科学的魔法世界の転生者 〜科学の発達した異世界へ転生しました〜
菓子月 李由香
プロローグ
第1話 魔法と出会った日
空気は温かく体を包み、綺麗な薄ピンクの桜の花弁が道路を染めている。
そんな春の日。
人生で色んな事が始まる日。
入学式に、入社式。
新生活の始まりも。
そんな始まりだらけの4月。
彼の人生は終わりを迎えていた。
彼、赤島 ケント30歳は、ロボットエンジニアとして大きめの企業の生産ラインで使われるロボットアームの修理を生業にし、結構一目置かれる存在だった。
それは彼の実力のおかげなのか、それとも学生時代からの陰気な雰囲気の所為なのか、まぁそれはどうでも良い。
4月の綺麗な雲ひとつない晴天の休日。
彼は道は家に溜まったゴミをマンションの共同ゴミ捨て場に持って行っていた時だった。
いきなり視界がぐらりと回転し、彼は頭から溜まったゴミ袋の海にダイブする。
心臓発作、なんだと思う。
胸が苦しくなり、体から血の気が引いてゆく。
体が言うことを聞かない。
脳によぎるのは、恐怖と絶望。
その絶え絶えの意識の中、ケントは一つの声を聞いた。
『今、助けてやるからな』
少し低めの渋い声が聞こえた瞬間、ケントの意識は完全に霧散した。
△▽
人類が暴力を捨て、協調し合い、宇宙開発を進めて1000年が経った。
中央惑星アースを中心とした連合国は、人類とは別の存在と戦争を続けていた。
人類が観測可能な宇宙の外より現れた未確認生物、仮称エルフは人類の兵器を凌駕する魔法と呼ばれる技術を用い、人類は前線を後退させる以外の道がなかった。
そんな中、人類は最後の希望として、魔法攻撃に高い耐久性を持つ人型形状をした兵器ナイト・マシンを開発した。
ナイトマシンの全線投入は華々しい結果を収め、人類の反撃の狼煙となった。
しかし、今はその話は関係ない。
惑星 リリー。
戦火がとどかぬ平和な田舎の惑星に、一つの産声が上がる。
△▽
彼は、ゆっくりと目をあけた。
朧げに瞳に映るのは靄のかかった光の影。
淡いその影から推測できるのは、人影と言う事だけである。
(死後の世界——か、、イメージとは違うな)
男はそう考え、ため息を吐く。
「#$%&’()(‘&%$#$%&’()(‘&%$#$%&’(]」
そんな彼の耳に、不思議な“声“が入ってきた。
言語体系はどの国家にも属さず、しかしそれは声であり、出鱈目な発音をしているわけでない、しっかりとした言葉であり、歓喜に満ちた人間の女性の声であった。
(天国の言葉?)
そう考えた瞬間、体に絵も言われぬ浮遊かんに襲われる。
誰かに持ち上げられた感覚だ。
(うわ!、なんだ?)
彼が驚いていると、視界にくきりと、一人の女性が写った。
頬を赤らめ、息を切らした西洋の顔立ちの女性。
そんな女性は彼をジッとみて、どこか満足そうに笑う。
(誰だ?)
「$&‘(’&“#$」
男の声が耳に入る。
そして視界に入ってきたのは、声の正体であろう男。
目に涙を浮かべ、喜びを表現して要るのか、何かを女性にはなしている。
(ここが天国なら、差し詰め神と、女神ってことか?にしては何か変な気もする)
男はボヤボヤの目ではあるが、首に違和感を覚えつつ、辺りの状況を確認すべく辺りを見渡す。
そして、自身の体を見た時、男は目を丸くし、言葉を失った。
全体的に丸みを帯びたフォルム、艶の良い肌、短い手足、まるで、赤子のよう。
違うな、、赤子なんだ。
男の脳に、一つの言葉が過ぎる。
輪廻転生。
魂が死後、別の体に宿るってやつ。
仏教徒はおろか、なんらかの宗教信者でない男にとって、とても信じれる物ではない。
しかし、今の状況を説明する言葉としては、ピッタリではないだろうか?
△▽
輪廻転生ってやつをしてから、2年の月日が流れてた彼は窓の外を眺めていた。
遠くでは煙突から煙が天に向けて登り、
世界を包むように張り巡らされた電線と言う蜘蛛の巣がその黒い絶縁体のゴムの不適な光沢をこちらに見せびらかしている。
一見すると世界は平常運転。
現代、そう思うだろう。
しかし、明確に違う点があったのだ。
空気を漂う一つの線。
虹色のその細い糸が、宙を漂っているのだ。
触れようと、手を近づけるが、触れれない。
しかし確かにそこにある。
「あらあら、何を見つけたの?レンリラン?」
そう、一人の女性アリアが言う。
レンリランとは男の新たな人生における個を意味する名である。
愛称はレン。
そんなレンという2歳児(精神年齢三十路)を抱き上げる。
西洋系の美人な顔つき。
23と言う若い女であり、乳がでかい。
そんなアリアであり、おそらく世の男皆鼻の下三寸伸ばして、(おねーさーん、お兄さんといいことしようよ〜)何て言うところだろう。
かというレンも前世であれば今夜のおかずにしていただろうが、残念ながら自身の母に欲情はできない。
レンはそんなアリアにこう質問してみる。
「ママ、これなに?」
「うん?なんのかしら?ママには見えないわ」
「これ!」
レンは拙い言葉でそう言い、見える線を指差すが、アリアは首を傾げるだけだった。
「ママ、、、見えない?」
「えぇ、見えないわ。」
レンはこの時初めて知った。
世界を我が物顔で漂うその虹色の線を認知できるのは、自身だけである事を。
それから1年が過ぎ、3歳になったレン。
言葉を比較的覚え、レンという子供は好奇心旺盛な子へと成長した。
そんな彼は今ハマっている物があった。
報告しよう、それはテレビである。
というのも、三歳児の体にはテレビから発せられる情報は新鮮な物であり、飽きさせない。
何より、幼児向けアニメ、これが中々イケる。
前世の記憶があれども、体は子供ってわけだ。
さてさて、そんなテレビっ子のレンくんは今日もいつも通りテレビを見ていた。
そんな彼の網膜に焼き付く様な番組が放送された。
金曜夜の特番。
画面中央には一人の女性が立っている。
耳が長い、ファンタジー小説に出てくる“エルフ“の様な女性。
「かの有名な魔法使い!ドライアドのカルーラ・ライトさんに来てもらいました!!。本日はその惑星ドライアドに伝わる魔法をたっぷりみせていただきましょう!」
ハイテンションな司会者はそう言い、中心に立つ可憐でどこか不思議な雰囲気を持つ女性、カルーラを紹介した。
ドライアド。
樹木の精霊の名を持っているが、精霊なんてファンタジー存在ではない。
教えよう、ドライアドとは、異星人である。
約500年前、人類が宇宙に進出してから500年が立った頃、人類は文明レベルの低いが、しかし知性と言葉を有した宇宙人と出会った。
暴力を捨てて久しい人類と、
宗教的に非暴力を掲げるドライアド。
両者ともに暴力を好まない。
そのため言葉を用い、ドライアドと人類は友好関係を築き、人類は科学を、ドライアドは惑星で採取できる鉱石を貿易しあっていた。
そんな異星人ドライアド、彼ら彼女らには、人類の持たない力を持っていた。
それは、“魔法“。
空気中に漂う、人類が唯一手に出来なかったエネルギー、魔力を吸収し、事象を改変する力。
そんなドライアドを知らぬレン。
そんなレンは前世の知識で嘲笑う。
(魔法なんて存在するわけない。仮にすごい事が起きたら、それは手品だ)
カルーラは手をそっと前に突き出す。
少しの間が空いたのち、その手のひらから、魔法陣のような物が現れ、そして水が吹き出した。
勢いの良い水飛沫は、テレビスタジオのセットを濡らし、スタッフや、その場にいた女性タレントの注目を掻っ攫う。
その光景は、異質であった。
普通、超能力者って奴がテレビに出たら、それが嘘だと見抜くか、それが本当だという証拠を五万と並べ奉るだろう?
しかし、この番組には、その行為が一切なかった。
それが本当であると疑わない。
電気をつけると部屋が明るく照らされることを疑問に思わないように、
コンピューターが1+1を2だと言いあてる事を疑わないように、
それが正常であり、生まれるずっと前から決まっているルールであると言わんが如く。
その異質で異様で恐怖を感じる光景に、レンは、正確にいうとレンの前世である男は、興味を惹かれ、テレビに映るカルーラという女性の、虜になっていた。
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