対戦ありがとうございました、好きです
@masko
第1話
「ジリリリリリリ」
今日も朝早くから目覚ましが鳴っている。俺の名前は伊藤隼人。普通の高校一年生だ。今日は月曜日なので学校に行かなくてはならない。僕は今から早起きしてあの何のためにもならないただの監獄に行かなければいけないのだ。学生なら一度は感じたことがあるのではないだろうか?
「学校行きたくない」
そうして目覚ましを止めてもう一度布団に入ろうとしたとき、部屋のドア付近ですごい音が鳴ったと思ったら、親父が「おーい起きろぉ」と叫びながらドアを叩き割って入ってきた。
今日でドア割んの何回目だよ、とか思いながら今日も早起きする。ちなみにこんなにも必死に親父が起こしてくるのは俺が親父との二人暮らしで、俺が2人分の弁当を作っているからだ。飯くらい自分で作れよと思っているところだ。
「あ、おはよう隼人」
「おはようじゃねぇよ今日も今日とてドア割って入ってきやがって」
「え、隼人が冷たい。お父さん悲しいぞ。」
「誰のせいか自分で考えてみろ。」
そんな他愛もない会話をしながら俺は朝食と弁当を作る。
「そういえば俺今週末結構遠くの駅まで行かなくちゃいけなくて交通費をで出して欲しいんだが、」
「おお、隼人が俺に頼み事だなんて明日は大雨かなあw」
こんなやつが俺の唯一の家族だなんて、俺は前世でどんな罪を犯したんだ。
「まあ貸してやってもいいぞ、たd」
「わかったありがとうございます俺学校行ってくる。」
「ああ…俺なんかした?」
そうして俺は今日も学校で昼寝をしている。逆に授業中に寝たことが人はいるだろうか?先生が起こしに来ているらしいが、俺はそんなことはお構いなしに1限から丸一日授業を受けずに眠っていた。そんな日の放課後
「オイ今日もよく寝てたな!」
そういって話しかけて来たのは坂崎蓮だ。こいつは声がデカくていつも俺の目覚ましになっているのである。蓮に連れられて俺たちは下校する。そして俺たちはいつものようにあるところに寄り道をする。
「いらっしゃーい」
そんな感じで俺たちが来たのはカードショップだ。俺の唯一の趣味である。先ほど言っていた遠出というのは、カードゲームの公式イベントである大型大会に蓮と一緒に参加するからである。これに勝つことで、全国大会への切符を掴めるのだ。
「おっし今日も練習すんぞー!」といって蓮はカードを広げる。「今日も元気だねー」と店長は半ば呆れ気味に言っている。俺もそれに釣られて俺は今日も遊ぶのだった。
そうこうしてるうちに時間が過ぎて、日曜日になった。今日は待ちに待った大会の日だ。駅で蓮と待ち合わせて電車に乗る。2人で声を合わせて、
「勝つぞー!オー!」
1時間くらいして、俺たちは大会会場に着いた。チェックインを済ませて、俺たちは今会場を回っているところだ。
「やべえクッソ広いな。俺急に緊張してきた。」
「まあなんとかなるだろ!俺らはあれだけ練習したんだ!」
「日々のあれを練習と言っていいんか」
などと蓮と会話をしていると、放送が流れた。
「一回戦目のマッチングが発表されましたので、選手の方々はご移動お願いします。」
蓮が「じゃあ一旦お別れだな、一回戦目勝ってまた会おうぜ!」と言って走っていく。
自分の気持ちが昂っているのがわかる。
「俺も頑張るか」
一回戦目の対戦卓について、相手と挨拶をする。対戦を始める時に「おねがいします」と言うのはカードゲーマーの常識だ。俺が「俺は隼人。よろしく」と言うと、
相手の女の子が「私は礼子です。よろしくお願いします。」と笑顔で返してくれた。そんな彼女が挨拶をした瞬間、時間が止まったように感じた。会場のざわめきもカード達も色を失い、ただその笑顔だけが世界を支配する。胸の奥が急に熱を帯びて、息をすることさえ忘れてしまった。そんな感じで対戦はあまり集中できずに負けてしまったのだが、僕は彼女のことが頭から離れなくなった。
「勝ったか?」とニコニコしながら蓮が近づいて来て、はっと我に帰る。
「いや、負けた」と言うと、蓮は少し気まずそうに、「そうか、次は頑張ろうな」と言って離れていった。
「あいつウゼエエ!次こそは勝つぞ!チクショー!」
そんな感じで大会が進み、結局俺たちは結果を残すことはなく、2人で電車に乗っていた。しばらく沈黙していたが、突然蓮が口を開いた。
「だー悔しい!次は絶対勝ァつ!」
全くこいつの発言はびっくりマークばかりだとか思いながらスマホでSNSを見ていた時、
『礼子@カード好き』と書かれているアカウントを見つけた。そこには、次は全国大会出場します♪と書かれていて、俺はなんか急にやる気が出てきた。そして俺も蓮と一緒に
「勝つぞオ」と言うのだった。(ちなみに俺らはめちゃくちゃ変な目で見られた。)
と、決意したのはいいが、それからというもの、俺はいい結果を出すことができず、全国大会も優先権を得られなかった。店舗の自主大会なども参加しているが、それでも何も得ることができず、次第に自信がなくなっていった。また、礼子のSNSには、よくチームメイトとして大会に出ている優馬という人のことがよく出て来ており、焦りを感じていた。
そうしてここ数日間テンションが上がらずぼーっとしていた時、蓮が
「最近のお前は元気ないな。どうしたんだよ?」と話しかけてきた。こいつにも気遣いができたのか、と驚きながらも、こいつの話を聞くことにした。
「まあ俺達は全国大会の優先権を持っているわけではないし、抽選で当たって参加できる可能性も極めて低い。だがもし参加できた場合、俺はお前とチームを組んで出たいんだ。だからそんなに暗い顔をしないでくれよ。気楽にやってこうぜ。」
と言ってくれたのである。その時俺はハッと我に帰った。
「そうか、最近俺はこんな元気なかったのか。もしかしたら抽選通るかもしれないし、俺もこんなに引きずってらんねえな。目が覚めたよ。」
「へへっ、お前ならそういうと思ってたぜ。一緒に頑張ろうぜ!」
日が経つのは早いもので、あれからもう2週間の時が流れた。そして今日は全国大会の抽選の結果を見れる日だ。気のせいか、蓮もいつもより静かだった気がする。いつものように大声で蓮が俺を起こして、2人で結果を確認する。
『………』
「当たった…のか?」
「そう…だな…当たってる」
『……』
「よっしゃあああああ!」と、2人で大喜びするのだった。全国大会はこれから1ヶ月後だ。俺はもう一度礼子に会うためにも、気合いを入れ直すのだった。
「いらっしゃい」と、いつものように店長と挨拶する。
「今日は店ガラガラですね。珍しい。」
「急用ってやつでね。常連さんたちも手伝ってくれるって人以外いないんだ。」
「手伝うって、何を?」
「いやーそろそろ全国大会かなあと思って、俺の練習に付き合ってもらおうと思っていたんだ。まあせっかく優先権あるしまあ出るかって感じだけどね。」
え、この人サラッとやばいこと言ったよな。優先権持ってるって、この人こんな強かったのかよ、聞いてねえよ。あとそんな理由で店閉めていいのか?この人自由だな。
蓮も「エッ、店長ソンナツヨカッタノ」と驚きでカタコトになっている。
「俺たちも抽選通って参加できるんですよ。一緒にやってもいいですか?」
「おお、そいつはめでたい。俺はいいけど常連さん達は…」
「お、お前達も参加か?いいねいいね、みんなでやろうぜ!」
「じゃあやるか、言っとくが俺達は手加減しないぞ。」
『望むところです!』
それから店長達と特訓が始まった。平日は学校が終わったらダッシュで行き、休日も朝から晩までカードを触った。最初こそは全国のレベルを思い知らされたが、店長達の指導が良かったのもあって、俺達は日に日に上達していった。そうして大会の1週間前になったある日、店長が
「この店の最強の選手を決める大会でも開こうと思うんだ。みんなでやらないか?」
と言い出して、いきなりバトルが始まった。
周りの人達はかなり強かったが、それと同時に俺の上達っぷりにも驚いていた。まあ自分で言うのもあれだが。最初は手も足も出なかったような常連さん達にも、ギリギリで勝つことができ、俺は決勝まで駒を進めた。その時隣の席で、
「あークッソー!負けちまったよー」
と言っている蓮の姿があった。あいつもあいつなりに上達しており、現に準決勝までは勝ち上がってきていたと言うことだ。そして俺は決勝戦にて店長と戦うことになった。店長はとても強く負けてしまったが、最後の一枚でアレが引ければ、と言うところまで追い詰めることができた。カードゲーマーならわかるよね?この最後の一枚が引けないって言うやつ。まあそんな感じでこの大会の勝者は店長になったわけだが、俺たちは自分の課題を再認識することができた。全くこんなことを全国大会直前にやってくれるなんて、この店長は本当にいい人だなあ。どっかの親父とは違って。
店長は「今度の大会では俺とお前は敵同士だ。お互い頑張ろうな。」と言ってくれた。そしてなんと店長が俺たち2人分の交通費と昼メシ代を出してくれたのである。学生に飯奢るなんて、この人はどんだけお人好しなんだ。そして当日の朝、俺と蓮と店長達は駅で集まって、「勝つぞぉ、オオー!」と円陣を組んだ。
電車ゃのなかで、ずっと落ち着かずにカードを見ていると、蓮が
「お前また緊張してんのか。あんだけやったから自信持てって。今日は俺とペアなんだし。」と言ってきた。
まあ蓮のためにも今日は失敗できない。そのために俺は気を引き締めるのだった。
「だからそんな硬い顔せずにリラックスしろよ…」
「わかった悪かった」
「本当にわかってるか?」
などと俺たちは内容のない話をしていた。それを見ていた店長達も、
「2人は大丈夫そうか。それじゃあ俺も頑張りますか。」と言っていた。
そうこうしている間に俺たちは大会会場に着いた。そしてマッチング発表の時間になり、俺たちと店長は一度別れて、俺たちは対戦を開始した。
今日勝ち上がれば明日の大会(day2)に進むことができる。そのためにも俺たちは1日目の試合で10試合中8勝しなければならない。だが、そんな少しの不安なんて感じることもなく、俺たちは見事に9勝1敗でday1を突破することができた。まあ何回かギリギリの試合もあったが。
1日終わり、店長達と合流してホテルに向かう。店長達も無事day1を抜けたようで、明日の大会に備えて俺たちは爆睡するのだった。
次の日。俺たちは時間通りに向かい、2日目のマッチング発表を受けてそれぞれ対戦を開始していた。今日ここで勝ち上がれば、もう一度礼子に会えるかもしれない。そのためにも、今日は頑張るぞと意気込んでいった。
ちなみに今日は昨日とは試合形式が異なり、昨日が30分の一本先取だったのに対し、今日は試合数が昨日より少ない分、50分2本選手の形式で行われる。カードゲームの世界では、この形式をBO3と呼ぶのだ。でもまあ、今日の俺たちはとても調子が良く、トントンと駒を進めて、上位16チームで行われる決勝トーナメントまで上がることができた。
そしてなんとトーナメントの準決勝の相手がまさかの店長達とであった。「今度の大会では俺とお前は敵同士だ。お互い頑張ろうな。」と出発前に店長が言っていた言葉が胸に刺さる。そうして迎えた準決勝だが、店長達はとても強くて、俺たちは試合の一本目を取られてしまったが、その後1本取り返し、蓮はそのまま2本取り切って勝利し、対する俺は次のターンで自分の勝ちというところまで来たところで、制限時間になってしまった。制限時間が来た後は、後攻のプレイヤーの番までやって、決着がつかなかった場合にはお互いに敗北という裁定になっている。そして今は店長の番であり、俺は先行だったので、もう俺が勝ち切ることは無くなってしまった。だが、店長は
「ジャッジ、投了でお願いします。」と宣言したのである。俺は自分の耳を疑った。
「本当にいいの?」
「あのままやっても俺は負けていたからな。俺の分まで頑張ってくれよ。」といい去っていった店長の後ろ姿を見て、俺もこんな大人になりたいと思っていた。そして決勝の相手は、礼子&優馬のチームである。ついにこの時が来た。俺達の今までの全てを出し切って、あの2人に勝ちたい。
そして決勝戦が始まった。蓮の相手は優馬であり、俺の相手は礼子である。そして、俺たちの青春全てを賭けた決勝戦は幕を開けたのである。
俺は決勝の相手の男の方と戦っていた。名前は確か優馬と言ったか。
「君、見ない顔だねえ。強いんだなあ。」
「ナメてるとぶっ潰すぜ。」と笑いながら返す。だが、1本目は余裕で相手に取られてしまった。
「なあんだ。そんなもんか。大したことなかったね。」
「いいや、俺がここから二連勝すればいいだけだろ。諦めなければなんとかなるんだよ。そのおかげで抽選が通って俺たちはここにいるんだ。」
「え、君抽選で来たんだ。なるほど通りで弱いわけだ。」と見下したように優馬が笑った時、俺の中で何かがプツンと切れた。
「そんなことはどうでもいい。サッサと2本目を始めるぞ。準備しろよ。」
「おおい、僕は君の人生最後の決勝戦を引き延ばしてあげているだけなのになあ。」
「余計なお世話だ。俺はあいつと一緒に勝つためだけにここにいるんだ。あいつや今までいろんなことをしてくれた知り合いのためにも、俺は負けるわけにはいかないんだ。」
といい、勢いで2試合目は俺が勝つことができた。が、そこで俺は残り時間が僅かであることに気づく。
「ヤバいな、俺は負けちまうかもしれねえ。あとは頼んだぜ、相棒。」
その頃俺は礼子と戦っていた。
「君、どこかであったような気がするんだけどなあ。誰だっけ?」
「俺は前回の大型大会で一回戦目であなたと対戦しているんだ。まあ覚えていなくてもしょうがないけど。」
「そういえばそうだね。だけど今回も負ける気はないよ。」
「それは俺もだ。お互い頑張ろうな。」と言って対戦を開始した。やっぱり礼子のプレイスタイルはとても綺麗で、デッキのシャッフルの仕方やカードの触れ方など全てにカードに対する愛が詰まっていた。そんな彼女に見とれながら試合をしていると、一本目を取られてしまった。
「そんなボーッとしてると、私すぐ勝っちゃうよ。」と言われた時、隣で
『俺は負けるわけにはいかないんだ』
と言っている蓮の声が聞こえて、俺も目が覚めた。
「全く俺はあいつに助けてもらってばかりだな。俺もあいつのためにも頑張るか。」
2試合目でも、やはり礼子は強く追い詰められていたが、俺は
「俺達の全てを、この一枚に賭けて」
と言ってドローした一枚で、ギリギリ勝つことができた。運が良かったが、2試合目は俺が取り返し、なんとか次の試合に持ち込んだ。これで勝てば、俺たちは全国一番のカードゲーマーだ。そして僕は彼女にこう告げるのだった。
「俺は前回のあなたとの対戦であなたの綺麗なプレイスタイルや笑顔に一目惚れしました。もしこの試合で俺が勝ったら、俺と付き合ってくれませんか?」
彼女はとても驚いたような素振りを見せつつ、俺の目を見て、
「まずは試合に集中しよう。返事はそれからだよ。」
と言って、最後の対戦が始まった。さすがは全国大会常連といったこともあり、礼子はとても強かったが、俺も今まで以上に集中し、なんとか着いていくことができていた。そして、激戦の末に勝利を手にしたのは、なんと俺だった。そしてそこで試合終了のゴングがなり、ジャッジの人が、
「1番卓、時間切れにより両負け。2番卓、勝者伊藤隼人選手。よって優勝は、
坂崎蓮&伊藤隼人チーム!」
と言ったときに、観客席から拍手が巻き起こった。
(ヤバい、観客とか配信みている人がたくさんいる中で俺告ったのか。まあそれは断られても…)
「隼人くん!」
そのとき礼子から呼び止められた。
「そういえばさっきの返事がまだだったね。わたしはカード以外なんの取り柄もなく、学校の先生や友達からも馬鹿にされることも多かった。でも君はそんな私のプレイスタイルと笑顔が好きと言ってくれた。それが本当に嬉しかった。そしてこの対戦で君は私に勝った。だから、これからもよろしくね♪」
と言って僕と握手した。僕は、
「ありがとうございました!!!」と言って握手を返した。その瞬間、再び拍手が巻き起こった。
そのあと俺たちは決勝にいた4人で飯行って帰ることにした。礼子のカードゲームをしていない時のことも初めて知って、もっと彼女のことを知りたいと思った。優馬が俺たちのことを茶化そうとしてきたが、蓮がそれに対してとても怒ってくれた。そのまま俺と礼子は俺の家に泊まることになったのだが、そこで俺はあることに気づく。
(そういや親父に大会のことなんも話してないな。無断で外泊したし怒られるなコリャ)
と思って、
「やっぱり今日行くの礼子の家にしn」
「良かったじゃねえか!今日2人でコイツんち泊まるとか、グッドラック!」
「そうだね。とても楽しみだよ」
と、言い掛けているうちに蓮が被せていってきた。全くコイツ俺の事情を知ってるからこんなこといいやがって。もう許さねえ〜!
てわけで、俺たちは家に帰ってきた。案の定親父のお出迎えだ。怒られるかなと思っていたが、親父の最初の言葉は
「おめでとう、彼女さんもゆっくりしていってね」だった。それに俺は親父を少し見直したのだが、そのあとすぐに言った言葉は
「お前がいなかったから、心配したんだぞ〜。俺のメシ」
結局コイツは飯か。やっぱりそれでこそ俺の親父だ。
「じゃあ今日は作っt」
「俺たちもう食ってきたから自分で勝手にやってくれ。」
「どうしてだよおおお!」
対戦ありがとうございました、好きです @masko
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