第5話

 悪とはなにか、社会に反する者。

 犯罪に手を汚す者。

 あるいは異教徒。


 その日アクマリーゼの屋敷が襲撃されました。

 背中に天使のような羽尾を生やした修道女たちです。

 修道女たちは2丁拳銃を乱射しながら、屋敷に突入しました。


 「アクマリーゼは悪魔崇拝している疑惑がある! 祭壇さいだんを見つけ次第破壊しなさい!」


 複数人の修道女が屋敷の中を、翼を広げ飛翔します。

 その日はのんびり優雅に昼寝をしていたアクマリーゼは、この厄介な客を見て、のんびり言いました。


 「あらあら今日は来客は無い筈ですけれど」

 「アクマリーゼ! 悪魔崇拝疑惑で捕縛する!」

 「悪魔崇拝?」


 全く身に覚えがありませんね。

 そもそも悪魔が泣いて謝るアクマリーゼが、どうして崇拝する必要があるでしょうか。

 きっと彼女ならもう既に首輪を付けて飼いならしているでしょうし、頭のおかしな人たちです。


 「隠しても無駄だぞ、ここに悪魔がいる気配は分かっているんだ!」

 「まぁ悪魔と言えば悪魔ですけれど……」


 その瞬間、部屋の各所から悲鳴が上がりました。

 修道女が見えないなにかに襲撃されているのです。


 「悪魔だ! 速すぎて捉えられない!」

 「弾幕だ、弾幕を張れ!」


 無数のマズルフラッシュが焚かれ、銃弾が通路を埋め尽くします。

 しかし悪魔――サフィーは弾丸を縫って接近し、修道女の首を一度に二つ切り落としました。


 「ウフッ、良い音ねぇ」

 「くっ、悪魔めぇ!」


 アクマリーゼはご満悦、ちょっと逝っちゃったみたいです。

 一方やられた修道女は激昂し、サフィーに向かって魔法を放ちます。


 「悪魔は滅びろぉ!」


 修道女が手で魔法陣を描くと、滅びの閃光がサフィーに襲いかかりました。

 流石にこれはまずいか、サフィーは身をひねります。

 滅びの閃光がサフィーの身体を焼くと、彼女は呻きました。


 「くあっ」


 サフィーは前のめりに倒れます。

 修道女はやったと、喜悦を浮かべました。

 サフィーの髪を引っ張り持ち上げると、彼女の髪の中に隠れていたつのの存在を確認します。


 「紛れもない、貴様が悪魔か、生かしてはおかん!」

 「サフィーを殺していいのはわたくしだけよ」


 ぞっとする気配が修道女の真後ろにありました。

 無力と放置していたアクマリーゼですが、その実彼女の実力はあんまり知られていません。

 能ある鷹は爪を隠すと言いますが、彼女自身は隠しているつもりはないんですけれどね。


 「アクマリーゼ!?」

 「アハハッ、泣け、叫べ! 羞恥に打ちひしがれなさい!」


 彼女はに修道女の羽根を引きちぎりました。

 修道女は悶絶、凄まじい痛みに呻きます。


 「あああああっ!? ば、馬鹿な……聖なる加護がただの腕力で?」

 「なんのことでしょう、さぁ本番はここからですわよ」


 アクマリーゼはワキワキと両手の指を動かします。

 おやおや修道女は良いおっぱいを持っているようです、このまま陵辱プレーは待ったなし!


 「こっちだ! 撃て撃てー!」

 「ちぇ、後もうちょっとでしたのに」


 アクマリーゼは迷わず羽根を千切った修道女を盾にしました。

 修道女の使う聖なる拳銃は本来悪魔に特攻で、聖なる加護を持つ修道女には効かない、筈なのですが。


 「アバーッ!?」

 「アハハッ、良い音!」


 ですが羽根を失った修道女は銃弾を受けて、ぐちゃぐちゃに潰れます。

 どうやら羽根こそが加護であり、羽根が無くなるともう神からすれば異教徒扱いなのでしょう。

 まぁ合掌はしておきましょうか、ナムアミダブツ。


 使い物にならなくなった修道女を放り捨てますと、アクマリーゼは銃撃を続ける二人に接近しました。

 修道女たちは、巧みな連携でアクマリーゼを追い込みます。


 「ふところに入れさせるな!」

 「蜂の巣になれ!」


 弾幕、さしものアクマリーゼもこれは避けきれない。

 ですが何故か弾丸はアクマリーゼに当たっても、効果がありません。


 「……? 痛くない、ちょっとガッカリですわ」

 「ば、馬鹿な聖なる弾丸が効かないなんて!?」

 「まさか免罪体質!?」

 「なんですのそれ?」


 免罪体質、ごく稀にですが、聖人と呼ばれる人間がいます。

 聖人は聖なる力を生まれ持っているので、聖なる弾丸は通用しないのです。

 ではアクマリーゼは聖人なのでしょうか……答えは免罪体質です。

 アクマリーゼは倫理価値観の全く無いサイコパスですが、彼女は自分を裏切ったことは一度もありません。

 悪魔に誰よりも近いといえるその人格は、極めて聖人に近い免罪体質を持つのです。


 「なんだか釈然としませんが、どっせい」

 「ぎゃあ!?」

 「くぎゅう!!?」


 修道女を掴むと、そのまま投げつけます。

 もはや修道女の武器が何も通じないと確定した彼女らに手はありません。

 そのまま折り重なると、目を回して気絶しました。

 これにはアクマリーゼもがっかり、やっと悪らしい行いが出来ると喜んだのに。


 「中々悪の道というのも上手く行きませんわねー」


 何をやっても実は天才級のアクマリーゼ。

 彼女の人生はもしかすると退屈だったのかも知れません。

 彼女は修道女に飽きるとサフィーの下に向かいました。


 「サフィー身体大丈夫?」

 「め、面目ありません」

 「サフィーでも存在を消せる訳じゃないしね、ほら、わたくしの血を吸いなさい」

 「そ、そんな畏れ多いことサフィーは」

 「いいから」


 無理矢理サフィーに腕を噛ませます。

 サフィーはアクマリーゼの血を吸血すると、恍惚な表情で悶ました。

 崇拝するご主人さまの血はなによりも尊く、彼女の傷を癒やします。

 サフィーたち悪魔は聖なる力の治癒は受け付けない代わりに、血で癒やします。

 昔怪我したサフィーにアクマリーゼが治癒の魔法で治そうとしたら、致命傷になったのは良い思い出でしょうか。

 その時アクマリーゼは、「サフィーの壊れる音、美しいわ」なんてほざきましたが。

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