第24話

 2012年12月。


「海辺から」の発売日は、クリスマスイブの12月24日だった。


 KIRISAWAのランチ営業が始まる前に、みんなで広島の大きな書店へ向かった。翔子さんの車に乗り、ちーちゃん、神、隼、はっしも一緒だ。


 オープン5分前、まだシャッターの降りた店の前で6人並んで待つ。

「別に選ばれなくても大丈夫!悔いはない!」

 私はみんなの期待に応えられなかった時の保険のつもりで、わざと声を張った。でも本当にやれることは全部やった。とはいえ。そう簡単には選ばれる事はない。現実が甘くはないことを分かっている。

「杏はすごい頑張っとったけん、大丈夫よ」ちーちゃんが言う。

「まあ、あれで選ばれんのなら、玉木青のセンスを疑うだけやな。」

 はっしが腕を組みながら真顔で言った。その口ぶりに、みんな笑った。

 そんなこんなで話してるうちに「お待たせしました」と書店員さんがドアを開ける。ついにオープンだ。


 入ってすぐ、1番目立つ新刊コーナー。

 玉木青の新刊と、大きく掲げられたポップ。そしてそこには、私が装丁を手がけた本が棚一面に並んでいた。


 ―息が止まった。


 そこに並んでいたのは、私が描いた装丁の「海辺から」だった。


「これ、杏のだよね!?」ちーちゃんが叫ぶ。

「杏のや」隼が頷く。

「うわああ!バンザーイ!」はっしが声を上げる。

「すごいやん杏!」神が私の肩を叩く。

「よかったね」翔子さんが、そっと私の頭に手を置いた。


 私は現実味がなくて、呆然とする。まるで、ハリーポッターと賢者の石でグリフィンドール優勝の決め手となった時の、呆然としているネビルみたいだった。


「よっしゃああ!俺、あるだけ買うわ!」

 はっしがカゴを抱えて本を次々と入れていく。

「いいかも!うちの店でみんなに配ろ!」翔子さんまで言い出して、みんな呆れながらも笑った。

 みんなが自分のことのように喜んでくれて――それが嬉しくて、泣きそうになった。


 私はそっと本を手に取り、その表紙を撫でた。


 夢が叶った。

 

 ずっと玉木青の本の装丁を描きたかった。自分の絵とデザインが、こうして書店に並ぶ日を思い描いてきた。

 まだまだ努力は必要だし、道のりは遠いと思っていたのに、こんなにも早く叶ってしまった。

自分には不似合いなほどの名誉を手にして、ただ信じられない気持ちだった。


 「よかったやん」

 隣に来た隼が、優しい声で言う。

「うん。ありがとう。でも全然信じられん」

「お前がずっと頑張ってきたからやろ?」

 隼が笑う。その笑顔に、今までのすべてを肯定された気がした。


 私は何度も、その笑顔に救われてきた。

 そして今、誰よりも隼が喜んでくれていることが伝わって、心から嬉しかった。

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