第7話

その日は、もの凄く寒い朝だった


特に予定の無い休みの日だった


いつものように朝食を食べながらメアリーは聞いた


「今日はどうするの?」


「お墓参りにでも行こうかな」


メアリーは今日も?また?とも言わなかった


「そう、行ってらっしゃい」


いつものように、僕は家を出た


足音や鳥の鳴き声、風の吹く音を聞きながら歩いた


「兄さん、来て」


久しぶりにエリックの声が聞こえた


小道は荒れていて、かなり歩き辛くなっていた


伸びた草を手で払いながら、歩いた


何年、何十年ぶりになるだろうかと思った


その場所には花が咲いていた


沢山の黄色い花畑が目の前にあった


涙が出そうになった


エリックに挨拶とお礼を言った


少しだけ花を摘んで帰った


「ただいま」


メアリーはいつものように言った


「おかえりなさい」


そっと花を差し出すとメアリーは喜んだ


「とっても可愛い花束」


すっと立ち上がり、花瓶に水を入れ、花をテーブルの上に飾った


「マリーゴールドね」


聞き覚えのある花の名前だった


メアリーの淹れてくれた、温かいお茶を飲みながらたわいもない話しをした


いつものように、笑ったり少し驚いたりした


僕はメアリーに聞いた


「幸せ?」


メアリーはにっこり笑った


「幸せ」


僕はメアリーに弟の話をほとんどしなかった


とても悲しむかも知れないし、心配をかけたくなかった


言えなかった


でもある日、メアリーは言った


「もし、過去に戻れたらどうする?」


僕はすぐに答えた


「弟を助ける」


メアリーは続けて言った


「貴方は優しい人だから」


僕は黙った


何も言えなかった


メアリーは美味しそうにお茶を飲んだ後に言った


「私は、また貴方と結婚すると思う」


僕は黙ったまま、頷いた


「ごめんね」


メアリーは僕に謝った


「君が僕に謝ることなんて、何もない」


僕は慌てて言った


メアリーはお気に入りのカップを眺めていた


「ありがとう」


少し小さな声が聞こえた


ある朝、そんな会話をした事を思い出した


いつものように朝食を食べて、メアリーは言った


「今日はどうするの?」


僕は少し考えてから、散歩に誘った


メアリーは優しく笑って、支度を始めた


いつも通り、幸せな一日だった


外に出ると、空は良く晴れていて心地よい風が吹いていた


手を繋いで歩いた


足音が二つ並んで聞こえていた



おしまい

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