第12話 眠くてもサッカーは別!

「カイトさん、ユーリくん、そろそろ学校行く時間だよ」

 翌朝、私は二人の部屋をノックして声をかけた。


「あ、ちょっと待ってください。ほら、ユーリ起きて」

 中からカイトさんの声。朝ご飯食べたあと、ユーリまた寝ちゃったの?


「うっさいなあ。オレ、朝弱いの。だいたいロンドンだとまだ真夜中だぞ」

「そんなこと言っても仕方ないだろ。それにきのうはよく寝たじゃないか」

「時差ボケなんだから、そんな簡単に治らないよー」


 ユーリが情けない声を出した。やっぱりお子さまだなあ。しっかり起きるカイトさんはさすがだけど。


***


「行ってきます」

 遅刻ギリギリの時間に、ようやく三人で家を出た。


「眠い……」とユーリが目をこすっている。


「きょうの作戦なんだけど」

 カイトさんが話を切り出したが、ユーリはぼーっとしていた。


「うう、眠くて無理。頭に入んない」

「しょうがないなあ」


「でも、桔梗ききょうさんの家に住まわせてもらえたのは好都合でした。一日中、あなたを守れますし。登下校も」

「はは。誰かに見られるとまずいですけどね」

「それは大丈夫。学校の近くに行ったらオレがイリュージョニスかけるから」


「そうだね、ユーリ。でも、もっと早起きしないと遅刻しちゃうよ」

「あ、確かにもう時間がないかも!」

「急ごう」

「はい!」


 私たちは学校への道を走った。……なんで魔法使わないんだろう?


***


 一時間目は体育だった。ユーリ、眠そうなのに大丈夫かな。


「きょうはサッカーをやります。まずはドリブル……」

「サッカーなら任せとけ!」


 水原先生が言い終わる前に、ユーリがボールをけりながら、ものすごいスピードでグラウンドを駆けだした。

 あれ? 目、覚めてる⁉ 変なやつ。


(すっげえ)(さすが本場帰り)(かっこいい)(尊い)(うざ)


 みんなの視線が集まる。彼らには背の高いイケメンに見えてるんだっけ。ユニフォームみたいな体操服もあいまって、イングランドの代表選手にでも見えるのかな?


 ドリブルで戻ってきたユーリは、みんなの前でリフティングを始めた。ヘディングまでしてる。……あれ、頭の高さ、みんなが見てるのとちがうよね。イリュなんとかで、どうやって見せてるんだろう?


「あー、えーと、真木亜まきあくんだっけ? 見本をやってくれるのはいいけど、今度からは先生が指示してからにしてね」

「あ! はい……すいません」


 みんながどっと笑った。


「オレの仕掛け、完璧かんぺきだったろ」

 戻ってきたユーリが私に小声で言う。


「オレ、サッカー、マジで好きだし。でもくやしいけどカイトはもっとうまいんだよな」


 へえ。自信過剰かじょうかと思ってたけど、ちゃんと自分をわきまえてるんだ。勉強も運動も必修なんて、魔法使いってたいへんだなあ。


***


「はは、なんだよ内田、お前へたっぴすぎだろ!」

 隣の組から意地悪な声。狙われたのは内田春貴うちだ・はるきくん。教室では一人でいることが多いけど、成績は上位だったと思う。運動は苦手なのかな。


 ヨタヨタして転びそうになり、ボールを見失ってオロオロしていると――。


 ユーリが飛び出してボールを止め、猛スピードで内田くんの前までドリブルして急停止した。


「大丈夫。ボールをよく見ながらゆっくりやろうぜ。オレのやり方見ててよ」


 ……今度こそ先生に怒られるぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る