第8話

アイファルスがうちで魔道士として働くことになった翌日。

朝起きて支度をして、いつも通り朝食を食べるために食堂へ行くと既に父さんとアイファルスが雑談をしているところだった。

「おはよう、バルバス」

父さんは俺が来たことに気付くと話を中断して挨拶をする。

「おはようございます、父さん。アイファルスもおはよう」

「ああ、おはようバルバス」

父さんに挨拶を返し、アイファルスにも挨拶をするとそう返してくれる。

様、付いてなかったな。

そのことに少しだけ嬉しさを覚え席に着く。

「父さんもアイファルスも早いな」

この時間はまだ俺が1番乗りでもおかしくない時間のはずなんだが、既に2人ともいるとは。

「ああ、今日は朝から仕事が入っていてな。その対応をする為に早めに起きていたんだ」

父さんはそう言って小さく溜息を吐く。

朝早くに対応しなければならない相手と言ったら大体は王族、それか外国の要人。

体力を使う相手だったのだろうな。

「お疲れ様です。アイファルスは?」

「ああ〜……僕はちょっと、眠れなくて……」

父さんに労いの言葉を伝えつつアイファルスにも尋ねてみたが、なんだか歯切れの悪い答えが返ってくる。

「眠れなかったのか?部屋の居心地が悪いとかだったら変えてもいいぞ?」

「ああいや!そういう訳じゃないんだ!」

俺の提案にアイファルスは焦ったようにそう否定してくる。じゃあ原因は何なんだろう。

「その、ほら!元々放浪の旅をしていたって言っただろう?それで一晩二晩ぐらいは寝ないで移動したときなんかもあったから、逆に一晩ぐらいなら眠らなくても大丈夫になってしまって……そのせいか、眠れない日がたまにあるんだよ。だから、あまり気にしないでくれ」

アイファルスは言い訳でもするかのように早口てそう言うと曖昧に笑った。

実際のところはもっと複雑な事がありそうではあるが、聞いても答えてくれそうにないし聞かないことにしよう。

「そうなのか、分かった。でももし本当に部屋の居心地が悪かったり、何か必要な物があったりしたら遠慮無く言ってくれよ」

「分かったよ。ありがとなバルバス」

そんな会話をしている間に料理が何品か進み、次の料理が運ばれてくる。

「それにしても、こんなに豪華な食事を食べるのは久々だな」

アイファルスがそう溢す。

「以前何処かの貴族家にでも勤めていたことがあるのか?」

父さんはすかさずそう尋ねた。

流石、抜け目ないな。

「えぇ、まあ短期間の雇われでしたけど。その時に親切にして下さった方がいて、その方にこうしたテーブルマナーや貴族や使用人の礼儀作法なんかを教えて頂いたんです」

アイファルスは少し懐かしむようにそう言う。

「そうなのか。因みに、その勤めていた貴族の家名を伺っても?」

父さんはアイファルスに興味が湧いているのかそう深掘りしていく。

「えぇと……すみません。そういうのは言ってはいけない、という条件での雇われでしたので、現在の雇い主の方相手でもお伝えすることは出来かねます」

アイファルスは少し困ったように言うが、言葉の芯がはっきりしていて断固として折れないだろうという雰囲気を感じさせる。

「……そうか、ならば仕方ない。色々と聞いてしまって悪かったね」

「いえ、構いませんよ」

父さんは流石にここで手を引いた。

これ以上はアイファルスを怒らせると思ったんだろう。確かにこれ以上は怒ると思う。

構わないと言っている割にアイファルスの表情は目が笑っていないし、声も平坦だ。

多分だけど、アイファルスは普段優しく見えるからこそ怒ると怖い人間だと俺は思う。

父さんはやっぱり引き際の見極めが上手いな。

そんなこんなで食事は終わり、父さんは俺にアイファルスへ屋敷の案内をするように言った。

言われなくてもするつもりだったけどな。

「じゃあ行くか」

「うん」

父さんが食堂を出てから俺達も出る。

まずは俺の部屋から案内しようかな。

「この食堂から左の廊下を歩いて突き当たりを曲がると、右手側に1つだけ扉がある」

食堂から廊下を歩きつつ言葉でも説明をする。

「その扉の先が俺の部屋だ。何かあったら、というか別に無くても来ていいからな」

そう言うとアイファルスは少し噴き出すように笑う。何かおかしかったか?

「分かった、何も無くても行くことにするよ」

そう笑いながら言うものだから、何だかよく分からない悔しさのようなものが湧いてくる。

「何だよ、別にいいだろ〜」

「なにも悪いとは言ってないじゃないか」

ムッとしつつ言うがアイファルスは笑ったままそう返してきた。

「ほら、着いたぞ。ここが俺の部屋だ」

扉を開けて中が見えるようにするとアイファルスは部屋の中を覗き込み興味津々といった様子で見回す。

「へぇ〜流石、結構広いんだね。快適そうだ」

口から出る感想は簡潔なものだが、きっと心の中では色々と思っているに違いない。

「じゃ、次行くぞ」

「は〜い」

こんな調子で客間、応接室、ホール、音楽室、調理場、倉庫、使用人達の居住区や仕事場等を案内し、最後に庭園を1周してからティータイムにすることになった。

因みにこれは今日1日付き合ってくれていたゲルジットからの提案だ。

「どうだった?うちの屋敷は」

庭園内にあるガゼボでティータイムにすることに決め、ゲルジットが紅茶や菓子を運んでくるのを待っている間、今日の感想を尋ねてみる。

「うん、凄い素敵なお屋敷だと思ったよ」

アイファルスは庭園を眺めながらそう言う。

「それは良かった。これから過ごしていく環境が嫌なものだったら申し訳ないからな」

もしアイファルスがうちの屋敷を嫌だと言うなら、新しく敷地内にアイファルス専用の家でも建てようかと思っていた。

だがその心配は要らなかったらしい。

そうこうしているとゲルジットがいい香りのする紅茶と美味しそうな菓子を運んできた。

何も言わず静かにセッティングをして側に控えてくれた。アイファルスが庭園を眺めているこの空気を壊さないようにしてくれている。

「庭園の管理は誰がしているんだ?」

アイファルスはそう尋ねてくる。

「うちの庭師だよ。父さんが若い頃からいるらしいし、もう結構おじいちゃんだけどな」

そろそろ後継者でも、と何度か俺も父さんも言ってるが一向に首を縦に振らない頑固な人だ。

「そうなんだ………」

アイファルスはどうやらこの庭園を1番に気に入ったらしい。

今日1番の楽しそうな顔で眺めている。

俺の部屋のときは友達の家を覗くみたいな、そういう感じの興味だったと思うが、この庭園を見るのは純粋に好きだからなんだろう。

「もし気に入ったなら庭師にアイファルスのこと言っておこうか?」

俺の提案にアイファルスは勢いよく振り向く。

その反応に少し笑ってしまいつつ理由を説明することにする。

「うちはあまり植物とか、こういう庭園の美しさ、みたいなのに興味のある人間が少ないから、多分話し相手が出来たら喜ぶと思うし」

そう言うとアイファルスは心底嬉しそうな顔で「ありがとう」と言って笑った。

その後は紅茶やクッキー等の菓子を食べつつ色々な話をした。

アイファルスが今まで旅してきた場所で起きた出来事を聞くのは、自分が旅をしているのとは全く違う体験の連続で面白かった。

逆に俺が話す貴族社会のゴシップや駆け引き、父さんが今まで打ち立ててきた功績の裏側等の話をするとそれはもう楽しそうに聞いていた。

お互いがお互いの知らないこと、知りたいことを知っているからか話は尽きず、ゲルジットに「そろそろ夕食のお時間が……」と止められるまで話し込んでしまった。

また明日も出来るから、と食堂へ向かい夕食を済ませ、お互いの部屋へ帰る。

だが同じ屋敷内で過ごしていると思うと不思議と寂しさは感じなかった。

また明日も沢山話せるといいな。

そう思いながら眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る