「ただいまー…」


とか言ったって、家に帰れば誰もいない。

真っ暗なアパートに帰って最初にすることは、部屋の電気をつけること。

それから、急いで暖房をつける。

この頃、急に冷えてきた。もうじき雪がふるかなぁ。

十一月も末だもんな。


今日も散々な一日だった。

本日の修理件数も、オーバーワークを前提に過密に組まれたスケジュール。

「昼食は車内で二十分。その後、休憩は各家修理後十分で。何が『オーバーワーク』だよ。俺らみたいな事務はなぁ、飯食ってても電話がなったら対応しなきゃいけねぇんだから、お前らの方が断然、厚待遇だろ」

…ああ、あんたの組んだ机上のスケージュール上では、そうだよな。


実際は、一人暮らしのお婆さんに引きとめられて孫の自慢と嫁の不満を聞かされてニ時間オーバー。

修理の仕方が気に入らないと、遠回しに何度も何度も責められ、修理費を値切られ、時間も体力も削られて、昼食の時間は無し。

他にも、来るのが遅いと怒鳴られて、修理自体がすぐ始められなかったり、客の方にトラブルがなくても、機械の方が聞いていたよりも深刻な破損状況で難航したりと「スケジュール」通りにいったことなど、一度もない。

その事は、現場から事務に何度も伝えている。

が、相変わらず対応は変わらないままだ。


今日も残業確定で、疲れきって会社に戻って、最後の最後。

総務課の『カンペキナスケジュールヲツクレルオレ』のヤマシタさんから、いつもの嫌みタイム。


「お前さ、時計見た? 十八時五分。もう、提出時間は過ぎてるの。分かる? 俺はいんだよ? でも、一人受け取っちゃうとさぁ、どんどん、どんどん、同じことする奴が出てくるわけ。すみません? なあ、お前それ、どっちの意味で言ってんの? 馬鹿にしてるのか? 俺たち事務を何だと思ってんの? …あー、はいはい。天然ね。通じないわけだよ。わかった、わかった。でも、こんな書類通さねぇからな!!!!」


そうして、書類を文字通り叩き返された。

目の前に紙が、ばらばらと舞っていく。


大学卒業後、技術職として十年生きてきた。

だからといって、それを鼻にかけたり、まして事務職を馬鹿にしたことはない。

あんたの言い分も分かるよ。

ひとつ例外を許せば、後者が出てきて対応しきれなくなる。

けれど「たった五分」と思ってしまう。「たかが五分じゃないか」と思ってしまうのは、俺の傲慢なのか?

一日中休みなく修理してまわって、会社に戻り「本日修理分は今日中書類提出」との事務からの命令に従って、何とかまとめた報告書。それを叩き返される俺は、これでも「厚待遇」なのだろうか?


だめだ、だめだ。

あれはもう終わったことで、今は家にいるんだから、嫌なやつも嫌なこともなにもない。

睡眠含め、たとえ数時間しかいられないとしても、大丈夫、大丈夫。

今はほら、動画でも見て肩の力抜いて。

とりあえず笑おう。面白くなくても、笑っておこう。

笑顔を作れば、どんなに疲れきっていたって、笑えてくるから、まだ大丈夫。

繰り返す毎日に閉じ込められて、生きる意味なんか見つからなくても、俺は幸せ。

だって毎日、こんなに笑顔で生きているんだから。

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しあわせものたち はるむら さき @haru61a39

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