第1話 親父の生き霊 後編
また違う日に、それこそ色んな友達混合で家で溜まっている時に、ひとりが「原さんのオヤジさんってさー」といきなり言い出した。
俺は、「あれ? 何でコイツ俺の親父の事知ってるんだろう?」と思ったが、そのまま話を聞いていると、
「俺がトイレ行くと、ほとんど必ずトイレに鍵が掛かってて、ドアの前で待ってると、オヤジさんが出て来て、狭い廊下を譲り合うんだよねー高確率でw」
みたいな話をしている。
それを聞いた奴も、
「そうそう!かなりの高確率でトイレで鉢合わせるよねーw」
みたいに、彼らの中では「あるあるネタ」扱いな話の中に、親父が登場していた訳だ。
絶対におかしいと思ったので、俺は口を挟んだ。
「わざわざ話す様な事でも無いと思って話して無かったけど、俺の親父は俺が定時制に入り直す前に失踪しちゃったんだよね。だから、この家にはしばらく親父は居ないのよ。」
と言っても、友達みんなはキョトンとしていた。
「え?じゃあさっき会った人は誰なの?」
とみんなが言い始めて、これは何かとんでも無いことになってると言うことに、ようやく気付いたんだよね。
そんで俺は、
「あーこれが生霊ってやつか」
と思った。
そこから俺が気付いたからか、結構な頻度でポルターガイスト的な事が起き出したんだよ。
部屋の電気のスイッチがみんなの前でカチカチなって部屋が明滅したり、部屋の前までドタドタ人が歩いて来たかと思ったら誰も居なかったり、隣の親父の部屋からノックがしたりと、バリエーションに富んだ親父からのアピールが頻繁に起こる様になった。
「親父、本当は帰って来たいんだろうなー。何も生霊にまでならなくても、、、」
なんか変だけど、「一番辛いのは親父なのかもなー」と思ったんだよ。
みんなの中にはビックリして怖がる奴もいたけど、俺は全く怖く無かった。
そりゃ自分の親父だって分かったら、うるせーなーとは思うけど怖くは無いからね。
ある日の放課後、定時制高校で一番仲良い奴とふたりで俺の家に帰ると、母ちゃんが泣きながら駆け寄って来て、
「お父さん帰って来たんだよ。今リビングにいるから、会ってあげて。」
と言われて面食らったが、ちょうど新しい友達もいるし、近況報告ついでに、親父に紹介しようと思った。
その彼にとって親父は「いつも会ってるオヤジさん」だったはずだったのに、改めて初めて紹介するという、不思議な状況になってしまっているが、まあそれも良いだろう(笑)。
これからはポルターガイストなんか使わずに、直接やり取り出来る訳だしね。
「おう、昌和。久しぶりだな。ごめんな。会社も金も無くなって、お前達に合わせる顔が無くなっちまってな。そんでこんな風に出て行ってしまって。本当にごめん。」
久しぶりの親父は少し痩せていた。
「親父も親父で辛かったんだろ? 俺は俺で高校も新しく入り直してさ、友達も出来て、楽しくやってるから気にすんなよ。でも次やったらその時は、そこの荒川にお前ぶち込んで流すからな(笑) あそんで、こいつは定時制のおんなじクラスの友達。」
と彼を紹介すると彼は
「友達やらせてもらってます! 今日もお邪魔させてもらいます。夜遅くにすみません。」
と少し緊張した感じで挨拶をしていた。
「ゆっくりしていきなさい。いつでもおいで。」
親父は嬉しそうに挨拶に答えていた。
「それでは失礼します!」
と俺の部屋に、彼は先に向かい始めたので、俺は親父にニッコリ笑って俺も追っかける様に自分の部屋に向かった。
するとその友達が、俺の部屋に入るや否や、内側から急ぐ様に鍵をガチャっと掛けて、ドアノブに手を置いたまま、小刻みに震えている。
「ん? どした?」
と聞くと
「原さん。俺、今から怖い事言うよ。いい? 怖い事言うよ?」
と怯えた声で言って来た。
俺はなんかいつもと違う異様なそいつの様子に変な緊張で、唾を飲み込みながら、頷いた。
「原さん、いつもみんなが見てるオヤジさんって呼んでいる人。親父さんの生霊なんかじゃ無いよ」
「ぜんぜん しらない ひとだよ」
じゃあ、俺が親父の生霊って思って安心していたものは、一体何なんだろうか。
何で、俺にだけ見えないのだろうか。
———『親父の生き霊』完———
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