唯一のマウンド

藍澤 駿

第1話 はじまりの一球

真夏の太陽が、甲子園の黒土を照りつける。

 観客席を揺らす大歓声の中、唯はゆっくりとマウンドへ歩みを進めた。


 背番号は「18」。

 3年生でありながら、帝都高校で最後までベンチを争った控え投手。

 本来なら、この舞台に立つのはエースか二番手のはずだった。

 だが運命の巡り合わせか、監督は決勝戦の大事な場面で唯を送り出した。


 「ここでお前に託す」


 その言葉が胸の奥にずっと響いている。


 ――ついに来た。俺の出番が。


 マウンドから見下ろすバッターボックスには、聖央学院の主砲・影山 一。

 同じ町で育ち、小学生の頃からボールを投げ合った相手。

 才能の差をいやというほど思い知らされ、それでも追いかけ続けてきた宿命のライバルだ。


 影山が構える。

 その姿を見た瞬間、唯の意識は春に引き戻された。



 背番号が一枚ずつ配られる、春の大会前日。

 3年の春、ようやくチャンスが巡ると信じていた。

 しかし唯の手には、最後まで番号が渡らなかった。


 「唯はベンチ外だ」


 監督の言葉が胸を突き刺す。

 ベンチ横で声をからすことすら許されない悔しさ。

 あの時、影山や他校の同級生が主役として輝く姿を、ただ観客席から見上げるしかなかった。


 ――二度とあんな思いはしない。



 キャッチャーのサインが構えられる。

 唯はボールを強く握り直した。

 甲子園決勝、宿命のライバルとの対決。

 背番号18でもいい。3番手でもいい。

 今だけは、この瞬間だけは、自分が「帝都高校のエース」だ。


 大歓声の渦の中、唯は大きく振りかぶった――。

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