第2話 朗報

レンは5歳になっていた。

2年前から魔法に興味を惹かれ、ずっと色々調べていた彼。

しかしどの文献を見ても、ドライアドしか魔法を使えないとしか書かれていない。

基礎理論どころか、入門すらない。

魔力を観測できない人間にとって、魔法なんて夢のまた夢ってわけだ。

「そ・れ・に・し・て・も!!!ウッっっっっぜぇぇぇぇぇぇ!!!!???うぐぎぁぁ!!」

いきなりレンはそう叫び始める。

そして手を目の前でパタパタ動かす。

理由はシンプル、レンの目の前を浮遊し続けている虹色に輝く糸の所為であった。

この糸。

触れれないのに、視界にはずっと映り続けている。

しかも、野外だと人よりもこの糸の方が写ってくる。

ゴキブリか何かである。

一匹見つけたら、十匹いる感じが。

レンはため息を吐き、立ち上がる。

病院に行った事もある。

しかし、体の何処にも問題はないらしい。

「はぁ、、、」

唯一の助けは、目を瞑れば見えなくなる事だろう。

要するに視覚的情報であり、目の中、幻覚、とかではない。

レンはため息を吐き、読んでいた専門書を投げ捨てる。

「テレビ見よ」

そう言い、レンは自室をでる。

一階リビングでは、父リアックがテレビの前のソファーを占領しており、手に持った聖杯、リモートコントローラーを一切放そうとはしない。

「パパ、僕もテレビ見たいんだけど」

「そうか、じゃぁ、お父さんからリモコンをとってみろ」

そう言い、ニヤけ顔のリアックはリモコンをゆらゆら揺らしている。

「いいよ、パパ、でも僕も成長したんだからね?」

「ははは!そうか、では我が息子 レンリランよ!我からテレビのリモコンをとってみろ!」

そう言い、ソファーから立ち上がり臨戦体制をとるリアック。

レンも腕を前に、足を後ろに、いつでも動ける体制をとる。

混じり合うお互いの瞳

呼吸による微かな胸の浮き沈み。

足の微弱な筋肉の動き。

レンは息と唾液を飲む。

相手は父。

リアックは待機軍人だ。

待機とはいえ日頃鍛えているし、五歳児に比べたら圧倒的に強いだろう。

しかし、レンはただの五歳児ではない。

前世の、機械エンジニアであった記憶を持つ。

他の五歳児はおろか、一般人よりかは設計などをしていたおかげて頭は回る。

その上、細かな動きを機械に命令していた。

仕事によっては1ナノミリの誤差も許されない環境。

他者よりも動きには敏感だ。

一方は頭脳、一方は筋力。

実力は5分だろう。

それはリアックも感じていた。

自身の血を分けた息子。

その息子は学校をまともに言っていなかった不良の自分より頭が周り、人の微弱な動きに敏感な事を。

しかし、この場では『経験』が勝るのだ。

レンは思い切りよくリビングのフローリングを蹴り、リアックとの間合いを詰める。

「残念だ!我が息子よ!それでは俺には勝てんぞ!」

リアックは慣れた手つきでレンを受け流し、安全なソファーにレンを誘導する。

ソファーのふかふかクッションに頭からダイブするレン。

「残念だが、今日のテレビは魔法特番ではなく、サッカー観戦だ」

「ふふふ、ふふふ、ははは!!」

「な、何がおかしい!」

レンが唐突に笑い出し、その事に違和感を覚えるリアック。

そんなリアックは自身の感触の違和感に気づき、急いで手の中を見る。

そこには、ある筈の物。

即ちリモコンがなかった。

「まさか!。俺がお前を受け流すことを見込んで、飛び込んだというのか!」

「そうだよ、パパ。」

そう、このレンと言う男!五歳児はリアックが自身を掴んで受け流す。

その瞬間、リモコンを掴む手の力が抜けることを見込んで、ソファーに流される瞬間にスラム街の少年が如く、スったのだ!

「はいはい、リビングで暴れないよ〜」

目を丸くし、呆れ顔の母、アリアはそう言った。

これが初めてではない。

どうせ、レンが負けてもリアックはリモコンをレンに渡していたであろう。

そう、これは親子と言う男と男の戯れ。

茶番であった。

「「はーい」」

レンとリアックは声を揃えて返事をした。

ソファーに座り、リアックの膝の上でテレビを見るレン。

テレビでは例のドライアド、カルーラが魔法を披露していた。

レンが彼女を知るきっかけになった特番以降、仕事がこれまで以上に増えたらしい彼女は、今ではテレビで見ない日は無いほどになっていた。

ファンとしてはとても嬉しい。

レン身を軽く乗り出し、食い入る様にテレビを見る。

そんな彼に、“朗報“って奴が飛び込んできた。

「再来月、私は惑星リリーの都市、リラで魔法ショーをやる予定です!みなさん来てくださいね!」

カルーラは可愛らし笑顔を見せ、告知をした。

惑星リリーはレンの住む星、都市リラはレンの住む街。

その事を理解するのに、要した時間は約0.0032秒。

「ママ!」

レンは瞬時にダイニングチェアに座ってテレビを見ていたアリアの方を向く。

「良いわ!パパのお陰てお金はあるから!行って良いわよ!」

アリアは親指をグッと立ててレンにそう言う。

「パパ!」

レンはリアックの方を向く。

リアックはと言うと、言われる事を言われる前に察しとった様子で、

素早く、慣れた手つきで携帯端末を操作し、特設ウェブページでショーのチケット抽選に応募する。

「安心しろレン!俺は運だけは良い男だ!必ずチケット抽選に当たる!大船に乗った気で待ってろ!」

抽選結果は一週間後に出た。

チケット3人分、見事当選である。

S席は取れなかったが、A席の最前列となかなか良い位置である。


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