生きた心地がしたかった

久米橋花純@旧れんげ

生きる意味が痛みに代わる

朝、起きると、胸がズキン、と痛む。

制服にそでを通すと、心が冷たく感じる。

玄関のドアも、とても、重い。


「いってらっしゃい」の言葉さえ、かけてもらえない。

私は生きる意味を、いつのまにか失ってしまった。

友達だって、いたはずなのに。好きな人だって、いたはずなのに。

学校へ行こうとすると、足が重くなる。おなかも痛くなる。


(行きたくない。どうせ行ったって、誰も……。)


話しかけてくれる人なんて、もういない。

数か月前を思い出すと、自分がみじめになってくる。

どうしてあのときは、話せてたんだろう。話しかけてくれる人がいたんだろう。


(結局、もういないから、意味なんて、ないんだけど。)


私は毎日、学校に行く”ふり”をして、近くの公園のベンチに座る。

誰かに、見つからないように。

誰かに、気づかれないように。




私は、ある程度、友達がいた。数か月前までは。

ある日を境に、急に誰も話しかけてくれなくなった。

私がどれだけ挨拶をしても、誰も、なにも言わない。


(私、生きてる意味、なんだろう。)


そう考え始める癖がなかなか治らない。あのときから。

自殺しようとしたのも、事実だった。

私のことを見向きもしなかった、親に、止められてしまったけど。


「ねぇ、一緒に行こ。」


そんな言葉さえ、もう耳にしていない。

だって、教室では、”いない人”だから。

私の机に、誰かのものが置いてあったって、私の席がどれだけ汚されていたって。

”いない人”の私は、なにも言えない。


ベンチに座って、朝の風に当たっていると、すべてがどうでもよく感じる。

そう、すべて——————尊いはずの自分の命でさえ。


(だって、誰も、私のこと、求めていないんだもの。

 もともと、いない人だし、私がいなくなったって、誰も困らないし。)


私はそう思いながら、来ることのない誰かを待ちながらベンチに座っている。





いつだって、私は私を好きだった。

彼らに、嫌われるまでは。無視されるまでは。

あの日からはすべての気力を失った。腕だってもう、動かせない。


だけど、足だけは、動く。

壊れかけの、あの、橋に向かって。

生きる意味を奪われた私は、もう生きない。

だから、最後の気力を振り絞って、あの、橋へ、向かっていく。


(生きる意味、あったら、どうなってたんだろう。)


生きる意味さえ、私が持っていれば、あの人たちにあんなことされようと、私は、生きていたのだろうか。

いいや、もう、いい。私は、ここで——————死ぬんだ。


壊れかけの、橋。そこに足を踏み込むと同時に、私の視界はぐらっと揺れる。

そこからの記憶は、もう————————————。

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