第16話 俺は映えるBBQでラムチョップを味わいたい(後編)
バーベキューから二日後の朝。
心地よい眠りをむさぼっていた俺は、ベッド脇からのぞき込む声に目を覚ました。
「お兄ちゃん、起きて。今日は特別だから」
布団から顔を出すと、そこに立っていたあかりの姿に一瞬言葉を失った。
チェック柄のシャツにショートパンツ。室内だから靴は履いていないけれど、全体の雰囲気はキャンプ女子そのもの。かわいらしさと動きやすさが絶妙に合わさっていて、心臓がどきりと跳ねた。
「……な、なんだその格好」
「今日は“おうちキャンプ”だよ。お兄ちゃんに、キャンプ飯を作ってあげるの」
にこりと笑って、あかりはキッチンへ向かっていった。
◇
リビングに出てみると、驚くべき光景が広がっていた。
床の中央には、簡易式のポップアップテント。
その横にはミニテーブルが置かれ、すでに小さなスキレットが二つ並んでいる。
「すご……本格的じゃん」
「でしょ? 昨日の夜に準備しておいたんだ」
鼻歌交じりでスキレットを熱しながら、あかりが材料を並べていく。
ジュウッと音を立てて焼かれていくのは、皮を少し焦がしたナス。表面がしっとりとして、香ばしい匂いが漂う。
もう一方のスキレットでは、ピーマンに肉だねを詰めたものがじっくり焼かれていた。肉汁がじわじわと染み出して、食欲を刺激する。
「はい、できあがり。キャンプ風の朝ごはん!」
スキレットを両手で持ってテントの中へ運ぶあかり。俺も続いて中に入る。
2人用のテントは思った以上に狭くて、自然と体が触れ合う距離になった。
◇
ナスを箸で割ると、じゅわっと旨味があふれ出した。
ひと口食べると、香ばしさとトロリとした食感が口の中で溶ける。
「うまっ……! 家の中なのに、本格的だ」
隣であかりが嬉しそうに頷く。
ピーマンの肉詰めも熱々で、噛むたびに肉汁があふれ出し、ピーマンのほろ苦さと合わさって絶妙なバランスだった。
「ね? キャンプで食べてるみたいでしょ」
「確かに……これはちょっと感動するな」
テントの中、2人だけの空間で食べる朝ごはんは、どんなレストランよりも贅沢に思えた。
◇
食べ終えると、あかりは同じスキレットにご飯を入れ、手際よく炒めはじめた。
玉ねぎの香りが広がり、卵の黄色が混ざっていく。
「最後はチャーハンだよ。スキレットひとつで完結!」
カランカランと心地よい音を立てながら炒められたチャーハンは、香ばしくて食欲をそそる匂いを漂わせていた。
さっきのナスやピーマンの肉詰めの旨味が残っているからか、スプーンを入れた瞬間、普段のチャーハンとは段違いのコクが広がった。
「……これ、めちゃくちゃうまい」
「でしょ? お兄ちゃん専用キャンプ飯だよ」
顔を見合わせて笑うと、自然と距離が近くなる。テントの狭さも手伝って、息が触れ合いそうな距離だった。
◇
「あ、お兄ちゃん……ほっぺにご飯つぶついてる」
あかりが指先で俺の頬をなぞる。
そして、そのまま取ったご飯つぶを、自分の口にぱくりと入れた。
「……っ!」
無邪気に笑うあかりの姿に、心臓が破裂しそうになる。
顔が一気に熱くなり、まともに視線を合わせられなかった。
「ふふっ……またおうちキャンプしようね」
そう囁く声が耳元にかかる。吐息がくすぐったくて、俺の鼓動はさらに早まっていった。
都会のBBQも刺激的だったけれど——こうしてあかりに上書きされる日常の方が、俺にとってはずっと濃くて、甘い時間だった。
ーーーー
毎日深夜に鋭意執筆中 応援♥ありがとうございます
レビューボタンから☆☆☆→★★★も嬉しいです
レビュー★★★も大歓迎です
https://kakuyomu.jp/works/16818792439579345036/reviews/new
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます