修練の果ての決闘ー急ー

大気が震える。

その雄たけびは私の元まで届く。

彼女が生み出す暴威は『例の話』が本当だということを如実に表している。


『暴虐の姫』アナトリア。

彼女は樹海勢力と大森林勢力というアマゾネスの二大勢力が結んだ『大河同盟』の結果、産み落とされた。

正確には樹海勢力のトップと大森林勢力のトップが交わった結果なのだが・・・・


彼女の強さは同世代のアマゾネスの中でも隔絶していた。

誰よりも強く、誰よりも狂暴。


そんな暴力の塊を二大勢力は歓迎・・・・・しなかった。

あろうことか彼女を無視した。

意味があったのは同盟なのであって、アナトリアではなかった。

それだけの話だった。


そんなタガが外れた暴力の行き先など一つしかない。

彼女は同族をいたぶった。鮮烈に、強烈に。

その結果、命を落とした同族もいたという。


二大勢力は困った。もちろん彼女の処遇について。

そして決めた。他の種族に投げてしまおう・・・・と


そんな他種族に丸投げされた彼女の行き先、白羽の矢が立ったのはこの学院というわけだ。


だからこそ、学院は今まで彼女の処遇についてもめていた。

だが、学院はもめこそすれど、何とかなると思っていた。

彼女にアーティファクトの首輪をつけたから大丈夫だと。


実際、機能していたところを見るとその方策は正しかったのだろう

この時までは・・・


パリン。首輪が割れる。

首輪は膨大な魔力を抑えることができなかった。


驚愕。生徒たちの表情はまさしくそれだ。

私も驚いている。

その魔力量は桁が違う・・・違いすぎる。

私が言うのもなんだが、一学生が持っていい量じゃない。


アルデバランは嗤っている。

・・・・・バカなのかな?死ぬよ君。いやマジで。

すごい後ろの方で嘔吐している子もいるし・・・


「マーキュリー。どうにかなると思うか?」


ゴミが女史をつけることを忘れているところを見るに相当慌てているな。

私は別に大丈夫。

もし来たら迎撃すればいい。・・・最悪の場合、姿くらまして、はるか上空からあの魔法を撃てばいい。


こんなときにいうのもなんだが、この先の展開が楽しみで仕方がない。

アルデバランはどう動くのか?

暴虐の強さの一端が見れる。

失礼な話、この決闘は私にとって最高の道楽だ。


暴虐が動いた。


「速ッ!!」


一瞬でアルデバランに肉薄。

アルデバランは『冥腕』でガードしようとするが、一瞬遅い。

一撃必殺級の拳がアルデバランを襲う

アルデバランが森めがけて吹き飛ぶ。


暴虐が走る。

魔力だけであの速度ってやっぱり化け物だ。


森は視界が悪いから二人のことが見えやしない。


と、急に森の方からアルデバランが吹き飛んできた。血しぶきと共に。

地に落ち、ズザザザッと地面を抉る。


おもむろにアルデバランが立ち上がる。


「ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“!!!もう知るかァァアア!!!!」


何を叫んでいるんだ?

森の方から暴虐が飛び出してきた。

アルデバランが腰もとで拳を固める。

・・・・・え?


「ガアァァアア!!」

「オラァァァアアア!!」


両者の拳がぶつかる。

アルデバランの拳が勝てるわけもなく、アルデバランの腕があらぬ方向に曲がる。

暴虐は着地し、体を逆向きに向けアルデバランに追撃しようとしたが、闇の腕によって吹き飛ばされる。


「来いよ!クソゴリラ!!俺が!!てめぇのことぶっ倒してやるよ!!!」


本当に何を言っているんだ?

ゴリラ・・・違う違う。アナトリアが嗤う。

なぜか、その笑顔は心の底から出た表情だとわかる。

アナトリアが肉薄する。

一発。二発。三発。と尋常ではない量の魔力を纏った拳がアルデバランを襲う。


アルデバランは守るだけ。ただ、魔力を集中させて、守るだけ。


アナトリアがさらに拳を固め、先ほどよりも強い一撃を放とうとしたとき、先ほどよりも巨大な闇の腕が彼女を掴む。


「バカスカバカスカ殴りやがって!どっかに飛んでこい!!」


闇の腕が回転し、アナトリアをあらぬ方向へ投げる。

これまたすさまじいスピードでアナトリアが吹っ飛んでいく。


アルデバランがフラつく。

だが、その目は勝負が決まったときの表情ではない。

「絶対に次がある」と確信した目だ。


その時、あらぬ方向からアルデバランに向かって突き進む何かが起こした土埃が見える。

その何かが姿を現す。いうまでもなく、アナトリアだ。


アナトリアがアルデバランを補足すると、さらにスピードが上がる。

アルデバランは腰を落とし、両腕を広げた構えをとる。


尋常ではない魔力を垂れ流しながら一直線にスピードを上げ続けるアナトリア。

頭から血を垂らしながら、その突撃を迎え撃つ構えをとるアルデバラン。


その瞬間は必然的に訪れた。


アナトリアが拳を前に突き出す。

アルデバランは一瞬、たったの一瞬早く横にそれ、避ける。


アナトリアは数歩進んだ先で大回転。

追撃の突きをするが、アルデバランに触れられず、前かがみに転ぶ。


影の腕ががっしりとアナトリアの足を掴んでいた。


闇の腕の追撃ラッシュ

そして、腕でつかみ、上昇させる。

アナトリアが中で暴れ、腕の形が崩れていくが、離さない。


「終わりだ!!世界の核まで行ってこい!!!!!」


闇の腕が回転する。

回転速度が徐々に早くなる。

・・・・腕の輪郭がボヤける。


そして、アナトリアを地面に向かって落とす。

地面が抉れる。

アナトリアの姿が見えなくなる。

地面が震えている。


闇の腕が霧散する。どうやら魔力が切れたらしい。


アルデバランが膝から崩れ落ち、片腕を地面につける。


地面はまだ震え続けている。

そして止まる。


誰もが終わったと思った。その瞬間。

ゴゴゴゴゴゴゴゴと地面が揺れる。


掘られた穴からアナトリアが飛び出してきた。

その姿を見た者達が絶望する。

アルデバランも空を見上げ、諦念を顔で、表情で表している。

あり得ないほどの魔力を垂れ流しながらアナトリアは地面に両足をつける。


アナトリアが拳を固める。魔力が纏う。

拳が振るわれる直前、拳に纏った魔力が霧散する。

そして、アナトリアは腕をだらんと下げ、膝から崩れ落ち、前のめりに倒れた。


アルデバランはそれを見て、膝を立て、フラフラと立ち上がる。

正常な片腕を上げ、叫ぶ


「勝ったぞぉぉぉオオオオオオオ!!」


『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』


決闘を見ていた生徒たちがはちきれんばかりの大声で叫ぶ。

私の腕がプルプルと震える。

すごい!ほんとに勝った!!信じられない!!!

私は跳ねたい気持ちでいっぱいになる。


アルデバランが後ろ向きに倒れる。


倒れたアルデバランに対して笑いが生まれる。

だが、本気で彼をバカにしている者は少数だ。

全員嗤いたいから笑っているわけではない。緊張の糸が切れたからだ。


マクシミリアンゴミがすごい表情をしているの見て私は苦笑してしまった。



この日、アナトリアは人生で最初の敗北を迎えた。

アルデバラン・プレイアデスという男がアナトリアに勝利を収めたのだ。

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