通知待ち

楠木の雛

通知待ち

 苦節20年。それが今、報われようとしている。

 ついに、俺の小説が新人賞において最終選考まで到達したのだ。

「頼む……頼む……!」

 スマホを強く両手で握りしめながら、俺は天に祈った。

 21時。その時間ぴったりに、受賞作の著者には編集者から連絡が来る。

 現在の時刻は──20時58分だ。

「っすー……はぁー……っすーはぁー……」

 秒針が一歩進むたびに高まる緊張、早まる鼓動、荒ぶる呼吸。

 緊張が苦しくなり抑えようと何度深呼吸を重ねても効果は皆無で、故にただただ、自分が底に抱える漠然としていて猛烈な不安を自覚するのみだった。

「……落ち着け俺……」

 今回の作品は自信作だ。これまでの人生で最高傑作とも言っていいほどに。

 当然だろう、俺はこの20年の汗と涙とその上に立った学びを注ぎ込んだ。だから、最終選考にまで残ったのも納得していたはずだ。確かな感触を感じていたはずだ。

 それなのに……。

 そうだ、何を戦々恐々としていたのだろうか。

 俺が信じなくてどうする。この長きに渡る努力が生み出した最高傑作を。

「ふぅーーー……」

 一度深く息を吐いた。

 言い聞かせた言葉だけ心に留め、悪い気分は捨て去るために。

 きっと、きっと、大丈夫。



──『ピローーン』

 軽快な音が鳴った。


 俺は飛び掛かるかのような勢いで、顔に近付けた。音が鳴ったそれを。

 俺の、スマホを。


 一件の通知。


 スマホを開いてメッセージを確認した。


『ねぇ、結果はどうだったの?』


 そんな、母親からのメールが届いていた。


 送信された時間は、21時02分を指していた。

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