「餌代の無駄」と追放されたテイマーの俺、実は家族(ペット)が装備に祝福を与えていたらしい。加護を失い崩壊する元仲間を尻目に、辺境で美少女化する家族たちとのんびり牧場を開いて最強国家を建国します
天音ねる
第1話 偽りの栄光
空気が悲鳴を上げていた。
地獄の釜の底を煮詰めたような灼熱が、あらゆるものの輪郭を陽炎のように揺らめかせている。足元では、赤黒い溶岩が巨大な血管のように脈打ち、時折、堪えきれない熱の塊を破裂させては、焦げ付くような硫黄の匂いを撒き散らした。
ここは、大陸有数の高難易度ダンジョン、『古竜のねぐら』。生半可な冒険者が足を踏み入れれば、その骨すら残さず灼熱に呑み込まれるという、文字通りの死地である。
その最深部、巨大な溶岩溜まりを眼前に望む広大な空洞で、伝説は今まさに、その輝きを増そうとしていた。
「グルオオオオオオォォォッ!!」
大地を揺るがす咆哮は、それ自体が質量を持った暴力だった。空洞の天井からは、衝撃に耐えきれなくなった岩石がぱらぱらと降り注ぐ。
咆哮の主は、一頭の古竜――ファイアドラゴン。その巨体は小高い丘ほどもあり、全身を覆う紅蓮の鱗は、溶岩の光を反射して禍々しく輝いていた。数百年という永い時を生き、その身に蓄えた魔力は、もはや天災の域に達している。
吐き出される灼熱のブレスは、岩盤すら容易く溶解させ、一振りされる尾は、屈強な戦士を鎧ごと肉塊に変える。まさしく、絶対的な死の化身。
だが、その絶望的なまでの威容を前にしても、臆することなく立ち向かう者たちがいた。
Sランクパーティ、『紅蓮の剣』。
大陸にその名を轟かせる、英雄たちである。
「怯むな! 奴の動きは単調だ! ガレス、前に出ろ! セシリア、詠唱を始めろ!」
凛として、それでいて戦場を支配する力強さを秘めた声が響く。パーティのリーダーにして、王国が認めた勇者、アレク・フォン・グランツ。燃えるような赤髪をなびかせ、その金の瞳は、眼前の古竜をただの獲物として捉えていた。
彼が腰に佩いた一本の剣。それこそは、彼が勇者たる所以、聖剣『グランツェリオン』。鞘に収められたままでありながら、その刀身からは抑えきれない神聖な光が漏れ出し、周囲の邪気を浄化していく。
「言われるまでもねえ!」
アレクの指示に応え、雷鳴のような雄叫びと共に前線へ躍り出たのは、筋骨隆々とした巨漢の戦士、ガレス・アイアンアームだった。身の丈ほどもある巨大な戦斧を、まるで小枝のように軽々と肩に担いでいる。
ドラゴンの薙ぎ払うような爪撃を、彼は巨大な塔の盾で正面から受け止めた。ゴウッ、と空気を引き裂く轟音と、金属が軋む不快な音が交錯する。常人ならば盾ごと腕を砕かれているであろう一撃を、ガレスは歯を食いしばり、その場に仁王立ちとなって耐えきった。
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