第16話 俺は映えるBBQでラムチョップを味わいたい(後編)

バーベキューから二日後の朝。


心地よい眠りをむさぼっていた俺は、ベッド脇からのぞき込む声に目を覚ました。


「お兄ちゃん、起きて。今日は特別だから」


布団から顔を出すと、そこに立っていたあかりの姿に一瞬言葉を失った。


チェック柄のシャツにショートパンツ。室内だから靴は履いていないけれど、全体の雰囲気はキャンプ女子そのもの。かわいらしさと動きやすさが絶妙に合わさっていて、心臓がどきりと跳ねた。


「……な、なんだその格好」


「今日は“おうちキャンプ”だよ。お兄ちゃんに、キャンプ飯を作ってあげるの」


にこりと笑って、あかりはキッチンへ向かっていった。



リビングに出てみると、驚くべき光景が広がっていた。


床の中央には、簡易式のポップアップテント。


その横にはミニテーブルが置かれ、すでに小さなスキレットが二つ並んでいる。


「すご……本格的じゃん」


「でしょ? 昨日の夜に準備しておいたんだ」


鼻歌交じりでスキレットを熱しながら、あかりが材料を並べていく。


ジュウッと音を立てて焼かれていくのは、皮を少し焦がしたナス。表面がしっとりとして、香ばしい匂いが漂う。


もう一方のスキレットでは、ピーマンに肉だねを詰めたものがじっくり焼かれていた。肉汁がじわじわと染み出して、食欲を刺激する。


「はい、できあがり。キャンプ風の朝ごはん!」


スキレットを両手で持ってテントの中へ運ぶあかり。俺も続いて中に入る。


2人用のテントは思った以上に狭くて、自然と体が触れ合う距離になった。



ナスを箸で割ると、じゅわっと旨味があふれ出した。


ひと口食べると、香ばしさとトロリとした食感が口の中で溶ける。


「うまっ……! 家の中なのに、本格的だ」


隣であかりが嬉しそうに頷く。


ピーマンの肉詰めも熱々で、噛むたびに肉汁があふれ出し、ピーマンのほろ苦さと合わさって絶妙なバランスだった。


「ね? キャンプで食べてるみたいでしょ」


「確かに……これはちょっと感動するな」


テントの中、2人だけの空間で食べる朝ごはんは、どんなレストランよりも贅沢に思えた。



食べ終えると、あかりは同じスキレットにご飯を入れ、手際よく炒めはじめた。


玉ねぎの香りが広がり、卵の黄色が混ざっていく。


「最後はチャーハンだよ。スキレットひとつで完結!」


カランカランと心地よい音を立てながら炒められたチャーハンは、香ばしくて食欲をそそる匂いを漂わせていた。


さっきのナスやピーマンの肉詰めの旨味が残っているからか、スプーンを入れた瞬間、普段のチャーハンとは段違いのコクが広がった。


「……これ、めちゃくちゃうまい」


「でしょ? お兄ちゃん専用キャンプ飯だよ」


顔を見合わせて笑うと、自然と距離が近くなる。テントの狭さも手伝って、息が触れ合いそうな距離だった。



「あ、お兄ちゃん……ほっぺにご飯つぶついてる」


あかりが指先で俺の頬をなぞる。


そして、そのまま取ったご飯つぶを、自分の口にぱくりと入れた。


「……っ!」


無邪気に笑うあかりの姿に、心臓が破裂しそうになる。


顔が一気に熱くなり、まともに視線を合わせられなかった。


「ふふっ……またおうちキャンプしようね」


そう囁く声が耳元にかかる。吐息がくすぐったくて、俺の鼓動はさらに早まっていった。


都会のBBQも刺激的だったけれど——こうしてあかりに上書きされる日常の方が、俺にとってはずっと濃くて、甘い時間だった。




ーーーー

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