼女の隣を歩く。

 弁当は彼女が作ってきたらしく、だから俺が持っていくものと言えばそれこそ最低限自衛するための武器だけである。

 それだって「ピクニックの雰囲気が台無しにならない?」と言われたので小さな木剣を一本持ってきているだけなのだが。

 木剣一本でどうしろと?

 いやまあ、モンスターに限るのならばこの町の周囲に危険な存在はいないとも言えるのだが……

 だが、油断してはいけない。

 この世界は元となっているものがものが故に、何が危険となるのか一切油断出来ないのだ。

 唯一の救いと言えば、猟奇的な方向にはいかなそうという事。

 

 と、そんな訳でピクニックだ。

 ピクニックと言っても大げさに町から出たりはしない、あくまで町の中にあるちょっと広めな公園にまでやってきてそこで一緒に弁当を食べるといった感じだった。

 シートを敷いてその上に座ると彼女はバスケットから紙の包みを取り出して見せる。

 なんでもサンドウィッチを作ってきてくれたらしい。

 実際どのようなサンドウィッチを作ってきたのかについては秘密にされていたが、とはいえ彼女は料理上手なので今から食べるのが楽しみだ……


「はい、どうぞ」


 と、彼女から差し出されたのは結構大き目なサンドウィッチ一切れ。

 間に挟まっているのは香草、ベーコン、あとトマトだろうか?

 いわゆるBLTってやつなのだろう。

 ちなみにこの世界にもトマトがあるんだとかトマトが食用として広まっているのかという事については、ファンタジー異世界だからという言葉で片づけさせてもらおう。

 ただエロゲ特有のご都合的ファンタジーではあるけれども、ライスに関してはなかなか手に入らないのは若干残念である。

 ここ数か月ご飯を食べられていないのは日本人としてかなり辛い。

 ……異世界だというのに数か月間でも食べられるのだから良いのかもしれないけれども。


「どう、美味しい?」


 パクパクとサンドウィッチを頬張る俺に対して彼女は聞く。

 彼女の作ってくれたサンドウィッチ、実際のところはほとんど素材の味と言っても良いだろう。

 とはいえ香草はしっかり洗ったのち水を切った後、表面にバターみたいなものがうっすらと塗られているのだろうか?

 トマトも新鮮だしベーコンもちょうど良い塩加減。

 まさしく絶品と言っても良い仕上がりだった。


「うん、美味しいよ」

「うふふ、アレンの食べっぷりは気持ちいいからね。美味しいって言ってもらえてとても嬉しいし」


 そう言って破顔してみせる彼女を見、俺もまた笑顔になる。

 彼女が俺の食べっぷりを気持ちいいというのならば、彼女の笑顔はまさしく野には咲く一輪の花のようだ。

 可憐で、美しく、可愛らしい。

 まさしくヒロインって感じの笑顔である。

 だからこそそんな彼女の事を守らなきゃって思うし、汚したくないとも思う。

 ……彼女は俺が守らないと。

 改めて、そのように思う。


「あ、そうだ」

「ん?」


 と、そこで彼女はちらりとこちらの顔を覗き込むようにして尋ねてくる。


「こう、胸がどきどきとかしたりしない?」

「え」


 何それ怖い。

 動悸がしてそうとか、病的な表情をしていたりするのだろうか?

 俺は混乱しつつ「げ、元気いっぱいだけど?」と答えると彼女は嬉しそうな不満そうな、どこか複雑そうな表情を浮かべた。


「うーん、そっか」

「何か気になる事があったのか?」

「な、なんでもないよ? ただほら、今日のサンドウィッチには元気いっぱいになるよう願いを込めて作ったから」

「それなら元気いっぱいになったよ。テリルのご飯を食べれてとても嬉しかったし、元気にでもなる」


 そのように言って笑うと、彼女はなおの事微妙そうな笑顔を浮かべるのだった。

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