第10話
「ステファニー! こっちは緊急事態なんだ!!」
フレッド殿下が遠征中に大けがをして意識不明の重体で帰って来た。戻って来るなりアランは大急ぎでステファニーに助けを求めた。
「ちょっと待って!」
「もう待てない! フレッドは死にそうだって言ってるだろ!! 開けてくれないならドアを壊すぞっ!!」
幸いなことに、ステファニーは自分の部屋にいたが、どういうわけか? 彼女はドアを開けてくれない。アランはもうそれ以上は耐えられなかった。開けてくれないのならドアを破壊して強引に入ると怒鳴り声を上げた。
「裸なの……」
「え?」
ステファニーは落ち着いた声で裸だと口にした。その瞬間、顔を赤くして大激怒していたアランは戸惑うような表情を浮かべた。
「私、お風呂に入ってたから……」
「……それは悪かった。でもそれなら早く言ってくれよ……ごめん」
フレッドが死にそうなんだ。急を要する問題が起こったと煮えくり返るような思いのアランは、ドアを蹴り破って突入しようとしていた寸前であった。だがその気持ちは急速に薄れていく。それどころかステファニーに対して謝罪を行った。彼女は、お風呂に入っていて十分な衣服を身につけていないと告白した。
淑女に対してデリカシー皆無の発言をしてしまった事をアランは恥じた。紳士的な振る舞いを常に心がけている彼は、自分の情けなさで涙がにじんでくる。言い訳のしようがないという思いで泣き顔になった。
単なる時間稼ぎにしかならないとステファニーも分かっていた。それでも彼女が今できる唯一の方法なのである。彼を冷静な態度にさせた事で彼女は頭の中を整理することが出来た。
(フレッドには防御魔法をかけたはずなのに……どうして大けがをするの? それに最近はフレッドとアランが私に対して反抗的なのよね……誘惑魔法の効果が切れたみたい)
遠征に行く前にフレッドには守りの加護を与えた。以前なら極めて強力で、どんな攻撃や危険などからも身を守ってくれる完全な防御魔法だった。やはり聖女の力が弱まっていることが原因なのかと、不安そうな顔になって頭を抱えた。
その他にもステファニーには頭を悩ませ続ける問題があった。フレッドとアランの催眠が徐々に解けはじめているのだ。これも彼女の力が前よりも弱まっている決定的な証拠だろう。さらに近頃の二人はセリーヌの無実を晴らすべく、独自に事件の調査を進めている。
フレッドとアランには婚約破棄した時の記憶もないし、
「――ステファニー?」
「ごめんなさい。もう少し待って……突然で驚いて……」
「わかった。でも早くしてくれ」
アランには、ほんの30秒ほどの沈黙が無限の長さに感じられた。何も出来ない自分に我慢ならなくてステファニーに声をかけた。さっきまでと比べて優しく言葉をかける。
彼女は完全に準備を整え終わっていますが、聖女の力が弱まっている事に不安でした。今の自分に息も絶え絶えのフレッドの体を治せるのか? でも自分がやらなければ彼は命の炎が燃え尽きてしまう。
「うん、わかった。フレッドは今どこに?」
「俺が抱きかかえているよ。だからドアを開けたら、すぐにフレッドの体に回復魔法をかけてほしい」
「まかせて!!」
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