人員不足の正義の組織が悪に倣って増員した話

七枕なな

人員不足の正義の組織が悪に倣って増員した話

「これより臨時会議を始める。議題はもちろん、先日司令官が入院した件についてだ。原因は過労」

「俺たちは忙しすぎる。なんでうちの組織にはこんなに人がいないんだ」

「レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンク、アイテム開発担当の博士、秘書そして司令官の八人しかいないじゃないか!」

「僕は経理も兼ねています」

「あたし広報」

「クレーム処理誰だっけ?」

「司令官」

「げ、じゃあ司令官不在中は秘書の担当で」

「人はいないくせに建物ばっかり馬鹿でかいのなんですか?」

「箱物ってそういうもんだろ。掃除は俺たちが帰ってから司令官が一人でやってくれてたらしい」

「戦闘中に至っては司令官のワンオペ。そりゃあ過労で入院くらいするでしょ」

「悪の組織は日替わりで幹部が襲撃に来るくらい人員に余裕があるって聞いたぞ」

「週一出勤、週六休みよ。こっちは365日休み無し。やってらんないわ。なんであんなに大所帯なのよ」

「幹部いすぎだろ」

「あとショッカーな」

「だいたいショッカーってなんすか、数の暴力は卑怯でしょ」

「・・・・・・求人出すか?」

「もう出してる」

「なんで人が入らないんだ?正義のヒーローは不人気職なのか?」

「なんか適当に事務とか言って求人出したら?」

「やめろ虚偽掲載はハローワークを敵に回す」

「うちの組織は善の心が80%を超える人間でないと所属できないんです。善人が少ないんです」

「悪の組織はどうしてるんだ?あいつらのとこも似たような制約あっただろ」

「悪人ばっかなんじゃね?」

「あいつら求人に悪の組織の団員募集なんて馬鹿正直に書いてんのかよ。絶対虚偽やってるだろ?」

「調べてみよう」

「何それ」

「悪の組織の業務用SNSだ。この間捕まえたショッカーから司法取引で手に入れた。ここからメインサーバーにハッキングする」

「どうだった?」

「悪の波動ビームだ。人間の中の悪の心を増幅させる効果がある。これで悪の組織の団員を増やしているんだ」

「じゃあこっちも善の波動ビーム放って、善人増やして人員補充しようぜ」

「それは洗脳じゃないのか?」

「いい奴になるならいいだろ」


***


「なんだここは、一ヶ月見ない間に人で溢れている。誰か説明してくれ。ブルーはいるか?」

「はい」

「誰だきみは?」

「ブルーです。あ、もしかして今日退院予定の司令官さんですか?前任者ならあそこですよ。高橋さーん!」

「はい、経理の高橋です」

「ブルー!」

「あ、ブルーは今そちらの彼です。僕は経理に専念することにしました。彼、若いのに猟友会に入ってて、射撃が上手いんです。他の4人も求人を出したらもっと適任者が現れたので、今は兼業が本業です」

「なんだって?」

「あ、広報の坂本さん、良いところに。司令官の案内をお願いします」

「ピンク!」

「今は広報の坂本よ。戦闘員も人が増えて24色展開しているから、ピンクはサーモンピンクとパッションピンクがいるわ」

「もう何が何だか」

「善の波動パワーで人員補充したの」

「???、施設も拡張したようだが、資金はどこから?」

「ああ、合体ロボを何体か売却したの。5人しかいないのに何であんなにあったの?追加戦士も来ないのに」

「博士がつい」

「おもちゃ売るんでもあるまいし、無駄だから売ったわ。その分のスペースは福利厚生を充実させたの。おかげで定着率もいいの」

「あ、司令官だ。復帰祝いはいつもの店で七時っす」

「グリーン、いや元グリーンか。しかしこんなに戦闘要員がいると、私1人では指示を出し切れないな」

「大丈夫っす。今その辺は幹部による合議制になってるんで。ほら、見てください。今作戦会議中っすよ」

「議長をやっているのは元イエローか。回っているな円滑に」

「入るっすか?司令官の椅子持ってきますよ?」

「いや、私の席はいい。・・・・・・実家に帰って農家を継ぐことにするよ」

「じゃあ今日の復帰祝いは送別会に変更っすね。今までお世話になったっす」

「そういえばお前は何をやってるんだ?」

「今は司令官の後を継いで、掃除夫の北野っすよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人員不足の正義の組織が悪に倣って増員した話 七枕なな @aaaankoromochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ