11 初めての中層
ゴブリンを狩る。狩るというよりも流れ作業に近い。銃を構える。引き金を引く。N鉱石を回収する。の繰り返し。欠伸を噛み殺しながら、攻略を進め、ようやく階段にたどり着いた。
通路がそのままの大きさで階段になっていて、道幅もかなり広い。休憩でもしているのか、他の探索者が壁に寄りかかり腰を下ろしている。グループ同士でまとまっているらしく、小さな声でひそひそと囁き合っていた。警戒している様子の一切ない素振りを見ると、どうやらモンスターのいない安全地帯になっているらしい。
「あれ……ソロか?」「いや女ひとりで探索なんてありえないだろう」「初めて見る顔だ」「防具もつけないなんて頭おかしい」
聞こえていないフリをして、中層に降りた。マップの表示が自動的に切り替わる。これにモンスターの位置まで載っていれば完璧なのに、そこまでは進歩していないらしい。
マップを頼りに順路通り攻略を進めていけば
「ブモオオオオオオオオオオオオ」
2メートルを超える体躯、灰色の肌に豚のような顔をしたモンスター、オークが正面から姿を現した。雄たけびをあげ、ドシン、ドシンと音を鳴らし距離を詰めてくる。右手には人一人分もある巨大な棍棒を持ち上げ、それをものともせず振り回している。あれで殴られたりしたら……一発で即死だ。
「鈴、あなた倒せるのよね?」
『お任せください!』
私はオークが迫ってくるのに合わせて、大きく後ろに下がりながら銃を撃った。信用していないわけじゃないけど、初めての相手だから一発で仕留めきれない可能性もある。そうなれば、あの巨大な棍棒の餌食になるしかない。
「ブモオオオオオオオオオオオ!」
棍棒を避けようとして動いたのが良くなかったのかもしれない。銃身が大きくぶれてしまった影響で、追尾が間に合わず、初弾はオークの右肩に着弾してしまった。
「サイアク……もしかしてもう壊れた?」
引き金を何回引いても2発目が発射されず、銃の内部が見えてしまっている。何回引き金を引いてもカチッカチッと乾いた音が鳴るだけで、反動もなにもない。
『危ない!』
鈴の叫び声に、咄嗟に〈セレリタス・メンティス〉を起動する。
オークの動きがスローモーションになる。眼前に迫っていた棍棒をバックステップで避け、そのまま銃をホルスターに戻しP-Bladeを鞘から抜いた。その瞬間、棍棒が地面を叩いたことによる激しい振動に襲われ、態勢を崩しそうになる。
「ブゥモォォォォォ」
残り10秒。
オークは立ち上がって、距離を取ろうともがいている。私は左側面に回り込み、少し前傾姿勢になったことで狙いやすくなった首をめがけて、力いっぱい刃を振り下ろした。
「かったいわね」
残り3秒。
両腕に全身の力をいれ、頸椎をどうにか断ち切った。鈍い音を立てて、オークの巨体が地面に倒れる。もし効果時間内で仕留めきれなかったら……そう考えただけでゾッとする。
「はぁー危なかったぁ。死んだかと思った」
『バイオインプラントがなければ死んでましたね』
「そもそもこの銃が壊れたのがいけないのよ」
『えっ……壊れてなんかないですよ!もしそんな兆候があったなら、すぐに鈴からお伝えいたします』
「でも、弾が出なかったじゃない」
『それ……本当に言ってますか?』
「ええ、もちろん」
私は胸を張って応えた。なにもおかしいことなんかない。ついさっきまでちゃんと使えていたのに、急に弾が出なくなったのは故障したに決まってる。それに、もしかしたら初期不良の可能性だってある。あれだけ高いお金を払って買ったのに、こんなにすぐにトラブルが起きるなんて、返品交換してもらうだけじゃ納得できない。販売元に文句を言ってやりたい気分だ。
『ただの弾切れです。10発までしか装填できないので補充が必要になります』
「どういうこと?補充が必要なんて聞いてなかったから、代わりの弾なんて持ってきてないよ」
『あー……そうですね、鈴の方から伝えておくべきでした。てっきり知っているものかと思っていたので』
:なんでこの配信者は独りでずっと喋ってるんだ?
:クスリでもやってんのか笑
:確かによく見れば防具もつけてない。絶対イカれてる
:そもそもどうやって倒したんだ?いきなりオークの首が胴体とさよならしてたぞ
:切り抜いて調べてみようぜ
:どうせ合成だろ
:銃を補充することも知らなかったのか笑
:世界は広いな
「とりあえず、先にN鉱石を回収しないと」
鈴との会話を切り上げ、モンスター図鑑からデータを呼び出す。『名称:オーク。モンスターランク:D。N鉱石サイズ:中』と書いてあり、ゴブリンの時と同様に、N鉱石の位置に赤い点が表示される。どうやら場所はゴブリンと一緒らしく、人間でいうところの心臓部分、つまり左胸にある。しかも残念なことに、うつぶせに倒れてしまっているから、ゴブリンみたいに仰向けにさせてP-Bladeを突き入れるみたいなことは、非力な私にはできない。
「背中から抉るしかないわけね」
肋骨を避けながら、魚の身をほぐすように肉を抉り取っていく。内臓は思いのほか、ゴブリンよりも鮮やかなピンク色をしていて、まだマシだった。
「あー、めんどくさ。もっと簡単に取れたらいいのに。ゲームみたいに倒した瞬間に鉱石に変わるとかさ……はぁ」
ぶつぶついいながらも、手は止めない私を褒めてほしい。内臓や肉片を散らかしながら、どうにかN鉱石を見つける。それはゴブリンのと同様に無色透明で、サイズは二回りほど大きい。ゴブリンのがSサイズだとしたら、これはMサイズ。買取価格を検索すれば、ひとつ1万円らしい。ゴブリンの20倍の価値がある。
「労力と手間を考えたら、オークを狩っていく方が効率は確かにいいかも。ピストルを使えば体力も温存できて時短になるし」
『そうです!その調子です!どんどんいきましょう』
「その前に弾の補充をしなきゃね」
:探索者って変な奴多いよな
:切り抜きからきました
:合成じゃないっぽいぞ、これ笑
:この声どっかで聞いたことがあるんだよね……気のせいか
いまの所持品はシークピストル、P-Bladeの二つしかない。余計な荷物は持ちたくないから、ポケットに突っ込めるものだけでダンジョンに挑んでいるけど、その発想がそもそも間違いなのかもしれない。
「すぅー、あれだね。鈴が教えてくれないのがダメなんだよ」
『えっ、鈴のせいなんですか?』
「うん!」
『そっそんなぁー』
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