第5話 本当の未来へ
夏休みを前にした放課後。
教室の窓から、夕焼けが
みんなが帰ってしまったあと、机の上に残る光は金色に見えた。
ぼくはスケッチブックを広げ、えんぴつを走らせていた。
雲。群青の空。白いネコ。
その隣には、女の子の影も描き加えていた。
「……できた」
胸がどきどきしていた。
「すごいね」
背中から声がして、振り向くと美咲が立っていた。
金色の目が、ぼくの絵をじっと見ている。
夕日に照らされ、その瞳はさらに深く輝いていた。
「美咲……」
言おうとして、言葉がつまる。
胸がざわざわして、少し苦しかった。
「翔太くん」
美咲は机の横に来て、静かに言った。
「わたしね、前の世界ではネコだったの」
「やっぱり……」
「うん。翔太くんに“本当の未来”を思い出してもらうために、ここに来たの」
「じゃあ……もう行っちゃうの?」
胸がぎゅっと苦しくなった。
美咲は小さくうなずいた。
「翔太くんは、もう“ふり”をやめて、自分の未来を歩き出した。だから、わたしの役目は終わり」
「でも……また会える?」
声が震えた。
美咲は少し笑った。
夕日に照らされ、金色に光る笑顔。
「うん。群青の空を見上げれば、いつでも」
涙がこぼれそうになったけど、ぼくは強くうなずいた。
美咲はスケッチブックを指さした。
「翔太くん。これからも描いて。胸がドキドキする景色を」
「……うん」
そのとき、窓から風が吹きこんだ。
掲示板の絵がふわりと揺れ、群青の空がさらに深く見えた。
気づいたときには、美咲の姿はなかった。
教室のドアが、静かに閉じていた。
夕暮れの光が、机の上の群青色を照らす。
ポケットにしまったえんぴつを握ると、じんわりと温かい。
——もう夢を持つ“ふり”はしない。
ぼくは描く。
ぼく自身の未来を。
窓の外の空は、深い群青。
その向こうで、また必ず会えると信じながら。
『未来から来たネコの女の子』ーmiraiから来たニャンコ女子が、ぼくの未来を変えた。 未来よしこ @Cosmic_
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