第34話 懲罰はなしで

「そんなことより、けがしてない? 大丈夫?」

「ああ、大丈夫。それより……オレ、桜庭のナイトになるって言ったのに……」

 ユーリ、ますますしょげた顔をしている。


「そんな顔しないでよ。私はおじいちゃんに言われた通りにしただけだから」

「オレ、もっと修行しないとダメだな……」


 それは私も同じ。


「桔梗さん、すいません。結局、ボクたちが助けられてしまって……」

 カイトさんまで頭を下げる。

 手の甲が少しすりむけて赤くなっている。

 治癒魔法、やり残しかな。


「カイトさん……私たち、チームなんでしょ?」

「あ、そうだった。ごめん……いや、ありがとうだね」

「でもさ、マジでオレたち、最後の最後まで桜庭に助けられて、かっこ悪いよなあ」

「三人で力を合わせてソーサラーをやっつけたんじゃない。助けるとか助けられるとかじゃなくて」

 ホントそう思ってる。

「あ、うん……それはそうだけどさ……」

「そんなちっちゃい根性じゃあ、大魔法使いなんてなれないんじゃない?」

「う、桜庭まで“ちっちゃい”とか言うし……」


 ユーリはさらにしょんぼりした。

 ほんと、男らしくない――あ、私だって女の子らしくないって言われたら嫌だから、そういうのやめとこう。


「そういうの、ユーリらしくないよ。自信満々のユーリはどこ行ったの?」

「え? あ、まあ……」


「だいたい私は魔法なんて使えないし、ユーリの方がずっとすごいんだから。自信持ってよ。私をほうきに乗せて宇宙まで行っちゃうし」

「うわ! 桜庭、それ、ここで言うのは……」


「ほうきに乗せて宇宙? どういうことかな? ユーリ・ノックス・シラカワ」

 市瀬先生がにやりと口を挟んだ。


「……あ、なんでもないです。えーと……」

 あれ? まずいこと言っちゃったかな?


「まあ、今回はほかにもいろいろあったが見逃しておく。桔梗さんに免じてね」


「え? ホントに?」

 ユーリ、懲罰ちょうばつは平気だったんじゃないの?


「それに、予想外に強かった敵に善戦したしね」

「え? それってもしかして……」

「ベヒモスを召喚するなんてかなりの高位魔法だからね。やつが隠した魔法陣は私も見破れなかったし」


「じゃあ、ウィザード昇格?」

「ああ、それは無理かな。桔梗さんの活躍がなければ倒せなかっただろうし」

「はあ……そうですよね……」

 ユーリが肩を落とした。


「当然です」

 カイトさんはやっぱり真面目だなあ。


「あ、でも……」

「どうした? カイト・パーシー?」

「ボク、ソーサラーの素質があるみたいで……うすうす自覚はしてたんですが、魅惑魔法に引っかかりました。このままウィザードを目指すのは……」


「なんだ。心配するな。ソーサラーの素質なら私にもあるぞ」

「え?」

「魔法使いの半分は素質があるって習っただろ。やつらは小さな心のすきを突いてくる。だからこそ、ウィザードもウィッチも、誘惑に負けない精神を鍛えなければならないんだ」

「はい……」


「オレは素質ないぜ!」

 ユーリが胸を張った。

「そうだな。単純なやつは強いからな」

「やった!」

 ユーリ、それ、たぶんほめられてないよ。


「オレ、大魔法使いになれますよね?」

「それは保証できないがな。まあ頑張れ」

「はい!」

 まあ、それがユーリのいいところだもんね。


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