【患者2】の告白
私が怖いのは———、押し入れです。押し入れの、中の、暗闇。和室の匂いを嗅ぐだけで、ウッとなることがあります。
あ、あ、えと、名前は東條奈々美。歳は今年で……、二十七になります。
母がよく、私のことを押し入れの中に閉じ込めたんです。あ、母はシングルマザーで、離婚していて、その……男の人を、よく家に連れ込んでいました。
私の存在が煩わしかったんだと思います。男の人を連れてくるときは必ず、押し入れの中で"終わるまで"待つよう私に言いつけました。
離婚…したのが、私が小学二年生の頃で、そういうのは、その頃から始まりました。私が中学生、高校生になって、押し入れの中が窮屈になっても続きました。
思春期になれば、母が何をしているのかくらい理解できてしまうようになりました。やがて母の連れてくる男たちは母の身体だけでは満足しないようになり、押し入れの中から私を引き摺り出して、そのまま———なんてことも、ありました。だから、押し入れが怖いし、見るだけで気分が悪くなるのです。
あと、私には、もう一つ告白しないといけないことがあります。ああ、えと、話が下手で、すみません。こういうのは慣れていないんです。
家に帰れば暗闇と苦痛が待っている。それがわかっていた私は、高校生にもなれば帰宅を避けることを覚えました。だ、だけどこんな性格だから、ろくに友達もできたことなくって。
孤独を埋めるために、火で遊ぶことを覚えました。始めは枯れ木や布———母の相手の服、とか、を燃やすだけで満足していました。けど、母のものに手をつけたことはありません。
だけど、男たちが徐々に我慢ができなくなっていったのと同じように、私も、ゴミを燃やして遊ぶだけでは物足りなくなりました。
お父さん、お母さん、小さな男の子の三人家族が、ふと目につきました。お母さんのお腹は大きく膨らんでいて、私にはそれが幸せの象徴に見えたんです。
私が男たちに強いられてきた行為は、本来、ああいう幸福に繋がる行為のはずなのに、どうして私だけ。
ち、ちょっとくらい、彼らの日常に傷をつけても良いのではないかと思いました。その権利が、私にはあると本気で信じてしまった。そんなことは間違っていると今なら、もちろん、わかります。
本当に悪いことをしたと反省しています。
どうか、どうかこんな私を導いてください。
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